季刊大林

 

季刊大林ホーム
 
1 2 3 4 5
    戻る   進む   目次    
大林組
ピラミッド
 

“Zu bauen heiβt zu transportieren”
「建設とは運搬なり」という。

いま、ピラミッドの建設計画に当たって私たちグループがモットーとしたのも、それであった。正しい手順で、正しい場所へ、正しい時間に運搬が行われるために、どんな準備といかなる計画が必要であろうか。
その準備と計画をひとつひとつつめていくと、そこにピラミッドの持つ創造の美が生まれてくる。ここに、多くの資料をもとに、大林組の技術の粋を集めた研究の一部を紹介しよう。

1. なぜピラミッドの建設計画をたてるか

古代人が営々辛苦築いた巨大な建造物にはその建設目的、規模、技術など、現代の私たちには計り知れない謎が秘められている。
そこには巨大建造物の必要を求めた当時の社会的、政治的背景があり、私たちは敬虔な態度で、これに接することが最も自然な姿ではないかと思われる。しかし、私たちが本当にその偉大さを深く認識し、評価し、称賛するには、もっと積極的に近づき、当時の人になりきってその困難さに接することから始めなければならないであろう。なるほど、現代の私たちは彼らと価値観を異にしながらも、さまざまな技術を継承して今日に至っている。したがって、その困難さには、おのずと差異があり、等価で判断することは危険である。

しかしながら、あの雄大な古代エジプトのピラミッドの前に立つ時、現代ならばどのくらいの年月と費用、そして労働力でこれを完成させることができるのか、誰しもが一度は考えてみるにちがいない。特に建設に携わる技術者にすれば、巨大さと巧緻の交錯した建造物はことさらに魅力的であろう。ことピラミッドに関していえば、4,600年の昔、膨大な労働力を動員し得た権力者への驚きに加えて、この大事業を企画推進したスタッフ、すなわち頭脳集団と、これを支えた組織力、技術力の量と質を評価したい。特に権力、財力の下で要求される内容に、組織と技術はいかにこたえてきたか、非常に興味がわくところである。
オリジナリティーを尊重する立場からすればピラミッド建設には抵抗があろう。しかし、建設を前提に計画を試行することにより、時代を越えて建設技術に対する正しい評価、すなわち建設の技術を問い直すことができるものと考え、あえて私たちはこの計画を試みたのである。ピラミッドの高さ、勾配、一個一個の石の大きさを決定し、それらを積み上げる過程には、美に対する感覚と豊富な経験が必要である。すなわち“技術とは合理であり、原理原則の発見”である。
「建設とは運搬なり」に示されるように、建設が創作の美、機能の負荷、構造の解析、素材の選択を経て、実際に物を造るフィールド作業の段階になれば、それは、正しく垂直水平の運搬活動である。正しい手順で、正しい場所へ、正しい時間に運ばれることが不可欠なこの運搬には、周到な計画と準備が必要であり、その良否によって、建設の費用と期間は大きく左右される。
 

2. 大ピラミッドをどこに建てるか

計画立案に先立ち、次のような条件を設定した。
(1)建設する場所はエジプトのギザ郊外とする。(位置図参照
(2)規模はクフ王のものと同型とする。
(3) 石材は古代人の使ったものと同質のものを同様の採石場から求め、加工精度も同等とする。
(4)建設技術は現代の技術を駆使する。
(5)主要な工事機械は日本より現地に持ち込む。
(6) 設計ならびに施工管理は大林組社員が主体となり、現地スタッフの協力を求める。

3. 資料の収集と仕様の決定

ピラミッドの研究は盛んである。ナポレオンの遠征以降、急速に文献が増えたのであるが、私たちは、現在入手できるさまざまな資料をもとに検討を進めた。
エジプトではカイロ国立博物館をはじめ、国立図書館、ヘルワン大学、観光省、イギリス大使館、領事館および図書館にその資料を求め、フランスにおいてはルーブル博物館の推薦したゴワイオン氏著「大ピラミッド建設者の秘密」を入手した。国内にあっては、国立図書館所蔵の資料、エジプト大使館のアドバイス、既刊の書籍文献等々に加え、現地調査資料から(断面図)を作成し、次のような仕様を得た。ピラミッドの高さ、基面幅、勾配、本体石の質と量、各段の石の大きさ、表石の形状寸法、仕上がりの精度、玄室の広さと巨石の寸法ならびに採石地、石と石の間隙処理、回廊の構造、これらを取りまとめたのが、表1 表2 表3 表4 表5 表6 表7 表8 表9 表10である。

ここで特筆すべきことは、本体石、表石の材質と、石積みの精度である。下層部の基底から4段は、カミソリの刃も入らぬほど密着させ、上部に進むにつれて、その間隙は広がっている。現地調査の結果、大回廊や玄室の空間部を除き、全体で数%の空隙があると推定され、各所にその空隙を埋めるための漆喰のされた跡がうかがえる。また本体石の材質は、ひと口に石灰岩とはいえ、ギザ付近に産出するそれは強度も比較的小さく、きめの細かい良質の大谷石程度を推定して間違いない。しかもギザ付近には、それらが水平層状にそして広範囲に露出し、現地の高台には無尽蔵にある。
表石は白色で、採石地は対岸に求めなければ良質のものは得られない。強度は本体石と同程度である。ところが、玄室を形成する花崗岩の巨石は付近のいずこを探しても見当たらず、遠く1,000kmも離れたアスワンダム近辺にまで求めなければならない。さらに巨石のうち最大のものは、500tにも上り、これらは全く別の方法で採石し、運搬しなければならないことがわかった。


位置図

4. 建設計画の要点

まず私たちは、ピラミッド建設に必要な石の数を計算しそれを採石、検査、運搬、据え付けという4工程に分けた。しかし、問題は本体構築の場が面積的にも空間的にも非常に小さいことである。特に据え付けの工程において、その問題が生じる。というのは、角錐状の構造物は工事が進み、高さが増せば工事量は激減する。すなわち、基辺の石の量を1とした時、高さが半分まで上れば、石の量は4分の1に減少する。さらに作業面積も同様に減少する。(表1
この中で注目すべきことは、高さ60m(全体の10分の4)で全石数の80%を施工することになるということである。ところが、石を垂直に移動させることの困難さはここから始まり、垂直移動の工夫こそが、この工事の鍵となることがおのずと分かってくるのである。

5. ピラミッドの建設計画

(1)労働者の街づくり
クフ王の大ピラミッド建設には当時毎日20万人が働き30年を要したといわれている。私たちはこれを5年間で完成しようと考えた。現代の機械施工により省力化を図ったとしても、機械運転工は必要であり、最盛期には、やはり3,500人の労働者が配置されていなければならない。ひと口に3,500人とはいえ、家族も考慮すれば、およそ1万人はここに居住することになる。正しく新しい街づくりから始めなければならない。
私たちの計画は、職長家族棟、労働者家族棟、独身者寮等を交え、これらを2km四方の中に配し、学校、モスク、食堂、市場、公園、浴場、集会場等公共施設も設ける。現在、エジプト政府は急増する都市人口の住宅対策として、次々と大型宅地開発を進めている。そこでこれに呼応し、ニュー・クフタウンの建設を提案し、事業完成後はピラミッドとニュー・クフタウンが百万都市ギザの郊外に誕生する。したがって私たちは、ピラミッド建設工事着工前に、ニュー・クフタウンの建設事業を準備工事として着手することになるわけである。

(2)電力設備
大きなプロジェクトが計画されると必然的に大容量の電力需要が発生し、他に及ぼす影響が大きい。今回の計画においてもエジプト国営電力には迷惑をかけない方針を貫き、全面的に自家発電力設備(9,000kw)によることにした。

(3)給排水設備
生活用水の確保は、1日2,000tの消費を考え、豊かなナイル河畔に1時間200tの取水設備を設け、数kmにわたって圧送する。1万人の汚水排水は完全浄化のうえ、工事用水(盛土締固め等)として使用するほか、再び大地の砂へ還元する。なお、これらの設備は当面工事施工中(5年間)をめどとしているが、しかるべき時期にギザ市の行政機関にゆだねられ、私たちが去ったあとも、すべての設備が十分機能できるよう計画する。

(4)運搬斜路の計画
本体石(90 cm立方体)は、1個当たり約2tある。いま仮に人力でこの2tの石を垂直に1m持ち上げる仕事と水平に1m移動させる仕事を比較して考えてみると、いかに大きな差があるか想像がつくと思う。この差の克服が斜路の考えであり、古代エジプト人の考えである。
先述のように建設の原点が運搬にあるとする考えから発して、運搬を効果的に行う場合、原則として次の点が考えられる。
 a 一単位の量を大きくする。
 b 運搬速度を増大させる。
 c 水平移動と垂直移動を同時に行う。
 d 流れの法線を変えない。
 e 運搬手段の切替えを避ける。
 f 摩擦抵抗を避ける。
 g 断続運搬より連続運搬を図る。
等々である。今回の私たちの計画においては本体石はピラミッドに忠実に建設するということで90cmとしたが、トランスポートの原則は十分に検討し生かした。
今日の機械施工ではクレーン、ジャッキの活用により垂直運搬は極めて安易に考えられる。しかし対象物が500tにもなる玄室の巨石を60mまで引き上げるとなると、どうしても斜路に頼らなければならない。40mに及ぶ幅員は石積みの進捗とともに盛り上げなくてはならない斜路の構築用車両(モータスクレーパー)が同時に走行することができるために計画したものである。表面は完成した部分より逐次舗装し、完璧な輸送路として活用する。

 
 
1 2 3 4 5
  戻る   進む   目次   ページトップ