Internet Explorerで本サイトを正しくご利用いただくには、下記の環境が必要です。
Internet Explorer 11.0以上 ※Internet Explorer 11.0以上をご利用の場合は、「Internet Explorerの互換表示」の無効化をお試しください。

OBAYASHI INTERVIEW #03 HIDEKI KASAI Architect

OBAYASHI INTERVIEW
#03 HIDEKI KASAI Architect

Q:まずは自己紹介をお願いします。

A:私は、大林組のPPP事業部に所属し、さまざまな公共プロジェクトにかかわっています。PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)というのは、行政と民間が連携して公共事業を行うことで、その中でも私は、公共施設の設計・建設・維持管理・運営に、民間の資金と知恵を活用していくPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)という手法を活用し、多くの劇場や図書館などに関わってきました。元々は建築設計の部署にいたのですが、東日本大震災を経験して社会に役立ちたいとの思いが強くなりました。そんな折、幸いにも福島の環境再生事業などに関わり、その後、PPP事業部に異動。いまは事業を通しての社会貢献に自分の経験を活かしています。

Q:あらためて大林組の「FUWWAT(ふわっと)2050」構想についてお聞かせください。

A:各分野で注目されているナノテクノロジーをテーマに建築で何ができるか、それがスタートでした。1nm(ナノメートル)は1mmの100万分の1というスケールなんですが、その極小の世界で生み出される緻密な技術がナノテクノロジーですね。ナノマテリアル(素材)は軽くて強い。ナノマシン(機械)は小さく多機能。その2つを組み合わせることで実現する空中都市を沿岸部に建設する構想です。しなやかな強度のある素材「カーボンナノチューブ」でつくったフレームと、透明性と耐久性のある素材「セルロースナノファイバー」で空気膜をつくった街を、同じくカーボンナノファイバーでつくったワイヤーで吊り上げて空中に設置するんです。津波や海面上昇にも対応できる地上30mに設置する想定で、業務・商業施設棟、病院・公共サービス施設棟、住宅棟から構成されています。

Q:ナノテクノロジーを使った場合に実現しうるさまざまな未来の中から、この構想に行き着いた経緯を教えていただけますか?

A:まず思いついたのは、超高層ビルでした。ナノマテリアルは軽くて強いので、現在の10倍くらいの規模の建物を実現するのは簡単なんです。しかし、ナノテクノロジーが実現する未来はそれだけじゃないだろうと。ナノテクノロジーの専門家への相談や見学を重ねて可能性を深掘りしていきました。
まず、当時は東日本大震災の直後で沿岸部は危険と言われていたので、ナノマテリアルを活用すれば防災機能を持たせられるのではないか。そして、まだこの世にない技術であるナノマシンが普及した未来のライフスタイルはどのようなものか。そこから生まれたのが、街を浮かせるという発想でした。

Q:この構想は未来にどんな変化をもたらすとお考えですか?

A:建設業は常に重力との戦いなんですよね。だから大きいものをつくるのは難しい。海上は工事も難しく、それが顕著です。軽ければ空から運んで設置も可能なので、海上の大きな建築、それが叶う可能性があるという意味で、建設業界の概念を広げて街づくりができると思っています。また、空調やディスプレイなどもナノマシン化すれば壁に埋め込めるので、デザインや建設工程自体もシンプルにできるんです。これまでばらばらの場所でばらばらにつくったものを現場で組み合わせていたものは、スーパークリーンルームをもつ工場でつくることになります。建設業というと3K(きつい・汚い・危険)なんて言われた時代もありましたが、ほとんどの材料が工場で安全かつ清潔につくられることになります。現場ではつなげるだけで工程も少なくなりますから、騒音問題の解決にもつながりますね。

Q:ナノテクノロジーは、建築のほかにどんな分野に役立っていくとお考えですか?

A:さまざまなものが小さく軽くなりますから、移動する際の持ち物が一気に減り、身軽になりますよね。もちろん、衣服のように残るものはあるのでしょうが、進化する振り幅はあるのではないでしょうか。小さくて軽いと例えば宇宙に行くうえでも特に便利そうです。ナノマシンは既に医療の世界で使われて、体内での患部を狙い撃ちした薬の投与などは実用されていると聞いています。

Q:他分野での技術革新によって建築も変化していくのでしょうか?

A:ナノレベルは水の分子より小さな世界。建築で扱っている世界とは規模が違いすぎて、ナノテクノロジーの建築への応用を考え始めた際には、社内でもナノレベルのものにまで注目する必要があるのかという声はありました。しかし、瓶の飲み物がペットボトルに変わったときのように、ものが軽く小さくなると生活そのものまで変わるんです。建築関係だとセンサーが分かりやすいですね。ナノサイズのセンサーならあらゆるところに埋め込められるので、温度や湿度が細かく自動調整できますし、VRやアバターも活用して別々の場所にいる人たちが同じ空間に一緒にいるような感覚を得るのも可能になるでしょう。また、そういったセンサーは自家発電が可能ですからエネルギーの分野にも変化をもたらします。そんな新たな未来を提示していくことで、大林組だけではなく社会全体で目指し、挑戦するキッカケにしてほしい。そんな思いからあらゆる未来構想を発信しているんです。

天井照明:パーソナル照度特性を考慮した空間全体照度の最適化
床:輻射パネルによるパーソナル温度制御
音環境:利用目的に合わせたスポット残響制御

Q:課題解決に興味があるとうかがいましたが、いま気になる世界の課題はありますか?

A:街の活性化です。公共施設は、かつては税金の無駄遣いと言われた時代もありましたが、私はそれを、都市再生の起爆剤にしたいと思っているんです。集まりたくなる場所にはいくつか共通点がありますが、一番に挙げられるのは、気持ちがいい場所ですよね。けれど気持ちがいいというのは人によって異なっていて、静かなところが好きな人もいれば、おいしいものを食べるのが好きな人もいます。季節ごとの特徴などに合わせながら、あらゆる人にとってより良い街づくりをしていきたいと考えています。

Q:課題解決に向けさらに生み出していきたい構想はありますか?

A:新しい構想をというよりは、ここからは、これまで発表してきたさまざまな構想を実現させていきたいですね。元々いた設計部門でも、建築に直接関係ない課題にも設計というかたちで応えていて、本質は悩み相談。つまり問題解決を具体化していました。いまの部署ではそれが公共の課題解決になっています。
以前携わった、これからの循環型農業を提案した「COMPACT AGRICULTURE」構想も、今後起こるであろう問題を解決しようとするものでした。気候変動や自然災害が起きたときには必ず食糧不足は起きる。現在のまま生産を続けていると必ず地球にダメージを与える。そうならならないためにどうすればよいか、という問題解決の一つを提示しています。こういった構想はほかにも、同じ技術が宇宙で役に立つこともあるかもしれませんし、農業全体を見直すきっかけになるかもしれません。

Q:最後に、いま大林組は「つくるを拓く」を掲げていますが、葛西さんが拓いていきたいことがあれば教えていただけますか?

A:いまは日々の仕事が「つくるを拓く」の連続です。所属部署自体が前例のないことを多岐にわたって行っているので…。ただ、いま自分が取り組んでいることで日本の社会を少しでも良くしていきたいですね。その先にナノテクノロジーをはじめとしたあらゆる技術が時代の流れについてくれば、より良い社会が実現するのではないかと考えています。

大林組が2014年に発表した
FUWWAT2050構想
(季刊大林「FUWWAT2050」建設構想)

もっと見る

©OBAYASHI CORPORATION, All rights reserved.