
トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals
山岳トンネル編

大林組土木本部 生産技術本部 トンネル技術部 部長 後藤 隆之
「先進的な技術を取り入れながら、人が持つ経験も生かす」
山岳トンネル工事の現状
山に穴を掘り、掘った岩盤をコンクリートやロックボルトなどで支えながら造ってゆく山岳トンネル。NATM(新オーストリアトンネル工法)と呼ばれるこの工法は日本に導入されて50年ほど経ちますが、ほぼ確立された工法となっており、大型化への対応やICTが用いられるといった小さな変化はあったものの、大きな技術革新はなく、現在に至るまで基本的には同じ方法で工事が行われています。
限りある人材を技術力で補う
建設業界に限った話ではありませんが、近年、私たちの部門でも人材不足が大きな課題として立ちはだかっています。とりわけ山岳トンネル工事は特殊性の高い工種であり、技術伝承の重要性も高いのですが、技術を受け継ぐ若い人が入ってこないだけでなく、技術の渡し手となるベテランの坑内員も減少。一方ICT化が進み、新しい機械や施工中にさまざまなデータが大量に提供されるようになってきていますが、それらを使いこなせる人材の不足も喫緊の課題です。
建設現場全般を見渡すと、遠隔操作や工事の自動化などが実現されつつあり、無人化も手の届くところまで来ています。さらにその先には、機械が勝手に工事を進めてくれるような自律化も期待できます。山岳トンネルの分野もこれに乗り遅れないよう、AIや最先端技術の導入など時代の変化に合わせて行く必要性を感じています。

「安全」が最優先
さまざまな工種がある中で、山岳トンネルは比較的危険性が高い工事です。その理由は、掘っているトンネルの先端部にある切羽(きりは)直下でしなければならない作業があるからです。
安全を確立するために取るべき対策の根本となるのは、何よりも危険を排除すること。私たちは山岳トンネル工事の現場における切羽災害をなくすことが使命だと捉え、切羽作業の無人化へ向けて、現場であっても安全な場所で遠隔操作のできる機械の開発などを推進しているところです。
技術開発と人材育成の両立
遠隔操作や工事の無人化は、安全確保と人手不足の解決という2つの命題を同時に解決してくれる魅力的なテクノロジーですが、こと山岳トンネル工事に関しては、このような技術のみに頼りきれる現場ではないという特殊な事情があります。
多くの火山が立地し、地震が多発する日本では、トンネル工事現場の地質も複雑であり、毎日のように切羽の状況が変化します。2つとして同じように工事を進められる現場はなく、担当者全員、すべてが初めての体験です。そのような場所で思いがけないアクシデントが発生した場合、とっさの判断力が求められます。そういったときに頼れるのが場数を踏んだベテラン社員や坑内員です。
遠隔操作による工事を応用していけば、トンネルの外、もっといえば離れたオフィスなどから作業が行えるでしょう。しかし、現場で不測の事態が発生した際には担当者がすぐに駆けつけ、状況を見極めて素早く適切な判断を下さなくてはなりません。
このような事情を鑑みると、「省人化に対応できる技術の開発」と「現場での経験を積み重ねた人材育成」の両方をバランスよく進めていくことが重要になります。

他部門や仲間と相高めあえるのが仕事の醍醐味(だいごみ)
山岳トンネル工事は自分たちの部門だけで仕事を進めることはできず、他部門の協力を仰がなくてはならない点が多いことも他の工種にはみられない特色だといえるでしょう。
トンネル単体で工事をすることは少なく、他の構造物と同時に作業をする機会が多々。ICTなどを活用するロボティクス生産本部や先端技術推進室、地質についての知見やコンクリートについての専門知識や技術を備えた技術研究所、その他生産技術本部各部などいろいろな部門と一緒に仕事をしています。
さらに、慶應義塾大学の最先端技術をトンネルに応用するため、同大学とコラボレーションして新技術の開発をするなど、社外の人との交流も盛んです。
また、全国各地に赴いてトンネル工事に携わっている人たちの間にはネットワークができあがっており、たとえ会ったことがなくても仲間意識が強く、困ったときに相談し合えるのがいいところ。新しく登場した建設機械の勉強会を開くなど、協力会社も含めて互いに切磋琢磨する習慣が根付いています。