
トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals
シールドトンネル編

大林組土木本部 生産技術本部 シールド技術部 部長 武田 厚
「機械の力」と「人の力」を両輪として
日本で発展を遂げたシールド工法
建設プロセスのほとんどを地中で行い、環境への影響が少ないという点が大きな特色となっているシールド工法は、19世紀にヨーロッパで開発されました。
日本では1936年に本州の下関と九州の門司をつなぐ関門海底トンネル工事の一部で初めて本格的に採用されたのち、1970~1980年代には土圧式という我が国独自のシールド工法が発展。現在では、その技術が世界中の道路や鉄道、ガスや水道の共同溝など、さまざまな場面で活躍しています。
課題は今後の技術継承
少子高齢化が顕著になりつつある昨今、私たちの部門でもマンパワー不足が大きな課題となっています。新たに入ってくる若い人たちが減っているだけでなく、約50年をかけて積み上げられてきたシールド工法の知識や技術を持つベテランの人材も一気に減少。伝承していくことが年々困難になりつつあるのが現状です。
そんな喫緊の課題解決へ向けて、私たちはICTやAIなどを取り入れた業務改善や技術開発に着手。経験や知識が少ない人でもこれまでと同様の作業ができる環境づくりを推し進めています。

シールド自動化施工システム「OGENTS(オージェンツ)®︎」への期待
現在直面している人材不足問題を解決する具体的な方策として注力しているのが、シールド自動化施工を実現する技術「OGENTS(オージェンツ)®︎」です。
シールド工事で必要となる6種類の作業工程「シールド測量」「シールド運転」「掘削土砂搬出」「裏込め注入」「シールド設備」「セグメント組立」のすべてを自動化するものであり、完成すればシールド工事に関わる技術者や作業員の人数が半減できると見込んでいます。
それぞれの工程の自動化はほぼ完成しており、現在はこれらを統合している段階。シールドトンネルの自動化施工はもう手の届くところまで来ているといっていいでしょう。
テクノロジー開発と並行して人材育成も重要
工事の自動化は、人手不足の解消に確かに有効ではありますが、それだけですべての課題を補いきれるものではなく、すべての自動化が効率化につながるとはいい切れません。ケースによって使い分けが必要になると考えています。
トンネル工事は自然相手であり、機械にのみ頼っているわけにはいきません。不測のトラブルが発生した際には人が持つ経験が必ず求められます。そういった事情を考慮すると、ICTやAI、自動化といった先端技術の開発と同時に、これまで培われてきた知識や技術を継承する人材育成をあわせて行っていく必要があると強く感じています。
そういったこともあり、大林組では2年に1度、工種ごとに全国の専門技術者を集めた研修会を実施。単に知識を詰め込むだけでなく、人と人が対面で交流し、情報交換が行える機会を設けています。
また、新たな技術の情報やトラブルの事例などは、日常的に現場で働く人たちも含めて共有。組織として知識や経験を蓄積していく仕組みが根付いています。

「人間力」を根底に
工事の自動化など、テクノロジーは日進月歩で発展していきますが、その分「人の力」が重要になってきているのではないかと個人的に感じています。
シールドトンネル工事は自然相手の仕事であるほか、近年は諸外国、特に中国の技術発展が目覚ましい状況にあります。その中で私たちは、単に知識を蓄えるだけでなく、自然に立ち向かう気概やグローバルな視野を持つといった意味も含めて謙虚に学び、仕事に向き合う姿勢を持たなくてはなりません。
私たちの仕事は機械に頼るところが多大です。機械に頼るべき部分は頼ってしかるべきですが、最終的には現場にいる人と、その人たちをサポートする人が力を結集して、同じ目的意識をもって課題に立ち向かうことが大事だと思っています。
「人を大事にする」という社風の大林組のもとには、個々人のモチベーションを高め、それを「組織力」として結集できる地盤が用意されているので、これからも機械の力とともに人の力も向上していけるよう取り組んでいきます。