トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals

山岳トンネル編

大沼トンネル避難坑西大沼工区工事JV工事事務所 副所長 高橋 佳孝

大沼トンネル避難坑西大沼工区工事JV工事事務所 副所長高橋 佳孝

「トンネル建設に不可欠な技術と人」

伝統技術の継承とICT技術の導入

大沼トンネルは、北海道縦貫自動車道のうち、七飯IC(仮称)と大沼公園ICの間に位置するトンネルであり、現在は避難坑を施工中です。本坑は開通すれば、北海道最長の道路トンネルになる予定です(2020年現在)。

今回の避難坑建設で使われている「NATM(新オーストリアトンネル工法)」は、山を掘削し、コンクリートを吹き付けて成型した部分に、コンクリートと岩盤を固定するロックボルトを打ち込み、地山自体の耐力を活かしてトンネルを保持するという工法です。
NATM自体は一般的なものですが、掘った土(ずり)をトンネルの外へ運ぶために、近年では珍しい「レール工法」を採用しています。これはトンネルが幅4.26m、高さ3.60mという小断面のためです。作業空間が狭くダンプトラックが入れないので代わりにトンネル内にレールを敷き、専用の機関車で土を運び出します。

私が20年間で携わった7本のトンネル工事のうち、レール工法を用いたのは今回が初めてです。現在ではダンプトラックなどの自動車を使用する「タイヤ工法」が一般的で、レール工法はあまり採用されておりません。しかし、この避難坑のように、レール工法でなければならない現場もあります。私も含め、工事に携わる作業員は非常に貴重な経験をしています。
こうしたまれな技術だけではなく、本工事では調査・計画・設計・施工・維持管理のすべてを、3次元モデルに集約するシステム「CIM」や、操作性・セキュリティーに特化した企業向けのチャットツール「direct」など、新しい技術も取り入れています。その意味では、大林組の総合的な技術が集合した現場と言えます。

地域住民の安心のために

避難坑建設にあたり、周辺地域にお住まいの方々の理解を得ることが不可欠でした。地域の方々に安心して見守っていただけるように、「掘った土の管理状況」「現場のスケジュール」「工事の進捗状況」などをまとめた広報紙を毎月発行し、公民館に掲示したり各家庭に配布したりしています。

ただでさえ中で何が起きているかが分かりにくい建設現場ですので、現場の写真も多く載せるなど工夫し、地域の方々に工事が安全であることを伝え、信頼していただけるように努めています。大型車両の走行予定など、現場の外にも関わる情報は特に喜ばれています。

大沼トンネルJV工事事務所 副所長 高橋 佳孝
大沼トンネル完成に向けて

工事期間、大きな台風や胆振東部地震など想定外の災害発生もありましたが、工事はおおむね順調に進んでいます。大沼トンネル建設に関わる一人ひとりの力が合わさってのことだと思います。自社、他社の垣根なく、おのおのが持つ力を最大限に発揮できる現場にはコミュニケーションが欠かせません。「人がいないとできない仕事」であることを常に心に留め、作業員、発注者、地域の方々、工事に関わるすべての人に誠実であることを心がけています。

大沼トンネルの建設はトンネル史に名を残す工事となるはずです。貫通式でほっと息をつくのを、今から楽しみにしています。