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  • 写真提供:米国連邦高速道路局

解説

コロラド川を横断する北米最長のコンクリートアーチ橋

アメリカ・ネバダ州とアリゾナ州境に建設されたコロラドリバー橋は、アメリカ国定歴史建造物フーバーダムの下流わずか460mの地点に位置する。フーバーダムは1936年に完成したアメリカを代表する土木構造物であり、その貯水量400億tは、日本のすべてのダムの貯水量を合わせてもはるかに及ばない。

コロラド川を跨ぐ本橋を含む延長5.6kmのフーバーダムバイパスプロジェクトは、北米自由貿易協定において、メキシコ-カナダ間を結ぶ主要幹線道路と位置付けられているUS93号線の交通事情の改善に加えて、ダム本体へのテロ対策という安全保障を目的として計画された。当社JVは、このバイパスプロジェクトのメイン工事となる全長578mの「コロラドリバー橋」の建設を担当した。アーチ支間323mは、コンクリートアーチ橋として北米最長(世界第4位)の規模である。

アプローチ部の基礎掘削は、ワイヤーで吊られた作業員による手作業から始まった。断崖絶壁ゆえに、ほとんどの作業がケーブルクレーンに依存することになり、現場でのタワー組立てや各種ケーブルの設置を白紙の状態から練り上げることになった。加えて、過酷な気象条件にも悩まされた。夏場には最高気温が45℃を超え、湿度が10%にも満たない条件の中、作業員の健康管理やコンクリートの品質管理に特別な配慮が必要であった。また現場は強風地域にあり、クレーン作業は頻繁に中断を余儀なくされた。

本工事で特筆すべきは、アーチリブの施工技術である。長大アーチ橋の建設では、メラン材の使用やトラス工法の採用により、施工中の構造を極力安定させる方法もあるが、本工事ではアーチ部の形状管理の重要性を勘案して、ピロン張出し工法を採用した。さらに並列するアーチを連結する鋼製ストラットが、左右アーチ間において異なる荷重や挙動を伝達しあうため、アーチリブの形状管理や応力管理をシングルアーチに比べ難しいものにした。この複雑な挙動を3次元解析で施工ステップごとに分析し、実際の挙動を確認しながら慎重に施工を進めた。

フーバーダムはラスベガスから近いこともあり、年間百万人以上の観光客が訪れる。その眼前に繰り広げられるアーチ橋の建設にも大きな注目が集まった。現地では、施工当初に「本当に完成できるのか」という風評もあったが、工事が進み、橋が完成に近づくにつれ、メディアの関心も高まった。

2009年8月には無事アーチ部が閉合、翌2010年8月にはコロラドリバー橋が完成した。新しいフーバーダムバイパス道路も同年10月に開通し、開通前には盛大なセレモニーが開催された。歴史に残る橋が完成したときであると同時に、アメリカの地で、当社の総合力を証明できた瞬間でもあった。当社に対する現地での評価は高く、その証としてコロラドリバー橋の銘版には当社の名前が刻まれている。