大林組は、建設現場の省人化・効率化を目的とした「ロボティクスコンストラクション」を推進している。重機の遠隔操作や3Dプリンターなどの技術を開発・導入し、建設現場の安全性と生産性の向上につなげる。建設業界でのデジタル活用に大林組はどのように向き合い、どのような未来を描いているのか。技術本部 技術研究所 生産技術研究部 副課長の坂上 肇氏、西日本ロボティクスセンター 施工技術部 技術開発課 副課長の西本 卓生氏に聞いた。
――機械操作の遠隔、自動・自律化はどのように活用されているのでしょうか。
西本作業環境を改善し生産性を向上させるためには、建設現場のロボティクストランスフォーメーション(RX)を推し進め、今までにない斬新な発想で機械やデジタル技術を活用する必要があります。そこで、「建設機械施工の省人化(遠隔、自動・自律化)」の観点から開発したのが、建機フリートマネジメントシステム(FMS)です。同システムでは、管理者が統合管理室からモニター越しに、複数台の建設機械の自動・自律運転を連携させ、必要に応じて遠隔操作に切り替え操作することが可能です。2021年10月から22年6月に実施した福島県の飯舘村での盛土工事では、大阪や埼玉の管理室から建設機械の遠隔操作を実現しました。土砂のダンプへの積み込みやダンプでの運搬、ブルドーザーの敷きならし作業といった一連の作業を、自動・自律運転で施工しました。作業状況や盛土の出来形をモニタリングしながら施工し、作業データはクラウドに自動保存が可能です。施工結果をデータ化し自動出力することもでき、施工管理業務の効率化を実現しています。作業員数も従来の3人から1人に減り、接触事故などのリスクを減らすことにも成功しました。危険作業を減らしつつ、データドリブンな施工管理・支援を可能にします。昨年、西日本ロボティクスセンターに構築した実証フィールド「インキュベーションスタジアム」では、技術開発と現場への早期展開を目的とし、無人重機のオペレーションに関する様々な実験を行っており、建設機械の遠隔操作や自動・自律化のさらなる可能性を追求しています。ロボティクスコンストラクションは、就労機会の掘り起こしや働き方の多様化につながるものと考えています。
「作業の機械化」「機械操作の省人化(遠隔、自動・自律化)」「建設プロセスのデジタル化」の3つの要素からなるロボティクスコンストラクションで建設業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進します。サイバー空間も活用しながら、人とロボットの協調により、省人化・効率化を実現。機械にできる作業は機械に任せ、人は高度な価値創出に専念することで、人材を有効活用し、安全で働きがいのある職場環境を整備します。施工の効率化で環境負荷の軽減も目指し、「地球・社会・人」のサステナビリティーの推進を図ります。
――近年、3Dプリンターを活用した建築が大きな注目を浴びています。
坂上3Dプリンターは、ロボットアームを使い、コンピューター制御で材料を積み重ねて建築物を造り上げます。そのため、従来の建設方法では実現が困難だった複雑な形状を構築でき、型枠の作製にかかる時間やコストも抑えることができます。構造部分と同時に断熱や設備工事の一部も作製可能で省人化・短工期化も見込め、「作業の機械化」の観点から様々な可能性を感じています。現行法令の枠内でも3Dプリンターのような新たな材料・工法を用いた建築物の建造が可能ですが、関係省庁にて新材料・工法の推進に関する議論がなされています。大林組では、14年から研究を開始し、3Dプリンターに使用するための特殊なセメント系材料や、鉄筋や鉄骨を使用しないで構造物を建設できる超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート®」(※)との複合構造の研究開発を進めてきました。得られた知見をもとに、大林組技術研究所(東京都清瀬市)内に今年3月に建造したのが3Dプリンター実証棟「3dpod™」です。3dpodは、3Dプリンター製の打ち込み型枠にスリムクリートを充填する構造形式を用いて計画されており、国内で初めて建築基準法に基づく国土交通大臣認定を取得した構造形式の建屋です。壁や床といった地上構造物の全ての部材に3Dプリンターで製造した部材を用いています。電気や水道を引き込み、空調、断熱も施すことで、建屋として必要な設備を備えています。今後は、本工法を用いた建築・土木構造物への展開に加えて、本工法に限らない建設用3Dプリンターの活用方法についても広く検討しています。
(※)特殊粉体材料と超高強度鋼繊維を用いて構造物を構築する材料。従来の超高強度繊維補強コンクリートと同等の強度特性を発揮できるモルタル材料で、現場での打設・養生が可能なため、施工規模や施工条件の制約を大幅に軽減できる。
――ロボティクスの適用により建設業のあり方は大きく変わりそうですね。
西本建設には設計段階から現場での施工過程までに多くの職能をもったプロフェッショナルが関わります。よくロボットや人工知能(AI)などの技術が人間の仕事を奪うなどといわれますが、各工程における様々な判断の根拠や機械にどのような指示を与えれば効率的に作業ができるのか、あるいは現場全体をどのように最適化するかといったマネジメントの部分は機械に置き換えることはできません。まずは、単純な反復作業や現場への移動時間などを削減することで、より精度の求められる作業やクリエーティブな仕事に時間を使うことができるようになります。今後はよりユーザビリティを高めるために、各工程のロボティクスの運用に関するマニュアルの作成やルール作りも必要になってきます。また、我々がこれまでに得た知見や経験をデータ化していくことが大切になってきます。
坂上建設現場のヒト・モノ・コト情報をデータ化し、フィジカル空間とサイバー空間を同期させる「建設プロセスのデジタル化」は生産性や品質の向上にとどまらず、技術継承や人材教育のためのフィードバックにも役立つと考えています。大林組の強みは意匠、構造、設備の設計者やコンクリート材料や耐震構造の研究者など各分野のスペシャリストがいることです。ロボティクスコンストラクションの進展で、これまでの様々なプロジェクトで積み重ねてきたノウハウや研究開発の知見を、最大限に生かすことができるようになるでしょう。大林組はロボットと人の協調で、持続可能な建設プロセスの実現に取り組み続けていきます。