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解説
洪水の制御、利水、河川環境の保全を目的とした可動堰
紀の川大堰は、既存の新六ヶ井堰を改築し、計画高水流量を安全に流下させるとともに、適切な流量を維持することで河川環境の保全・向上を図り、また和歌山市と大阪府南部地域を対象として新規水道用水を開発するための多目的可動堰である。
施工位置は紀の川河口より6.2km上流の和歌山市園部・有本地区で、4回に分けて仮締切を設置してドライ状態で施工を行った。
施工にあたり最大の障害になったのは、支持杭が貫通する被圧帯水層からの被圧水の噴出の問題であった。揚水による周辺の地盤沈下と井戸枯れが起きる恐れがあり、揚水せずに鋼管杭周囲の遮水層を薬液注入で補完すれば、杭の本数が3,921本にのぼることから工程および工費の面で困難が予想された。そこで、揚水は周辺への影響が出ない最小限にとどめ、掘削最深部の基礎杭のみの薬液注入を組み合わせて施工した。
出水期(6月16日〜10月15日)には工事ができないため、非出水期の8ヵ月間に工事が集中し、橋梁メーカーや扉体メーカー(ゲートはすべて工場製作し、水上運搬して一括施工する工法を採用)との工程調整が欠かせなかった。日々の出水状況の把握も重要で、上流域の降雨状況と水位によって、準備警戒態勢から第1次、第2次警戒態勢、避難命令の4段階を定め、重機の避難用車両の手配から避難場所の確保、巡回警備頻度、緊急注水設備などについて対策を確立した。気象情報の収集には、レーダー雨量計やテレメーター降雨量、上流水位観測地点のリアルタイムデータを入手できる河川流域総合情報システム(FRICS)を導入するとともに、3時間ごとの天気予報と注意報・警報の状況を組み合わせて対処した。
本工事では、当社のプレキャスト型枠工法であるPCAフォームを採用した。型枠がそのまま構造物の外壁となるもので、堰柱の型枠として使用することによってコンクリート打放し面の保護材となるので、中性化や塩害の防止が期待できた。入札応募条件の「新技術・新工法の開発・活用への取り組み」に応えるものであった。
生態系保全への配慮から、堰には6基の魚道が設けられている。設計対象魚としては、アユ、サツキマス、ヨシノボリ、ウナギなどがあり、これらの魚の遡上を助けている。