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  • 地下2階の追悼空間

解説

原爆死没者を追悼し、平和を祈る多くの人々の思いを形にする

国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館は、原子爆弾による死没者に対する追悼の意を表し、永遠の平和を祈念するとともに、被爆体験を後代に継承するための情報収集と提供、さらに被爆医療や平和を中心とした国際協力および交流という3つの目的を持った施設である。原爆資料館と平和会館に隣接し、建物の主要部分は地下に建設され、地上部にはロータリーや駐車場、憩いの広場が設けられている。憩いの広場の中央部には、7万個の光を放つ直径29mの水盤が配置され、7万の光は原爆死没者の命の灯火を、水は被爆時の喉の渇きを癒やすものとして表現されている。

内部のメイン施設である追悼空間は、幅10m、長さ30m、高さ9mの地下大空間の中に、1m角、高さ9mの天井まで届く光るガラス柱を左右6本ずつ配置。柱に挟まれた天井は可動式トップライトになっていて、爆心地の方向に向いている。その正面には死没者名簿棚と献花台が、両側には木製のベンチが置かれ、亡くなった方に思いを馳せ、平和を祈念できる空間となっている。

施工においては、施設のほとんどが地下にあるため漏水防止を第一とするとともに、仕上がりの確認のための試験や、実物大実験を行った。コンクリートの地下躯体は、壁厚は大きいが防水層がないため、クラックが少なくなるよう耐圧版と外壁はセメント量の少ないスランプ12とした。隣の資料館との接続では、資料館1階を本設の深礎杭で受け、トンネル状に掘削、躯体接続には同一個所でEXPジョイントを設けた。地盤は粘性が高く、不透水層となっており、浮力計算では、その層によって被圧された地下水により、躯体が浮き上がる恐れがあった。そこでベースの下に導水溝を設けて対応した。主要部分のほとんどの壁がコンクリート打放しであり、色、剥離剤、化粧目地の状態など、事前に試験打設をして決定した。水盤は漏水防止のため、防水コンクリート、アスファルト防水、ステンレス防水の3重とし、光ファイバーを差込み固定するため、7万個の穴をウォータージェットで開けた。ガラスウォールは、追悼空間ガラス柱、水盤ウォールとともに光を発するため、支持金物の見え方、光の拡散具合など、実物大の模型で実験を行った。追悼空間の床は、着色高強度コンクリートの現場打ちでボーダーの大理石と色合いを合わせ、素材の内部からつやを出し、厳かさと柔らかさを兼ね備えた床に仕上がった。

本プロジェクトは、多くの人々の思いが込められており、それを実現するのだという決意のもと、JVが一丸となって工事を進めることができた。

BCS賞(2005年)を受賞、第12回公共建築賞(文化施設部門)国土交通大臣表彰を受けた。

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