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#03 HISAO BABA Anthropologist

INTERVIEW #03 HISAO BABA
Anthropologist

Q:馬場先生にはCMに登場する原始人を専門家の見地から監修いただきました。まずはこの原始人の基本的な部分についてお聞かせいただけますか?

A:この原始人はホモ・ハビリスと呼ばれています。ハビリスは「器用な」という意味で、彼らはものづくりを始めた最初の人類です。年代としては約190〜240万年前。脳の容量は私たちの半分から3分の1くらいで、知能はかなり発達していました。森から出て草原を二足歩行するようになったので、足に土踏まずがあるのも特徴です。短距離は私たちと同じように歩きますが、脚が短く長距離を歩くのは苦手だったようです。

Q:あらためて動物と人間を分けるものは何なんでしょうか?

A:人間と動物の違い、それは家族形態なんです。つまり「家族がいくつかあって、全体として協力しあっている」。実はこれは人間しかやりません。たとえばライオンやゴリラには家族があります。でも家族同士は敵対関係です。一方チンパンジーやヒヒには家族がありません。50頭以上の群れがあって、その中に順位、つまり身分があり、エラいやつが威張っている(笑)。ホモ・ハビリスには家族があったとされています。しかも、家族同士が協力しあい慈しみあう共同社会をつくっていたんですが、これは牙も爪もない彼らが、危険な平原で暮らしていくために必要だったんですね。

Q:なるほど。今回のCMでも3人の集団が描かれていますね。

A:他にも人間と動物で異なるのは「白目」です。人間だけが白目が目立つ。白目があると視線の方向がわかってしまうんです。たとえばライオンがシマウマを狙うときは、どの個体を狙っているかわからないようにしたい。だから黒目しか出さないようにします。でも人間は白目を出すことによって「あなたに注目していますよ」「仲良くしたいですよ」、そういうメッセージを送るわけです。もちろん骨と違って眼球やまぶたは残らないので、ホモ・ハビリスでは白目が見えたかどうかはハッキリとはわかりません。ただ火に興味を示してものづくりを始めるという人間の要素があったことを加味して、今回のCMでは白目があるように描いてもらいました。

Q:人類の最初のものづくりはどういったものだったのでしょうか?

A:ハビリスという名の通り、器用な彼らが行ったものづくりの始まりは石器です。そのへんの石ころをカチンと割って、そのエッジを使って動物の皮や肉を切っていました。ここから「複雑化」と「定型化」ということが起きます。つまり、お互いに学び合うということと、みんなで同じものをつくるということ。どこを叩くとどう割れるのか。言葉はなくても見ていればわかりますからね。決まったものを決まったテクニックでつくれるようになり、それが継承されていく。やがて伝統として残り、ものづくりの技術が発達していきます

Q:今回のCMでは人類が火を手にする瞬間が描かれていますが、人類と火の関係についてお聞かせいただけますか?

A:人類と火の関係というのは、次元の違う2つの側面があります。ひとつは、自然に発生した野火をちょっとの間使うというもの。まさにこれは、今回のCMでも描かれているように、ホモ・ハビリスがやっていたかもしれない行動です。もうひとつは、長期間にわたって火を保存して管理する、つまり炉として使うというもの。これは地面が赤く焼けて化学反応を起こしていたり、石器が焼けていたりという証拠からわかるんですが、実はそこまで古くありません。現状最古のものはイスラエルにある遺跡で、約80万年前のものといわれています。

Q:ここまで人類の過去について伺ってきましたが、人類の未来について、先生のお考えをお聞かせいただけますか?

A:私は、文明というのは「欲望充足装置」だと考えています。いまその欲望が膨れ上がっている。産業革命以降、再生不可能な過去の遺産を食いつぶしながら大きくなった結果、文明崩壊は目前に迫っています。私たちは、一度文明を縮小する方向へ進まないといけない、完全な意味での持続可能な社会をどうやってつくるのかを考えないといけない。そのとき、かつて森から出たばかりの人類がやっていたような「家族同士が協力しあい慈しみあう共同社会」のあり方が、ひとつのヒントになると考えています。

Q:最後に、先生の考える「つくるを拓く」について、今後先生が拓いていきたい新しい挑戦や目標があれば教えていただけますか?

A:今まで原始人の頭蓋骨をいくつも見てきましたが、そうすると「現代人の歯並びが悪い」こと、さらに「現代人の口の中、つまり口腔(こうくう)の容積が減っている」ことがわかります。それの何が問題かというと、舌が喉の奥に入り込みやすくなって、いわゆる睡眠時無呼吸症候群になりやすくなるんです。これはさまざまな病気を引き起こしますが、今それが中年世代だけでなく、若くて痩せた人にも増えてきている。じゃあなぜ口腔の容積が減っているかというと、「硬いものを前歯で食いちぎる」ということをしていないから。たとえば縄文人は顎もしっかりしていて、歯並びもキレイなんです(笑)。いま私は神奈川県座間市の教育委員を務めているんですが、年6回、地元の小学校の給食で、アジの干物の素揚げをまるかじりするということをやってもらっています。これは永久歯が生えてくる小学生が最後のチャンスだからです。人類学的な立場から、人間本来の姿を考えて、未来に貢献していきたいですね。

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