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  • (C)野田東徳

解説

湾曲した回廊型ギャラリーを持つ日本初の写実絵画美術館

ホキ美術館は、千葉市緑区の昭和の森公園の隣接地に計画された、日本初の写実絵画専門の美術館である。湾曲した回廊型の躯体が3層に重なり、1階のギャラリー部分の一部30mが跳ね出し構造になっているのが大きな特徴である。

ギャラリー内部は、写実絵画ならではの繊細さを保つため、鑑賞の妨げとなる壁面の目地やピクチャーレール、ワイヤーなどを一切排除した設計で、絵画とじっくり向き合うことができるシームレスな展示空間となっている。展示照明にはLEDライトを採用し、展示される絵画の特性に応じて照明を調節することが可能である。

施工では、コンクリート構造物のセメントや骨材に含まれる窒素化合物と水が化学反応を起こして発生するアンモニアガスが美術品を変色させる性質を持つため、その発生防止が課題となった。そこで窒素化合物の含有量の少ない石灰岩を骨材に採用し、単位水量の少ないコンクリートを使用。水分量の少ないコンクリートは打設が難しいが、仕上がりにムラや隙間が生じないよう片時も目を離さず管理を徹底したことで、密実で高品質なコンクリートに仕上げることができ、アンモニアガスの発生も基準値を下回った。

宙に跳ね出した部分を含む鋼板構造は列車車両などに採用されており、主に溶接で組み立てたが、安全性と作業性を考慮してベント工法を採用。井桁に組んだ支保工上で床下鉄板、床梁、床上鉄板、柱、壁、屋根下鉄板、屋根梁、屋根上鉄板と鋼鈑を組み立て、溶接が完了した後ジャッキダウン、支保工を解体していくが、跳ね出し部分は鉛直方向にたわみが発生し、鋼鈑の溶接個所の変形も予測される。このたわみと溶接変形を考慮して最終的な建て方精度を確保するために、鋼鈑のたわみを丁寧に矯正し、溶接手順を工夫した。事前に当社の技術研究所でさまざまな実験や解析を行い、問題点を解決しながら進めたことが、難しい施工を成功に導いた。

「収蔵されている作品のみならず、建築としても魅力あふれる美術館」というコンセプトにチャレンジし、当社の高い技術力で実現した建物は、2010年8月に無事竣工を迎えた。11月にオープンしたホキ美術館は、新しい芸術拠点として文化の発信に貢献している。

JIA日本建築大賞をはじめ、千葉県建築文化賞、千葉市都市文化賞、日本照明賞、AACA賞優秀賞、日本鋼構造協会業績賞(すべて2011年度)を受賞した。

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