現代工法による

クフ王型大ピラミッド建設計画

復元:大林組ピラミッド建設プロジェクトチーム

クフ王型大ピラミッド建設計画――現代に巨大ピラミッドを建設すると

紀元前2500年頃に建てられたエジプトのクフ王の大ピラミッドは、何のためにつくられたのか、どのようにつくられたのか、今もよく分かっていない。その異形ぶりとおどろくべき完成度は他にない不思議といってよい。その不思議に一歩でも近づいてみようと、私たちは、建設技術者の立場からかつてないアプローチを試みてみた。それが、あの大ピラミッドを現代に建造してみると、いったいどういう工事になるだろうか、という誌上での試みだ。

クフ王型大ピラミッドとは

その底辺は一辺が約230mの正方形で、それぞれの面は正確に東西南北の方位に対面している。また、四つの角は完全な直角だ。方位や角度を正確に得るのは現代でもなかなか困難で、どうやって算出したものかいまだに定説はない。

また、一個平均2.5~7tの石灰石の切り石230万個を、正確に四角垂を形成するよう、高さ147mに積み上げており、どうやってこれだけ正確に積み上げることができたのか、専門家ほど驚く正確な完成度なのである。

建造の前提条件は

立地は、エジプトのギザ市の同じ場所とする。そして、建設技術は現代の最新技術を用いるものとし、主要な工事機械は日本から運ぶ。設計・施工の管理はわたしたちプロジェクトチームがおこない、施工作業のスタッフは現地に求める。

建設概要

高 さ146.60m 基面幅230.42m
傾 斜14:11 (51°52′)
段 数158段 全体積2,600,000m3
石の高さ第1段 1.50m 第2段 1.25m 第3~4段 1.10m 第5段以降 0.90m
入口(北面)GL+16.75m(中心線より7.32m)

石材は、古代にエジプト人が用いた石灰岩を当時と同じ近くの採石場から得ることとする。また、玄室「王の間」などにもちいる重量500tの花崗岩は近辺には無いため、遠く100km以上もの上流から別個に運びこむ。

最初の作業が、この石材の量と数を計算することであり、次いでこれを採石、検査、運搬、さらに据え付けという4つの工程に分ける。とくに配慮が必要なのが、四角垂の構造体は、工事がすすむにつれて、高度が上るにしたがって工事量が激減していく。同時に作業場所も狭くなっていき、クレーンなどは使えない。高さが60m(全高の10分の4)の段階で、全石数の80%を施工することになり、難しい課題となる。そこで、かつてと同じように土盛りをして運搬用の巨大斜路を造成して、大量の石材を搬入することとした。

工事の進捗

この大ピラミッドの全重量は580万tと試算し、現地の地質は石灰質であり、よく耐えると判断した。この基礎地盤はブルドーザで掘削したうえで水平に仕上げ、ここに高さ50cmの礎石を敷き詰める。その上に本体の石を積み上げていく。高度が上るに従い、土盛り築造した斜路を利用して専用トラックで運びあげる。

工事数量表
労務計画表
材料仕様
建設工事工程表
施工手順

総工費は1250億円

工程の管理とその運営も、精度をきわめたものとなる。そして、下表の通り<工事費見積り>総額は1,250億円である。工期は5年となる。

――今から4500年の昔のエジプト人たちがおこなった同じ工法を、現代の建設費に試算すると、次の通りとなる。
▶20万人×30年×12ヵ月×平均6万円/月=約4兆円
――現代の世界には、単体でこれほどの金額にのぼるものはまだない。

すばらしかった人びと

かつての大ナイルは毎年夏から秋にかけて規則正しく、広域にわたる氾濫を繰り返した。この間の4ヵ月が農閑期となり、農民の大動員がおこなわれた。全国から人びとを集め、食糧を支給することは、同時に富を再分配し、農民の救済ともなる。

また、すぐれた建設機械もない当時であるから、大量の人びとを大動員する工事は、すべてが人の組織にかかっている。それは、明確で精密な計画と組織を有した機構の充実ぶりも物語っている。だからこそ、あの広大なナイル流域の水利・灌漑はじめ膨大で複雑で困難な整備と維持を可能としていた。つまり、このピラミッドの巨大さは、莫大な経済力と高度の技術力、そして数多の労働力が有効に組織化されていた姿も示しているのである。

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この記事が掲載されている冊子

No.1「ピラミッド」

季刊大林は、建設という視点を通して人類が築き上げた文明、文化を考証し、また未来社会のあり方を模索することも目的に創刊しました。
最初に扱うのは古くから世界七不思議の筆頭に挙げられ、誰しもが心惹かれるエジプトのピラミッドです。古代エジプト人が営々辛苦築き上げた巨大な建造物はどのような思いが込められていたのでしょうか。
本号では、各界の専門家にピラミッドの謎に迫っていただくとともに、現代ならばどれくらいの年月と費用、労働力で完成できるのかを検討してみました。
(1978年発行)

古代国家と巨大建造物

三笠宮崇仁(古代オリエント学会会長)

ビッグサイエンスとしてのピラミッド

川添登(建築評論家)

社会現象としてのピラミッド

米山俊直(京都大学助教授)

ピラミッド辞典

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