トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals

山岳トンネル編

立岩トンネルJV工事事務所 所長 神谷 信毅

立岩トンネルJV工事事務所 所長 神谷 信毅

「技術・経験・テクノロジーを最大限に活かす」

一筋縄ではいかないトンネル建設

立岩トンネルは、2030年度末に完成予定の北海道新幹線 新函館北斗駅―札幌駅間に建設されるトンネルの一つです。大林組ではトンネル全長約17㎞のうち4.96㎞の山崎工区を担当。トンネルの掘削にはNATM(掘削部分にコンクリートを吹き付け、ロックボルトで岩盤と固定する)という工法を採用しています。

工法自体は山岳トンネルによく用いられるオーソドックスなものですが、だからといって工事が容易であるということはありません。特に、当工区は地質の変化が著しく、また、河川の真下を2ヵ所通ります。そのため、綿密な地質調査とその調査結果に基づく支保設計を実施し、状況によっては補助工法を適用するなど、しっかりと安全を確保した上で掘削に当たります。慎重な作業が必要で、一瞬たりとも気の抜けない難しい現場だからこそ、技術者の腕の見せ所でもあります。

熟練の経験と力がテクノロジーを活かす

トンネルの建設現場では測量が大きなファクターの一つです。トンネルの品質や作業の安全性に関わるのはもちろんですが、最終的に他の工区のトンネルとつなぎ貫通するために、すべての工程において、わずかなズレも許されません。昔に比べると測量の技術は格段に向上しましたが、それでも何度も何度も測量を繰り返し、誤差を限りなくゼロに近づける努力を重ねています。

最近では、AIなどを活用したさまざまなテクノロジーが建設現場で活躍する場面も増えてきました。重機と作業員の距離を検知し、危険な位置まで接近すると警報とともに重機を自動で停止させるシステムや、車両を検知してトンネル内の往来を円滑にする信号機システムなど、安全性や作業効率の向上に大きく寄与しています。

大林組では、こうした多様な先進技術を建設現場に積極的に取り入れています。しかし、機械や技術に頼り切りになるわけではありません。どれだけ高性能化が進んでも、それを活かすのは、やはり人。特に不確定要素が多い山岳トンネルの現場では熟練の経験や判断が不可欠であり、そうした人の力があってこそ、テクノロジーの真価が発揮されるのです。

立岩トンネルJV工事事務所 所長 神谷 信毅
これからのトンネル建設

当現場は比較的若い作業員が多いのですが、ベテランの熟練工から薫陶を受け、技術を継承していく姿は頼もしい限りです。
これまでトンネル工事といえば、新たに建設する事業がメインでした。しかし、高度経済成長期を経て主要なトンネルが全国に開通した今、建設業に求められているのは、それらの劣化を防ぐ補修やメンテナンスであり、大規模なリニューアル工事も増えつつあります。トンネル事業が新たなフェーズに入る中、多くの現場で磨かれた匠の技術・経験と、新たなテクノロジーを駆使する若手の力の融合が、大林組の強みとなるはずです。

立岩トンネル貫通をめざして

私がトンネル建設に携わるようになって23年が経ちますが、同じ環境や条件の現場は一つとしてなく、一瞬一瞬が常に自然との闘いであり、さまざまな変化への対応が求められます。そうした中で知恵を絞り、技術を駆使してトンネルを掘ることが技術者としてのやりがいだと考えています。 実を言えば、掘っている間は不安です。不安だからこそ一所懸命に取り組みます。無事にトンネルが貫通したときの気持ちは一言では言い表せませんね。
本工事においても、毎日寝起きを共にする家族のような技術者や作業員たちと、笑顔で貫通式を迎えられることを願い、その日を待ち遠しく思います。札幌行きの新幹線に思いを馳せつつ、当たり前のことを当たり前に。一つひとつの工程に真剣に取り組んでまいります。