「自然と、つくる。」大林組のグリーンインフラ「自然と、つくる。」大林組のグリーンインフラ

暮らしを守るみどりのテクノロジー

自然の恵みを暮らしや社会に意識して取り入れ、課題解決や新たな価値の創出を目指す、グリーンインフラ。大林組は様々なシーンで、長年培った技術力を生かした取り組みを推進している。技術研究所 自然環境技術研究部 副主任研究員の相澤 章仁氏と同主任の長野 龍平氏に、同社の取り組みについて聞いた。

グリーンインフラで
街を自然と共創する

相澤 章仁氏相澤 章仁氏
技術研究所 自然環境技術研究部
副主任研究員
相澤 章仁

――大林組が掲げる「自然と、つくる。」というコンセプトには、どのような思いが込められているのでしょうか。

相澤グリーンインフラは、自然環境がもつ多様な機能を社会における様々な課題解決に活用する社会資本整備の取り組みの一つです。米国をはじめ海外で取り組みが進む中、日本でも国土交通省が「グリーンインフラ推進戦略2023」を打ち出すなど、注目が集まっています。大林組も事業を通じて、生物多様性や自然環境の保全を行いながら、自然を活用した防災・減災や地域振興など、人びとの社会生活に有益な社会資本整備のあり方や土地利用の方法を探っています。

長野 龍平氏長野 龍平氏
技術研究所 自然環境技術研究部
主任
長野 龍平

長野当社流にこの概念を受け止め、コンセプト化したのが「自然と、つくる。」です。この言葉には、「自然の仕組みをしっかり理解し、その機能を尊重したい」「自然をものづくりに取り入れ、人と自然が共生し、生きがいと活気あふれる社会にしたい」という強い思いを込めています。私たちは、自然科学とものづくりを融合させることでグリーンインフラは最大限の効果を発揮すると考え、日々研究開発を進めています。フロンティアゆえに試行錯誤の連続ですが、やりがいを感じる仕事です。

自然の力を活用する
最新工法とその展望

――具体的な施工例や開発事例について聞かせてください。

相澤廃鉱山や高速道路ののり面緑化で活用している技術としてチップクリート®緑化工法が挙げられます。通常ののり面緑化工法では、強酸性の土壌やコンクリート面で種を発芽させ植生を保つことが困難でした。同工法では、伐採材チップなどをセメントミルクでコーティングして固結させ、その上に緑化を施すため、強固な根がかりが形成されます。保水力や透水性も高めることができ、植生を長く持たせることが可能です。建設時に発生する伐採材などもリサイクルして利用するため、廃棄物削減や処分費の縮減も見込めます。また応用例として、チップクリートを露出した状態で使用することで緑化範囲を限定することもできます。河川敷のり面などで使用され、十分な強度を保ちながら斜面の表面侵食を防ぎ、草刈作業の軽減などに役立っています。

河川敷でのチップクリート活用事例
河川敷でのチップクリート活用事例
河川敷でのチップクリート活用事例

長野大雨対策と夏の猛暑対策を実現する技術として開発を進めているのが、ハイドロペイブライト®です。透水性舗装と湿潤舗装を組み合わせた新たな道路舗装技術で、透水性舗装内の割栗石の大きな隙間で雨をため、ためた雨を主に湿潤舗装側から蒸発させて路面温度を下げる仕組みです。一般的なアスファルト舗装と比べて、夏季の路面温度を透水性舗装で最大12℃、湿潤舗装(揚水ブロック目地内)で最大23℃低下させることが可能です。また、貯水機能により排水施設に一気に雨水が集まることを抑制します。局地的大雨やヒートアイランド現象に悩まされている都市部を中心に実装をはじめ、地域の環境に合わせた製品開発を目指します。

ハイドロペイブライトの仕組み
ハイドロペイブライトの仕組み

生物多様性の保全と
評価モデルの構築

――生物多様性を守るためにどのようなことに取り組んでいますか。

相澤当社グループでは「生物多様性に関する方針」を策定し、生物多様性保全や生物資源の持続的活用への貢献、自社施設にて生物多様性保全に努めることなどの方針を掲げています。東京・清瀬市の技術研究所敷地内で保全している雑木林では、国や東京都で絶滅危惧種に指定されているキンランやギンランなどの希少種が生育しており、地元の自然保護団体を招いた観察会を定期的に行っています。また、雑木林では3D点群データを使った先進的なモニタリングを行っており、デジタル技術を取り入れた適切な管理手法の検討にも取り組んでいるところです。これらの取り組みは、環境省の定める自然共生サイト(民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られている区域)に認定され、国際データベースにも登録されました。自然環境を見つめ直し、育みながら、自然にどのような要素や機能があり、社会に役立てることができるのかを考えていく場となっています。

長野生態系の保全だけではなく、生態系の評価技術により生物多様性の創出にも積極的に取り組んでいます。近年、自然との共生の観点から都市部に緑地を配置し、生き物を呼び込もうとする設計が盛んですが、単に緑地を設けただけでは生き物は集まりません。そこで大林組では指標生物の長年の追跡調査を行い、鳥類をはじめとした生き物が好んで訪れる場所や移動経路を予測し、可視化する「生物の生息地評価モデル」を作成しました。このモデルを活用した設計支援ツールによって、小規模な緑地でも生き物を招きやすい環境を生み出すことに成功し、人間の生活環境と生き物の生息のしやすさを両立した市街地開発に役立てています。地域の在来植物で植栽を行った「オーク表参道」では、屋上緑化事業として初のJHEP認証(※)を取得しました。今後も、どのような自然の機能が社会課題の解決に生かせるのか、定量的な評価とモデリングによって「自然との共生」を前提にした街づくりを推し進めていく必要があります。大林組はこれからもグリーンインフラに関する様々な取り組みを通じて豊かな暮らしや社会づくりに貢献していきます。

※ 公益財団法人日本生態系協会による生物多様性認証。認証期間は5年で、継続的に認証を得るためには竣工後も適切な維持管理が必要。
技術研究所内の雑木林の点群データ技術研究所内の雑木林の点群データ
技術研究所内の雑木林の点群データ。
木々ごとにIDを振り、色分けで表現。
オーク表参道での屋上緑化オーク表参道での屋上緑化
オーク表参道での屋上緑化
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