つくるを拓く「熱狂」篇 (30秒)
ES CON FIELD HOKKAIDO PROJECT
エスコンフィールド HOKKAIDO
建設プロジェクト
北の大地に世界がまだ見ぬ「熱狂」の舞台を拓け

2023年春からプロ野球・北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)の新たな本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」。大林組はさまざまな部門の知見や最先端技術を結集し、「世界がまだ見ぬボールパーク」というビジョンのもと、国内初となる開閉式屋根付き天然芝球場の建設を進めていった。
「北海道らしさ」こそ、誰もがまだ見ぬスタジアムの姿だ
「エスコンフィールドHOKKAIDO」の設計・施工を担う会社選考のコンペは、2018年3月に一次選考、8月に二次選考が行われ、その間にファイターズとの3回の対話型ミーティングが設定された。コンペ前にファイターズから伝えられたイメージは、「天然芝で開閉屋根が付いた3〜4万人を収容できるスタジアム」という漠然としたもの。要求条件は「商業施設を付帯した10万㎡程度の規模」で、その後、温泉や宿泊施設、ビールのブリュワリー(醸造所)といった付帯施設の要望が加えられていった。大林組は、メジャーリーグ球場の設計を多数手掛けてきた米国の設計事務所・HKSとタッグを組み、ファイターズが夢を描いて提示する数々のアイデアを現実的な設計に結びつけることに挑んだ。
ところが、一次選考で大林組チームの評価は芳しくなかった。二次選考まで時間があまりない中、一気にトップに駆け昇るだけのアイデアを捻出しなければ受注には至らない。チームメンバーは時間を惜しんで提案書を練り直した。熱い議論を繰り返す中、ふと「北海道らしさを強調したデザインにするのはどうだろう?」というアイデアが出る。
では、北海道らしい建物のデザインとは何か? メンバーたちはヒントを探りに、北海道大学敷地内にある札幌農学校第2農場まで視察に出かけた。そこで彼らの目に留まったのが、切妻屋根である。それをモチーフの一つにすれば、自然に溶け込んだ北海道の歴史を感じる球場をデザインできるのではないか。他社がドーム型の未来的、宇宙的な球場を描く中、大林組チームはそのイメージからの脱却を狙ったのだ。「世界がまだ見ぬボールパーク」とは「北海道らしさ」というのが、チームの下した答え。それがファイターズの想いとつながり、ビッグプロジェクトの実現は大林組チームに委ねられる。まさに9回裏の大逆転劇だった。

知恵を絞り、どんな不可能なことも可能に変えていく
コンペを勝ち抜いた後、本当の闘いがチームを待ち受けていた。まずは技術面、法令面でクリアすべき問題が多々あり、どれも前例のないことばかりだ。例えばブリュワリーは法令上の用途は「工場」になるが、敷地のある都市公園内に工場を建てることはできないため、つくったビールを出荷せずに公園内で来園者に提供することに限定し、用途の制限をクリアした。一方、ホテルは旅館業法上、客室に外光を採り入れなければならないが、客室がフィールドに面しているとそれができない。球場の巨大なガラス壁から入る外光がフィールドを通じて客室に届くことから、「フィールド部分は縁側」というストーリーをつくり、旅館業法もクリアした。そうしたやりくりを重ねて、通常では不可能と思われることを可能にしていった。
法令をクリアするだけではなく、最高の「熱狂」を演出するにはどのような工夫が必要かも徹底的に追求した。快適な野球観戦を可能にするために、「ゲームの裏表でトイレがどれだけ混雑するか」といったことも、国際的なエンジニアリング・コンサルティング会社のArup(アラップ)と協働で人流シミュレーションを行い対応。球場内のコンコースは回遊型にして面積を広くとり、ショップを並べてフードコートを設置することに。試合が始まってもコンコースにいる人にまで熱狂が伝わるようなつくりにした。
社外はもちろん大林組社内のさまざまな部門と連携し、アイデアを具現化する方法を探って難題を一つひとつ解決。全体のパッケージは「まだ見ぬもの」だが、要素に分解することでそれぞれの専門的なノウハウを持つスペシャリストが対応して道を拓いていった。


この現場はオール大林で挑む「つくるを拓く」実験場
設計がどれほど優れていても、それを現実のカタチにできなければ意味がない。工事は2020年5月にスタート。目標は「2023年春プレーボール」だ。全体工期は32ヵ月。巨大かつ複雑な構造を持つ球場をつくり上げるために与えられた時間は多くない。しかも、敷地の大半は原生林のため、新球場建設と並行して、周辺・敷地内の道路や電力、ガスなどのインフラもゼロから整備する必要があった。
施工メンバーの多くが北海道以外から集まったが、工期中は厳寒期も乗り越えなくてはならない。地元のスタッフさえ雪が続くと心が折れてしまうものだが、寒さに慣れない遠方から訪れたメンバーも必死に冬期の工事と向き合った。しかも、着工の時期からコロナ禍に見舞われ、会合を開くことさえできない。ストレス解消の機会もほとんどつくれず、工事に打ち込む日々が続いた。
エスコンフィールドHOKKAIDOの屋根は、固定屋根と可動屋根で構成されているが、工程を考えると巨大なスタジアムの躯体と屋根を同時に施工しなければならない。ある意味、この現場を一つの実験場と考え、大林組が今まで経験したことのないやり方で挑んだ。

試行錯誤を繰り返し、天然芝へのこだわりを満たす
北の大地の寒さは、「天然芝球場」の実現にも大きなハードルとして立ちはだかった。大林組は日韓共催の2002FIFAワールドカップの会場となった、現在のノエビアスタジアム神戸の設計・施工・維持管理を行った経験がある。当時、大屋根付スタジアム内のスポーツ芝の育成ノウハウが日本国内にほとんどない中、試行錯誤しながら知見を積み上げ、維持管理を行ってきた。とはいえ、神戸と北海道では全く事情が違う。冬期は土の凍結や積雪があるため、芝を張る工事期間も限られてしまう。
国内外の屋根付スタジアムで天然芝の生育不良の原因となるのは、大半が日照不足によるもの。そのため球場の南側の壁をガラスにし、太陽光が多く採り込める工夫を行った。さらに、芝に有効とされている朝日が当たるよう、球場の向きを南東方向に傾けている。設計案通りにスポーツ芝として成立するか確認するために、自社で開発した芝の光合成シミュレーションソフト「ターフシミュレータ®」を駆使。その後も設計変更のたびにシミュレーションを行い、結果をフィードバックして、設計プランへ反映させていった。さらに、球場の隣接地にスタジアムの30分の1スケールのモックアップを6棟建て、さまざまな試験区を設置し、シミュレーション結果が正しいかを3年にわたり検証した。

新球場の壁に刻まれた、挑戦者たちの名前
本プロジェクトは北海道内でも群を抜く大規模な工事のため、施工はもちろんのこと、宿泊場所の確保や請求書処理などのバックオフィス業務も膨大な労力を要した。
そのような苦労の末、巨大な新球場の建設工事は重大災害を起こすことなく、工期通りに竣工を迎えた。そして、2023年3月30日、ファイターズ対楽天イーグルスの開幕戦で、エスコンフィールドHOKKAIDOは「熱狂」に包まれた。ファイターズのご好意により、ライト側のエントランスを降りたエリアにある壁には、工事関係者の名前が記されている。そこに自分の名前を見つけたメンバーたちの胸中にも、厳しい闘いの末に勝ち取った「熱狂」が渦巻いたことだろう。
しかし、これで終わりではない。エスコンフィールドHOKKAIDOは、始動後もさまざまなアップグレード工事が進んでいる。「熱狂」の舞台をより進化させるための挑戦はこれからも続いていく。
