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解説

タイ王国初の地下鉄建設工事

タイの首都・バンコクでは、1980年代のモータリゼーションの急激な伸びに交通インフラが追いつかず、慢性的な交通渋滞が社会問題化していた。この状況を解消するために総延長238kmの鉄道ネットワークシステムが計画され、その一環である地下鉄チャルーム・ラチャモンコン線はバンコク市内中心部より東方をコの字型に走るタイ初の地下鉄路線である。南北に分かれた工区のうち、当社JVは11.8km、9つの駅を含む北工区を担当した。

日本のゼネコンが参画する海外工事として過去最大級のものであったが、受注決定と相前後してタイの通貨危機が発生し、施工計画は大幅に変更せざるを得なくなった。特に用地の引き渡しが予定よりも遅れ、トンネルの掘進順序を変更せざるを得なくなり、何回もシールドマシンの引き揚げと再発進が必要となった。トンネルと地下駅を並行して施工するため、ファイバー筋を使用した連続地中壁をシールド機が貫通し、仮設セグメントを組みながら駅内を止まらずに掘進を継続し、後の駅内部掘削に伴って仮設セグメントを撤去するという工法を採用した。駅内で使用した仮設セグメントは廃棄処分となるので、その面でコスト高は否めないが、本工事のような長距離工事で、かつ駅・トンネル双方の工期が厳しい状況下では有効であった。

駅工事については周辺地盤への影響を最小限に抑え、工期短縮と洪水対策を考慮して、連続地中壁の本体利用、逆巻工法を採用した。隣接する民家などにほとんど影響を与えることなく、厚さ15mの軟弱粘性土を含む深さ20m余りの掘削を完了した。当社JVが担当した駅は交通量の多い道路下に位置しているので綿密な道路切回し計画を立て、警察とも連携を取りながら交通への支障を最小限に抑えるよう対応した。

2機のシールド機を、解体・引き揚げ・運搬・投入、そして再組立て・再発進を計6回繰り返して、トンネル掘削は完了した。一時は最高月進536mという日本でもあまり例がない高速掘進を記録し、かつてない長距離掘進のため、途中で何度も不具合を起こしながらも、シールド機は満身創痍でその使命を果たした。