難工事への挑戦 Challenging Projects

自然そのものである山や岩を構造体とするトンネル。その建設には、AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を積極的に導入し、建設技術は常に進歩を続けています。また、最新のテクノロジーには、従来から研究を重ねてきた工学、水質・地質学、岩盤力学など広範囲にわたる知識や経験が活きています。ここでは、さまざまな技術と知恵で挑んできた国内屈指のプロジェクトを紹介します。

難工事事例 ❶


日本初の水封式LPG地下岩盤貯蔵空洞の建設!


波方国家石油ガス備蓄基地

工事名
波方基地ブタン貯槽工事
発注者
(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構
施工者
大林組・飛島建設・鴻池組JV
工期
2003年4月~2013年3月

愛媛県今治市にある波方国家石油ガス備蓄基地は、
LPG(液化石油ガス)を貯槽する国内初の水封式地下岩盤タンク(備蓄基地)です。
山岳トンネルの技術を用いて掘削した空洞断面は幅26m、高さ30m、掘削断面積は655m2に及び、
世界最大規模の貯蔵容量を誇ります。
地下約150mにおいて水封機能と空洞の安定性を確保するために、連続的に観測・解析しながら掘削に挑みました。

水封式地下備蓄とは?

水封式地下備蓄とは、コンクリートやスチールなどで壁面を覆うことなく、貯槽周辺の地下水圧を利用して常温高圧で液化した石油ガスを貯蔵する方法です。貯槽に向かう地下水流によって貯槽周辺の地下水圧を貯槽内圧力より高く保つことで貯蔵物を封じ込めます。

この水封式岩盤貯槽工事は、国内初の試みでした。そのため、事前にLPG地下岩盤貯槽の設計や施工管理を世界的に手がけるフランスのジオストック社と技術提携を結び、先方の水理地質技術者を2年間現場へ派遣配属して、水理地質情報の分析手法や水封機能評価手法を習得しました。

複雑な地下空間の建設

波方国家石油ガス備蓄基地には、メインのLPG地下岩盤貯槽のほか、作業トンネルや水封トンネルなど、数多くのトンネルが張りめぐらされ、とても複雑な構造となっています。

出典:波方ターミナル株式会社HP

作業トンネルの掘削
水封トンネル充水

中でも大空洞を有する貯槽部は、アーチと4段のベンチに分割して掘削する方法をとる必要があり、工事も困難を極めました。

貯槽部の掘削順序(アーチから下方へベンチを掘削)
アーチ
1段ベンチ
1段ベンチ 土平(どべら:側壁)
2段ベンチ
3段ベンチ
4段ベンチ
掘削完了

詳細な地質情報の把握

メイン貯槽の掘削では、水封機能と空洞の安定性を確保するため、まず岩盤の地質情報(亀裂情報)を詳細に取得することが重要でした。

水封機能の確保

亀裂の走行や傾斜、連続性を把握することで地下水の流れを予測

水封機能を確保する水封ボーリングや止水グラウトの位置と方向を決められます

空洞安定性の確保

亀裂の位置や粘土などの介在を調べることで不安定な岩盤ブロックを把握

空洞安定性を確保するために必要な支保増強などの対策工を練ることができます

地質情報(亀裂情報)の取得にあたっては、地質専門技術者による切羽の目視観察やボーリングコア観察、水封ボーリング孔やグラウト孔の孔壁画像解析を行って、詳細な亀裂性状マップを作成しました。このマップは逐次更新して、水封機能や空洞安定性確保の精度をより高めていきました。

孔壁画像から亀裂情報を解析
詳細な亀裂性状マップを作成

水封機能の確保

掘削中には、大量の湧水が発生して地下水位が下がったり、空洞周辺に不飽和領域(空気を含む土壌)が発生して水封機能が下がったりする可能性があります。このような状況は非常に危険なため、地下水位を所要の水位以上に保持するとともに、空洞周辺岩盤に不飽和領域を発生させないようにする必要があります。そのためには、地下水挙動を抑制する情報化施工が不可欠でした。

地下水挙動を抑制する情報化施工では、貯槽掘削時に9断面、42ヵ所のセンサーで間隙水圧をモニタリングし、得られた地質情報と水理情報をもとに、逐次、水理予測解析を実施します。そこで水圧の低下が確認された場合には、止水グラウトや追加の水封ボーリングを速やかに行うことで、水封機能が確保できました。

水封機能確保のための管理フロー
動的注入と従来工法の比較

止水グラウトでは、亀裂中の注入材の目詰まりによって十分な止水効果が得られない懸念があります。この対策として採用されたのが、動的グラウトシステムです。

動的グラウトシステムでは、一定の注入圧ではなく、パルス状に変動する注入圧でグラウトを注入することで、亀裂中での注入材の目詰まりが防げます。これらの施策によって貯槽周辺10m間には1Lu(10-5cm/sec)以下の低透水ゾーンを形成することができました。

貯槽岩盤の支保には、L=4〜7mのロックボルトを使用しますが、このロックボルトを埋め込むロックボルト孔から湧水があると、水圧が大きく低下してしまいます。わずか1L/min程度でも影響があるため、細心の注意が必要です。

このロックボルト孔からの湧水による水位低下については、孔口に専用布パッカーを用いたPGボルトを採用することで対処しました。PGボルトは大量の湧水が発生する箇所では注入が困難であるため、0.5L/min以下の湧水条件のみでの採用にとどめ、湧水量が0.5L/min以上の場合には止水グラウトを用いました。

PGボルト

空洞の安定性の確保

掘削中は地質観察とともに変位や支保応力の計測を行い、常に空洞の安定性を確認しながら作業を進めました。さらに、三次元FEM解析による支保や周辺岩盤の安定性確認、三次元キーブロック解析による不安定岩塊の出現予測なども行っていたため、対策を講じる必要性が発生した際には速やかに対処できました。

空洞の安定性確保のための管理フロー
TD340mのキーブロック対策例

気密性の要、コンクリートプラグの構築

貯槽には石油ガスが入るため、貯槽につながるトンネルや立坑との接続箇所は、配管を設置した後に閉塞(へいそく)する必要があります。その際にはRC造のコンクリートプラグが用いられますが、石油ガスが漏れないよう、高い気密性を保たなくてはなりません。

プラグの設置位置

出典:「AE法を用いた波方LPG岩盤貯槽掘削におけるゆるみ域評価」、第39回岩盤力学に関するシンポジウム講演集、講演番号26

プラグ部の漏水・漏気リスク

石油ガスの漏気や漏水は、主に次の3ヵ所から発生します。

(1)岩盤とコンクリートの境界
(2)コンクリートに発生するひび割れ
(3)埋設物周辺の隙間

これらについて、次のような対策をとりました。

・低発熱セメントと膨張剤を使用した高流動コンクリートによる温度ひび割れの抑制と密充てん
・クーリングによる温度ひび割れの抑制
・コンタクトグラウトによる岩盤とコンクリート境界の隙間閉塞

高流動コンクリート
温度応力解析による
クーリング計画
クーリングによる強制開口と
コンタクトグラウト

国内初の水封式地下岩盤貯槽
操業開始へ

石油ガスを受け入れる前に、貯槽が気密性を有していることを実証しなくてはなりません。そのため、貯槽内に加圧気体(空気)を送り込み、この加圧気体が漏えいによって減圧しないことを確認する気密試験(高圧ガス保安法特定則45条に基づく)を行いました。

この気密試験では、気体の状態方程式PV=nRTを用いて、圧力Pが減少しないことが確認できました。また、温度Tの変化による影響を除外し、圧力Pのわずかな変化をも正確に把握するために、精度の高い温度計測(精度0.01℃)も実施。さらに、水没させた配管用立坑からの漏気の有無を確認するため、72時間WEBカメラによる録画監視も行いました。
その結果、加圧気体の減圧および気泡漏気は見られず、気密試験に合格。無事に石油ガスを受け入れられる貯槽が完成しました。

波方備蓄基地の建設期間は約10年、2013年3月に完成しました。石油ガスの受け入れは2016年12月に完了し、現在、約45万トンの石油ガスが保管されています。

気密試験の様子
(気泡漏えいは見られない)
完成した水封式地下岩盤貯槽

難工事事例 ❷


強大な膨圧地山を多重支保工で克服!


北陸新幹線 飯山トンネル(板倉工区)

工事名
北幹、飯山T(板倉)他1工事
発注者
(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構
施工者
大林・大豊・松村・田中JV
工期
2000年3月~2005年9月

北陸新幹線の飯山トンネルは、長野県飯山市から新潟県板倉町に至る全長約22.251kmの長大トンネルで、
大林組JVは新潟県側出口の板倉工区(延長3,660m)を担当しました。
長野方の約500mでは強大な膨圧を伴う膨張性地山に遭遇し、多重支保工法と早期閉合を採用しました。
しかし、依然としてトンネル掘削は難航したため、さらに高耐力の多重支保構造と、
より早期の断面閉合によって、未曽有の不良地山区間を突破しました。

膨張性地山とは?

膨張性地山とは、トンネル工事の際に大きな変形を伴ってトンネル内空を縮小するように押出してくる地山のことを指します。この膨張性地山は、泥岩、頁(けつ)岩、凝灰岩、蛇紋岩、温泉余土などの地山に多く見られます。
膨張性地山にトンネルを造る場合、支保工や覆工に大きな土圧(膨張性土圧、膨圧)が作用し、切羽の押出しや底面の地盤が持ち上げられる盤ぶくれなどが発生して、トンネル建設や維持管理が困難になるケースがあります。
膨張性地山は、発生要因によって以下のように分類されます。

膨潤性地山 地山内に存在する膨潤性粘土鉱物(モンモリロナイトなど)が吸水膨張して、膨張圧が生じる地山。

押出し性地山 トンネル掘削に伴って増加する周辺地山の応力が地山強度を超えて地山が塑性化し、見かけ上、塑性流動的にトンネル内空側に押出してくる地山。

地山の膨張性を評価する指標としては、モンモリロナイト含有量や地山強度比など、さまざまなものがあります。今回の工事を進めるにあたり、これらの指標を使って飯山トンネル(板倉工区)の膨張性を複合的に確認したところ、一軸強度や変形係数といった力学特性が低く、押出し性地山であることが分かりました。

岩石試験結果

膨圧との遭遇

飯山トンネルの板倉工区と木成工区の境に分布する泥岩は、断層破砕帯が連続する擾乱(じょうらん)帯であり、地山強度が低くて土被りが140〜180mと比較的大きく、地山強度比の小さい膨圧区間でした。

地質縦断図

当初、ショートベンチカット工法で掘削していたところ、地山の悪化に伴って内空変位が増大。水平変位は200mm以上、脚部沈下は1400mm以上に及びました。これを受けて、工法をミニベンチカット工法に変更。断面の早期閉合を図るとともに、多重支保工法を採用しました。この多重支保工法とは、一次支保工の変位をある程度許容して健全性が損なわれることを前提とし、その内側に二次支保工を設置することで、支保全体の健全性を確保する施工方法です。

多重支保工の支保パターン図(当初パターン)

想定を超える膨圧

当初の多重支保工法では、上半から3.5D(D:トンネル掘削幅 11.65m)離れた位置で二次支保工を設置する計画でしたが、二次支保工設置前に300mmを超える上半水平変位が発生し、吹付コンクリートの損傷や鋼製支保工が曲がってしまうという事態が相次ぎました。さらに、二次支保工施工後も変位は収束せず、支保工のインバートストラットが破断するまでに至りました。

この擾乱帯では、想定以上に地山の変位速度が速く、膨圧が大きいため、より早い段階で変位を抑制するとともに、支保全体の耐力を向上させる必要があることが分かってきました。

吹付コンクリートの損傷
鋼製支保工の座屈
インバートストラットの破断

多重支保工のグレードアップ

変位や支保の損傷状況をふまえて、次のように施工方法を変更しました。

・上半切羽が1〜2D進んだ段階で二次支保工を施工し、早期閉合する。
・一次、二次支保工の耐力を上げる。

この対応によって内空変位は200mm程度で収束傾向を示し、二次支保工後の変状は発生しなくなりました。

多重支保工の支保パターン図(高耐力パターン)
施工順序
多重支保工の施工状況

地山特性曲線を使って多重支保工の効果を検証

地山特性曲線とは トンネル掘削時の地山の挙動や支保の効果は、地山特性曲線を使って説明することができます。

地山に変位が発生すると、地山内に応力が発生します。つまり、地山が荷重を負担するので、その分、支保に作用する土圧は減少します(点A→点B)。しかし、地山の変位が大きすぎると地山は軟化し、支保に作用する土圧が増大します(点B→点C)。

トンネルを安定化させるには、地山の変位を点Bよりも左側に抑える必要があります。支保を設置するまでには先行変位が発生しますが、支保設置後、支保に変位が発生して支保反力は増加し(点a→点b)、支保反力と土圧が釣り合うところでトンネルは安定します(点b)。

支保をグレードアップすることは、このグラフにおける支保特性の傾きを急にすることと同じで(点a→点b’)、より丈夫な支保を用いると変位を抑制することができます。ただし、支保の設置が遅れると(点a’)支保反力で土圧を支えることができず、トンネルは不安定になってしまいます。

地山特性曲線

多重支保工の効果は 多重支保工の効果は次のように表せます。
膨張性地山では土圧が大きく(I)、一次支保工では土圧を保持できません(①-1)。そこで、二次支保工を追加することで土圧を支保反力で保持し、トンネルを安定化させます(①-2)。

土圧がさらに大きなときは(II)、三次支保工を追加する(①-3)か、多重支保工の耐力を上げる(②-1、②-2)、といった対策がとられます。飯山トンネル(板倉工区)では後者を採用しました。

【参考文献】「多重支保工法は有効な膨張性地山対策」北川修三、トンネルと地下、Vol.34、No.2、pp.55-65、2003

地山特性曲線

飯山トンネル(板倉工区)の多重支保工の効果 飯山トンネル(板倉工区)での計測結果から、多重支保工の効果が確認できました。

支保反力-変位の関係は、吹付コンクリートと鋼製支保工の応力測定結果を使い、土圧が静水圧状に作用する円形トンネルを仮定して算出しています。
地山特性曲線は、地山試料試験や類似地山の事例を参考に物性値を設定し、Hoek-Brownの弾塑性理論に基づいて算出しました。

これらを見ると、当初パターンでは支保耐力が不足して土圧を支えきれていないのに対して、高耐力パターンでは土圧と支保反力が均衡してトンネルを支保できていることが分かります。

このように地山特性曲線を用いて実計測結果を検証することで、飯山トンネル(板倉工区)で採用した多重支保工の必要性や有効性を示すことができました。

全長22.251kmの飯山トンネルは、日本の鉄道山岳トンネルとしては3番目に長いトンネルです(2020年現在)。この膨張性地山を有する長大トンネルの建設で得られた知見は、今後も特殊地山におけるトンネル建設で活かしていきます。

飯山トンネル(板倉工区)の多重支保工の効果
完成した飯山トンネル

難工事事例 ❸


住宅密集地直下・含水未固結地山の
トンネル工事


神戸長田トンネル工事

工事名
神戸市市道2号線 長田工区(南行)トンネル工事、
同(その2)、同(その3)
発注者
阪神高速道路公団(現 阪神高速道路株式会社)
施工者
大林組
工期
1996年2月~2002年10月

阪神・淡路大震災後の神戸で、水道やガスなどの埋設物が多い住宅密集地の直下で行った高速道路トンネルの施工事例。
土被りが小さな含水未固結地山(砂・礫などが多い地質)という、非常に厳しい条件下での工事に挑みました。

神戸長田トンネルとは?

神戸長田トンネルは、神戸市西部を南北に結ぶ阪神高速道路31号 神戸山手線の道路トンネルです。
31号神戸山手線は、3号神戸線と7号北神戸線を結ぶ道路で、路線長は約9.5km。その約7割がトンネル構造となっています。その中の一つである神戸長田トンネルは、神戸山手線の山岳トンネルとしては最も海側に位置しており、延長約2.1kmの南北線分離の2車線併設トンネルです。
工事は4工区に分割され、大林組は南行線の海側にあたる長田工区(南行)トンネル工事を担当しました。

阪神・淡路大震災の復旧のさなかに工事着手

工事は阪神・淡路大震災(1995年1月)の翌年、1996年2月に着工。当時、神戸市は阪神・淡路大震災によって大規模な被害を受けており、特に長田区では多くの家屋が倒壊、交通機関も遮断されていました。 工事に必要な施工機械や工事資材の中には、災害復旧工事に優先的に使われていたものもあり、思うように調達できない状況でした。
工事の仮設ヤードがあった西代蓮池公園内には神戸市民球場があり、球場内には仮設住宅が多数建てられていました。

地上の様子

大断面で重厚なトンネル構造

坑口から85mまでの範囲は、長田出入口の分岐車線のための拡幅部となっています。最大掘削幅19m、掘削断面積186m2という大断面から、徐々に掘削幅13~14m、掘削断面積103~115m2の標準断面に遷移していく設計です。
周辺民家での井戸の利用状祝などを考慮すると、完成後に地下水位を回復させるために、トンネルは全周防水シート施工・複鉄筋構造の防水型トンネル構造にする必要がありました。

断⾯図

高地下水位で未固結な大阪層群を掘削

トンネルは、地表部のほとんどが住宅地である標高10~80mのなだらかな丘陵の地下を縦断するように計画されていました。トンネル上端から地表面までの土被りは小さく、坑口付近の極端に小さい区問(12m程度)を除いても25~50m(平均35m)ほどでした。
地質は、礫質土・砂質土・粘性土の互層から成る第四紀の大阪層群下部層、および更新世後期の段丘層、沖積層から構成されています。トンネル掘削対象となる部分の地質は、坑ロから約140mまでの区間が段丘層、それより先が大阪層群となっています。大阪層群は、変形係数E=50〜120N/㎜2であり、トンネル切羽に対して流れ目となっており、粘性土は比較的固結度が高いものでした。
地下水については、礫質土・砂質土が多量の地下水を貯留する帯水層となっており、トンネル計画高より16~32m上部に地下水位面が存在する環境でした。

地質縦断図

地表面沈下の抑制

土被りが小さいうえに地下水位が高く、未固結の地山を掘削するという厳しい施工条件のもと、地上の建物やガス管などの地下埋設物への損傷を避けなくてはならない今回のトンネル工事では、「地表面沈下の抑制」が重要なポイントとなりました。
具体的には以下の4点があげられます。

  • 土被りが小さいことや地山の固結度が低いことによる地表面や埋設物への影響
  • 天端および切羽の不安定化、緩み・変位の発生
  • 脚部地山の地耐力不足に起因するトンネルの共下がり、緩み・変位の増大
  • 下半側壁地山の不安定化、緩み・変位の増大

「地表面沈下の抑制」のための補助工法

今回の工事では次のような掘削補助工法を採用しました。

①注入式長尺先受け工(トレビチューブ工法)

【目的】
・切羽前方での先行沈下を含む地表面沈下の抑制
・天端、および切羽地山の安定性の向上

【概要】
長尺先受け工には、髙圧噴射系補助工法(鏡ジェット工法)と機械を兼用できるトレビチューブ工法を採用しました。
1打設鋼管長を標準長12.5mから18.5mに延長することで、1シフト長を9mから12mに延長し、工期を短縮するとともに工費を低減できました。
地山状況、土被りおよび事前の計測結果から、次のシフトで発生する地表面沈下量を推定し、鋼管径(114.3mmまたは139.8mm)や注入材(ウレタンとセメントミルク)の選定を行いました。
支保工脚部にはプレロードシェル工を採用。鋼製支保工と地山の空隙に速硬モルタルを充てんした袋を設置し、先受け鋼管から鋼製支保工に伝わる荷重を速やかに脚部地山に伝達して支持することで沈下を抑制しました。

掘削補助⼯法概要図
注⼊式⻑尺先受け⼯(トレビチューブ⼯法)施⼯状況
プレロードシェル⼯(⽀保⼯脚部)

②切羽補強工(鏡ジェット工法)

【目的】
・鏡面の安定性向上

【概要】
含水未固結地山の鏡面安定には、ボルトによる補強効果に加えて地山改良効果も必要であることから、鏡ジェット工法を採用しました。
鏡ジェット工法は、ロッドが回転しながら先端にある噴射ノズルからセメント系硬化材を髙圧噴射し、削孔箇所周辺に改良造成体を形成する工法であり、卜レビチュ一ブ工法と同じ機械が使えるのが利点です。
鏡ジェット工法の本数や位置は、地山状況、切羽の安定性にもとづいて決定し、目標とする造成径は600mmとしました。

鏡ジェット⼯法の概要図
切羽補強工(鏡ジェット工法)施工状況

③脚部補強工法(脚部ジェット工法)

【目的】
・鋼製支保工脚部地山の地耐力を向上させ、脚部沈下を抑制

【概要】
湧水発生時への対応も視野に入れながら、今回と似たような地山のトンネル工事で効果があった脚部ジェット工法とウレタン注入工法を比較。試験施工の結果、改良効果が大きい脚部ジェット工法を採用しました。使用材料と施工方法は鏡ジェット工法と同様で、施工位置は長尺先受け工と同切羽位置とし、1打設長は先受け工の1シフト長に合わせました。

脚部補強⼯(脚部ジェット⼯法)施⼯状況

④下半側壁補強工

【目的】
下半側壁部地山の安定化、緩み・変位を抑制

【概要】
側壁ジェット工法とウレタン注入工法が候補に挙がりましたが、試験施工の結果、施工性が良く、側壁部の安定性を確保できるウレタン注入工法を採用しました。施工機械には汎用機であるクローラードリルを使用し、側壁補強工の配置は、上半盤より斜め前下方、2mに1本/片側としました。

下半側壁補強工(ウレタン注入工法)施工状況

掘削状況

掘削工法は上半先進ベンチカット工法を採用し、上下半交互並進掘削を選択。ベンチ長は、補強工施工時の機械設置スペースを確保するために70m以上とりました。
全体工程の確保のために重要となる下半掘削とインバートコンクリート工の施工については、上半補強工と並行して実施。
また、本トンネルは防水型トンネルであることから、下半・インバート部にストラットと防水シートを設置する必要があります。その分、通常のトンネル工事に比べて作業量が多くなってしまうため、1サイクル当たりの下半掘削・インバート工の作業量を、1サイクル当たりの上半での補助工法量に応じて調整し、無駄な待ち時間などが発生しないように注意しました。

施工フロー・施工姿図
上半掘削状況
上半支保工建込状況
下半掘削状況
下半吹付コンクリート状況

終わりに

掘削開始から約4年、2001年4月に神戸長田トンネルは高取山工区と無事貫通。その間、地上の建物やガス管などの地下埋設物に損傷を与えることなく、本工事の命題であった「地表面沈下の抑制」を達成することができました。また、さまざまな課題を技術と工夫で解決し、標準断面区間での平均月進20mも実現しました。