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解説

施工困難な断層破砕帯を前例のない工法で克服

上ノ国ダムは北海道檜山郡上ノ国町を流下する天野川水系目名川に建設された、洪水調節、河川環境の保全、水道用水および灌漑用水の供給を目的とする重力式コンクリートダムである。

本体コンクリート打設には、拡張レヤー工法を採用。堤体中標高部までをダンプトラック直送方式、堤頂部を150tクローラクレーンおよび固定式ケーブルクレーン方式で打設を行った。

ダム本体の基礎岩盤は、全体的に堅固な岩盤であったが、大規模な断層破砕帯が3ヵ所発見された。右岸中標高部のF-9断層破砕帯は粘土化した粘板岩が最大幅約15m、右岸側に約50度傾斜して深部にまで続く大規模なもので、断層破砕帯を構成する粘板岩は掘削による応力解放や空気との接触で急激に劣化、さらに、粘板岩に含有される微細な黄鉄鉱が空気中の酸素と水に反応して硫酸が生成され、強酸性を呈することがわかった。このため、断層破砕帯直上から立坑を掘り、さらに横坑トンネルを縦に積み重ねるようにして断層破砕帯をコンクリートで置き換えるという過去に例を見ない工法により対処した。横坑を掘る際は基礎岩盤の劣化防止と酸性化防止のため、掘削後10時間以内に吹付けコンクリートを施工した。

さらに、ダム基礎岩盤には微細な亀裂が発達し、比較的透水性が高い割りには基礎処理の改良効果が低いという課題があり、あまり例のない超微粒子セメントを使用したグラウチングを実施した。

ダムの完成により生まれた人造湖は「あすなろ湖」と命名され、治水対策と近隣町村への生活用水供給において大きな役割を果たしている。

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