写真家の眼と感性で捉えた都市の
表情や姿を紹介していく
大林組のカレンダーシリーズ
「CITYSCAPES」。
本サイトでは、カレンダーを撮影した
写真家とその作品にフォーカス。
作家にとって都市とはどのような
存在なのか、その思いに迫ります。
安藤 瑠美
Rumi Ando
2023年版カレンダーのテーマは
「discovery」です。
撮影をお願いしたのは、
フォトグラファーであると同時に
レタッチャーでもある安藤瑠美さん。
レタッチを施すことで、
現実と理想の境界がなくなったかのような
作品は、不思議な既視感と静謐な
存在感に満ちています。
安藤さんはどのように
都市を捉えているのか、伺いました。
※レタッチ=ここでは撮影後の写真に対し、デジタル上で加筆、除去、合成などの加工を施す工程を指す。
都市には撮りたいと
思わせる瞬間がある
都市を環境そのものとして
自然界に岩や木や花があるように、私にとって都市や建物はそこにあってあたりまえ、自分を取り巻く環境そのものです。だからいろいろな建造物に囲まれていても、順応しているせいか普段はほとんど意識することもなく受け入れていますし、そんな環境にあることもほとんど意識することがありません。
ところがふとした時に違和感や威圧感を受けたり、逆に美しさを感じたりすることがあります。そんな「美しいな」と思った瞬間をちょくちょく感じるなかで、私はそれを絵画のように切り取りたいとシャッターを押すようになりました。
現実が心の引き出しとリンクする
その瞬間はいつも突然やってきます。偶然なにかに鉢合わせしたような、期せずして誰かと目が合ってしまったような、そんな感覚。具体的に「これがある」というわけではなく、昔見た童話の中のワンシーンや古い絵画なのか、それまでに触れてきた文化となにか関係しているのか、漠然とした「…のようなもの」が、記憶の引き出しから飛び出てくる、そんな瞬間があるのです。
東京の風景をいいなと思った瞬間に頭をよぎったものが二つありました。ひとつは学生時代に写真とともにハマったコラージュで、配置や色、リズムを自分の思い通りにできるのが面白くて夢中になりました。もうひとつが大和絵です。背景がほぼないところに人や木がポンポンとある構図、語らずとも空間がある感じがとても好きでした。
もしかしたら都市を通して私の中にあるいろいろなものも同時に引き出されているのかもしれませんね。
風景が都市を好きにさせてくれた
東京に出てきてまだまだ不安でいっぱいだった頃、ふと見上げた風景が良くて、「いいところだな」と思えるようになっていきました。好きになりたいという思いを風景が後押ししてくれたというか。それが都市を撮るきっかけでした。ですから都市を撮るのは誰かのためにというよりも、自分のためにやっているというところもあるのです。
撮影の感動を
レタッチで蘇らせる
空間がレイヤーのように重なって
都市はたくさんの建物が連なっていて、建物は必ずなにかしら意図があってつくられていて、その壁の中には人がいて、それぞれに営みがある空間があります。その向こうにはまた建物があって空間がありヒトがいて、その向こうにもまた…。レイヤーのように空間が重なり続けているのがとても面白くて。
私が作品で窓やドアをよく消してしまうのも、壁だけにして空間を断絶させてしまった方がレイヤーを強固にできて、その奥にあるものを伝えやすくできると思うからです。レタッチをしながら「この建物はなにを意図していたのかな」と思いを巡らせ、その存在感を探します。
撮影時の感動を、レタッチでより伝わりやすく
実は、撮影時にはめちゃくちゃいいものが撮れたと思っていても、持ち帰ってモニターで見ると、すごく残念な気持ちになることはとても多いです。撮影中は頭の中で自分に都合良く自己処理してしまって自分が見たい風景に寄せてしまっているのでしょうね。そこであの時受けた感動を改めて感じるためにもレタッチで調整していきます。
ノイズを削いでいくように
レタッチは自然のままの光を残しながらバランスを崩さないよう、写真の良さも残しつつ絵画に寄せていくような感じで手を入れていきます。足し算ではなく引き算という感じです。
光やテクスチャーはそのまま残しながら、ノイズを削いでレタッチしていきます。建物にとって表層は装飾、テクスチャーは素肌のようなもの、余分なものを取ってあげるというイメージで、お店の看板や目印や、壁の傷のように目が囚われてしまうものを消していきます。カラーリングは心地よくなるように、との思いで。「もしかしたらありそう」という程度を心がけながら、「この建物の色はステキだな」「ここには少し色が欲しいな」とか考えながら、色を見出していきます。
レタッチで生じる絵画性
シャッターを押す時とレタッチする時の私の視線は別の人と言っていいほど異なります。新鮮な感覚で眺めることで感動を再発見したいからです。どうしたらより私の感動を伝えられるか、何度も行きつ戻りつを繰り返しながら着地点を探ります。「もうこれで決まりだぞ」と決心できたらプリントして完成。一旦紙に定着させたらもう戻ることはできないし、戻ることは決してしません。
その時、それまで100%写真だった作品に絵画性が加わります。絵画的感覚が50~70%で残りが写真、ふたつの表現が溶けあいます。
写真との出会い、
レタッチとの出会い
写真を表現の主体として
写真を撮るようになったのは、学生時代のことでした。光の響きあいが大好きで高校時代から絵画を専攻していた私は、対象物をよりしっかり見極める力をつけて表現力を高めようと写真を撮りはじめました。そのうち写真がどんどん面白くなってしまって。
それは「写真を起点にする方がより自分を超えられる」と感じたからでした。頭の中で想像できる範囲でしか描けないが故にシンプルになりがちな絵画に比べ、写真は予想外のものが写りこんできます。でも逆にその〝ノイズ〟によって自分が思いもしなかった構図やディテールを存在させてくれるとも思えたのです。そうして徐々に表現の主体が写真へと移っていきました。
レタッチと写真のコラボレーション
学生時代には写真にレタッチすることはまったくありませんでした。きっかけは仕事からです。写真はもちろん、なにより暗室にこもってひたすらプリントすることが大好きで就職先もその方向で探していたらレタッチという仕事に出会ってのめり込んで。ほぼゼロからのスタートでしたがどんどんのめり込んでしまいました。そうするうちに「レタッチで作品をつくってみようかな」というぐらいの軽い気持ちで作品をつくりはじめたのです。
当初はカメラマンに写真を撮ってもらって私がレタッチをするというコラボ形式でやってもいました。それはそれで面白かったのですが、自分が見たい世界を100%出すには写真も自分で撮ったほうがいいと思うようになり、現在のように写真もレタッチも自分一人でやるという方法に固まっていきました。その時からずっとやり続けてきた作品が「TOKYO NUDE」で、その時から都市は私にとって大切なモチーフなのです。
レタッチと写真のコラボレーション
学生時代には写真にレタッチすることはまったくありませんでした。きっかけは仕事からです。写真はもちろん、なにより暗室にこもってひたすらプリントすることが大好きで就職先もその方向で探していたらレタッチという仕事に出会ってのめり込んで。ほぼゼロからのスタートでしたがどんどんのめり込んでしまいました。そうするうちに「レタッチで作品をつくってみようかな」というぐらいの軽い気持ちで作品をつくりはじめたのです。
当初はカメラマンに写真を撮ってもらって私がレタッチをするというコラボ形式でやってもいました。それはそれで面白かったのですが、自分が見たい世界を100%出すには写真も自分で撮ったほうがいいと思うようになり、現在のように写真もレタッチも自分一人でやるという方法に固まっていきました。その時からずっとやり続けてきた作品が「TOKYO NUDE」で、その時から都市は私にとって大切なモチーフなのです。
カレンダーの
撮影が発見へと
都市のさらにその奥に
今回のカレンダーでは、自分が100%いいと思うものをつくりたい、今まででいちばんいいものをつくろうと思って取り組ませていただきました。
最初はひたすら写真を撮りました。東京、名古屋、大阪、京都、岡山、北海道…何百枚と撮りました。
いろいろな都市で写真を撮ることで、細かな違いや規模感が写真に出てきたことは面白い発見でしたし、都市によって色や構成による違いがあることも改めて気づかされました。
材質の違いはテクスチャーとして現れますし、建物の角度の違い、道の広さや数、高低差で街の表情も変わってきます。どうやってこの街並みができたのだろうと不思議になって調べることでその都市の歴史を知り、また新しい面白さを発見することもできました。
都市の距離感、遠近感
また、このテーマにおけるセレクトの手がかりを明快にできたのも大きな収穫でした。私にとって、都市を都市たらしめる要素としての「距離感」です。
都市には遠くにいくにしたがって情報が変わっていくという独特の遠近感があるように思います。一枚の中に、自分が立っている場所、いちばん手前にある建物、あるいはいちばん奥の建物、それぞれがある程度の遠近感をもって連なっているかどうか、それが成立しているものを中心に作品を選んでいます。
「ずっと見ていられる」作品を
今回「discovery」というテーマで都市を撮りおろすことで、私自身も「発見=discovery」したことがいろいろありました。なかでもいちばん大きかったのが「写真の強度」でした。
どんな写真が良いのか、あるいは悪いのかという基準が曖昧だったことに気づかされたのです。今回のように常時目にするカレンダーならば「ずっと見ていられるかどうか」ということが基準のひとつになると気づくことができました。いつもの作品づくりなら意のままで終わらせたかもしれませんが、今回は期限のある仕事です。おかげで、自分自身を問う良い機会となりました。
写真とレタッチという私がいちばん得意としている方法で、写真の中にバックストーリーをどんどん盛り込んで読み解きの時間を1枚の中につくり出したい、写真を通してまずは自分の周りから発見し、ファインダーを通して世界を広げていけたらと考えています。
都市の距離感、遠近感
また、このテーマにおけるセレクトの手がかりを明快にできたのも大きな収穫でした。私にとって、都市を都市たらしめる要素としての「距離感」です。
都市には遠くにいくにしたがって情報が変わっていくという独特の遠近感があるように思います。一枚の中に、自分が立っている場所、いちばん手前にある建物、あるいはいちばん奥の建物、それぞれがある程度の遠近感をもって連なっているかどうか、それが成立しているものを中心に作品を選んでいます。
「ずっと見ていられる」作品を
今回「discovery」というテーマで都市を撮りおろすことで、私自身も「発見=discovery」したことがいろいろありました。なかでもいちばん大きかったのが「写真の強度」でした。
どんな写真が良いのか、あるいは悪いのかという基準が曖昧だったことに気づかされたのです。今回のように常時目にするカレンダーならば「ずっと見ていられるかどうか」ということが基準のひとつになると気づくことができました。いつもの作品づくりなら意のままで終わらせたかもしれませんが、今回は期限のある仕事です。おかげで、自分自身を問う良い機会となりました。
写真とレタッチという私がいちばん得意としている方法で、写真の中にバックストーリーをどんどん盛り込んで読み解きの時間を1枚の中につくり出したい、写真を通してまずは自分の周りから発見し、ファインダーを通して世界を広げていけたらと考えています。
安藤 瑠美
Rumi Ando
1985年岡山県生まれ。2010年東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。2015年アマナグループの株式会社アンに入社。2021年-独立。フリーランスのレタッチャー&フォトグラファーとして活躍。
【展覧会歴】
2007年受賞作品展「epson color imaging contest 2007」スパイラルガーデン(東京)。2009年「東川町国際写真フェスティバル インディペンデンス展」東川町文化ギャラリー(北海道)。2010年「東京藝術大学先端芸術表現科 卒業|修了2010」BANKArt NYK(横浜)。個展 「Pliocene」nagune(東京)。個展 「dream islands」ニコンサロンbis(東京、大阪)。東京藝術大学美術学部 先端藝術表現科 鈴木理策研究室展覧会『私にも隠すものなど何もない』BANKArt NYK(横浜)。2012年,2013年TOKYO ART BOOK FAIR参加(東京)。2019年amanaクリエイター展「LEAP2019」amana square session hall(東京)。SHANGHAI ART BOOK FAIR参加(上海)。2020年-「TOKYO NUDE」(東京、愛知、岡山、福岡)など個展多数開催。
【受賞歴】
2007年「epson color imaging contest」佐内正史審査委員賞。2019年「THE REFERENCE ASIA: PHOTO PRIZE 2019」ナタリー・ハーシュドーファー選優秀作。
- 安藤瑠美 webサイト
- https://rumiando.com/
- 安藤瑠美 インスタグラム
- https://www.instagram.com/andytrowa/