トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals

シールドトンネル編

南部幹線シールド⼯事事務所 工事長 森 理⼈

南部幹線シールド⼯事事務所 工事長森 理⼈

「求められるのは豊かな想像力」

URUP(ユーラップ)工法®によるパイプライン敷設工事

愛知県三河方面の供給安定性向上を目的とし、建設が進められている都市ガスの基幹パイプライン「南部幹線」。その一部をなす高浜工区で2020年1月末から始まった工事に私は工事長として携わっています。

本工事の大きな特色として、泥土圧シールド機を使ったURUP工法®を採用している点が挙げられます。このURUP工法®は、立坑を掘って地中で発進・到達する一般的なシールド工法と違い、地上発進・地上到達を行うというこれまでの常識を覆す工法です。立坑を掘削しないため、工期を大幅に短縮できることに加え、建設発生土を低減でき、立坑施工による振動や騒音も抑えられるというメリットを備えています。

その一方、発進・到達地点付近では土被りが小さくなってしまうのが難点で、地下水によるトンネルの浮き上がりなどのリスクが懸念され、本工事の発進時にも特に注意しました。
2021年10月現在、掘削は順調に進んでおり、延長約2,500mのうちの1,300m程度まで掘進完了しております。

計画は繊細に、実行は大胆に

現在、私は入社して20年目になります。初めて現場でシールドトンネル工事を経験した後に、一度シールド技術部に配属となりましたが、その後は一貫してシールド工事の現場に立ち続け、合計で10km以上の掘削を担当しました。今回で7本目となります。

中でも北海道の北見で携わった現場では、施工だけでなくセグメントの設計も任せてもらい、自分で考えたものをつくる面白さを感じるとともに細かな不具合にも即座に対応することができました。この経験を通じて得られた現場に即した設計に関する知見は、現在、コスト削減を検討する際などに大いに役立っています。

シールド工事では掘削するシールド機も、掘削後に組み立てるセグメントも事前に準備しなくてはならないので、工事にあたる際には「段取り八分」という言葉を念頭に置いて行動するようにしています。この言葉には、想定外のことが出てくるたびにいちいち悩んで工事が立ち止まってしまうことのないよう、考えられるリスクは事前に洗い出し、すべて頭に入れておくということも含んでおり、ハード、ソフト両面の準備を万端にして工事に臨むのが私なりの作法となっています。

南部幹線シールド⼯事事務所 工事長 森 理⼈
大事なのは想像力

山岳工法でトンネルをつくる場合には直接地山を見ながら掘り進めていけますが、シールド工法の場合は地山を目視することなく最後まで掘削が続けられます。また、掘削によって出てくる泥土には、加水した際の水や添加材が混ざっているため、本来の地盤の性状を正確に把握するのが難しく、作業を通じて得られた分析データをもとに想像していくしかありません。

私はこの「データから想像する」という点にシールド工事の本質が垣間見えているように思え、とても面白い部分だと感じています。正しくデータが扱えて豊かな想像力を働かせることがこの仕事ではとても重要になってきます。かつての自分もそうでしたが、キャリアの浅い人でも遠慮することなくデータを元に同じ土俵で闊達(かったつ)に意見を交わし、チーム一丸となって質の高い仕事をしていければと思っています。

シールド工事をけん引する立場へ向かって

今回の工事の主役ともいえるURUP工法®を生み出したメンバーをはじめ、これまでさまざまなシールド工事の先輩たちと一緒に仕事をしてきましたが、すべての人に言えるのが「常識にとらわれない」ということです。
いわゆる難工事に向き合う際にも「できる可能性があるからやる」という気概を感じてきました。また、皆さん数字で検討するのにも長けているうえに、しっかりと現場も体験してきているので意見を交わす場での理論も盤石。人間的にレベルが高い人たちばかりです。
近い将来、自分もそちら側に立ってしっかりとリードしていけるよう、想像力を大切にしながら、まずは現在手がけているトンネルを事故なく、進捗を管理し完成させたいと思います。