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2018.01.29

天ヶ瀬ダム再開発トンネル減勢池部建設工事

ダムの治水能力を高める日本最大級の水路トンネル
天ヶ瀬ダム再開発トンネル減勢池部建設工事

天ケ瀬ダムの放流を受ける宇治川。ほとりでは水路トンネルの掘削作業が進む

1964年に大林組が建設した天ヶ瀬ダム

京都・宇治市の中心部から宇治川を約3kmさかのぼると「天ヶ瀬ダム」がある。美しいアーチ型コンクリートダムでは、現在、再開発事業として、治水機能の向上を主目的とした国内でも珍しいトンネル式放流設備の建設が進められている。大林組JVが担当しているのは流水の勢いを抑える減勢池部と呼ばれる工区。日本最大級の超大断面を持つ水路トンネルを構築する。

毎秒600m³の放流量に耐える大断面トンネル

日本最大の湖・琵琶湖から流下する宇治川は、大阪湾に注ぐ淀川水系の本流であり、近畿地方の重要な水源となる河川だ。天ヶ瀬ダムは、宇治川をせき止めて流水量を調節することにより、琵琶湖周辺と淀川流域の浸水被害を防ぐ治水機能や、水力発電所への送水量の増強、下流地域の水道水の確保という利水機能を有する多目的ダムだ。

鳳凰湖から宇治川への水路トンネル。大林組は減勢池部(赤点線)を建設

鳳凰湖から宇治川への水路トンネル。大林組は減勢池部(赤点線)を建設

一般的な道路トンネルの7~8倍もの断面積で、水路トンネルとしては日本最大級

一般的な道路トンネルの7~8倍もの断面積で、水路トンネルとしては日本最大級

今回の再開発事業では、ダム貯水池(鳳凰湖)と宇治川の下流を結ぶバイパスを構築する。完成すると毎秒900m³だった放流量が1500m³に増え、貯水量の効率的な調整が可能となる。

トンネル内に築造する減勢池部は、流入部で取水した鳳凰湖の水を宇治川に放流する際に、高低差(50~60m)から発生する水勢をそぐ役割を担う。工事の特徴は何といっても水路となるトンネルの圧倒的な断面サイズで、施工延長の5割に相当する箇所のトンネル内空が、高さ約26m、幅約23m、仕上がり断面積500m²に及ぶ巨大なもの。これは、地下に建設される発電施設や石油・ガス貯蔵施設に匹敵する大きさだ。

最初に小さなトンネルを掘削

中央導坑(赤破線)と、トンネルアーチ部(赤実線)の左右に構築する側壁導坑(水色)

トンネルの断面図

トンネル断面図。アーチ部の掘削後、地盤をさらに約18m下まで切り下げ大断面を完成させる

掘削断面が大きいことから、トンネル工事を安定して進めるために、まず小さなトンネルの掘削から始めた。トンネルアーチ部の左右と中央に小さなトンネルを掘削し、次にアーチ部全体を掘削。段階を経て、大きな断面へと広げていくのだ。

まず取りかかったのは、アーチ部から耳のように張り出す側壁導坑の掘削だった。掘削後、コンクリートが充てんされる側壁導坑の役目は2つあった。

一つは地山の荷重がかかるトンネル上部のアーチ部を支持すること。もう一つは掘削時に地山の状態を確認し、後に行う大断面トンネルの掘削作業にその情報を反映させるためだ。側壁導坑の掘削はNATM(ナトム)工法で進められた。NATM工法とは、地山が本来持つ耐荷能力を活用し、吹き付けコンクリートとロックボルト(地山に打つ鉄筋棒)を主要な支保部材としてトンネルを掘進する工法。しかし、掘削が終盤に差しかかった時、想定よりも1.5倍大きい、幅(奥行き)約14mに及ぶ破砕帯が立ちはだかった。

軟弱な地質を柱列状の壁で支える

破砕帯とは、粘土分を多く含む軟弱で崩れやすい地質のこと。当初設計されたトンネル支保部材や覆工コンクリートでは、土圧に耐えられないことが判明した。特にこのトンネルは縦長の断面を持つため、横からかかる土圧への対策が不可欠。トンネル技術部門をはじめとした関係部署と解決策を模索した。導き出されたのが、土留めの代わりとなるRC(鉄筋コンクリート)造の円柱支保工を、破砕帯区間のトンネルの両側面に構築することだった。

RC円柱支保工(右4本、左2本)が壁となり、土圧に耐える

RC円柱支保工(右4本、左2本)が壁となり、土圧に耐える

掘削範囲の一部に破砕帯が存在したため、トンネル支持力を確保する側壁導坑を拡幅し円柱支保工を施工

掘削範囲の一部に破砕帯が存在したため、トンネル支持力を確保する側壁導坑を拡幅し、円柱支保工を施工

拡幅した側壁導坑の直下で、直径3m、平均深さ16mの立坑を掘削。ここに鉄筋を配し、コンクリートを打設するという手順で左右合計6本の円柱支保工が造られた。トンネル内に杭状の構造物を造るという世界でも類を見ない試みで、これから始まる超大断面掘削に向けた課題に対処した。

RC円柱支保工を構築するため、直径3mの立坑を掘削

RC円柱支保工を構築するため、直径3m、深さ16mの立坑を掘削

先行掘削と多機能な建設機械で工期短縮

破砕帯対策による工期の遅れを防ぐために、並行してトンネルの一部となる直径約6mの小さなトンネル、中央導坑を掘削。上流側にあるシュート部の施工に前倒しで取りかかった。

また、出入口となる坑口(こうぐち)部が急峻な斜面下にあり、建設機械を仮置きするヤードの確保が困難だったことから、1台で複数の作業が可能な建設機械を導入した。発破のための削孔と装薬、ロックボルトの挿入ができる「3ブームのドリルジャンボ」や、鋼製支保工の建て込みとコンクリートの吹き付けが可能な「エレクター一体型コンクリート吹付機」などを活用したことで、建設機械の入れ替えで発生する時間のロスを大幅に削減した。

3ブームのドリルジャンボ

削岩機と作業用バスケットの両方が装備された3ブームのドリルジャンボ

後世に残る仕事を「和」で造る

所長の村上は「長丁場の工事を無事故で終えるためには、作業員も含めた関係者全員の『和』が重要。密なコミュニケーションが大事です」と述べ、作業員一人ひとりに声をかける。「人々の安全を支えるインフラ工事なので、できる限り早期の完成をめざしています。そしてこのダムのように、語り継がれる立派なものを造り上げたい」と語る。

再開発事業全体の完了予定は2021年度末。天ヶ瀬ダムがさらに力強く生まれ変わる。

天ヶ瀬ダム再開発トンネル減勢池部建設工事
(取材2017年7月)

●工事概要

名称:天ヶ瀬ダム再開発トンネル減勢池部建設工事

場所:京都府宇治市

発注:国土交通省

設計:大林組、飛島建設

概要:施工延長166m(NATM、最大掘削断面積約650m²)

工期:2013年10月~2018年2月(予定)

施工:大林組、飛島建設