ビッグデータが描く未来社会
2050年「モザイク・シティ」
構想:大林組プロジェクトチーム
ビッグデータは、社会の未知の部分に光をあてる。個人の日常生活やあらゆる活動分野で、膨大なデータから今まで気づかなかったパターンやつながりが判明し、それが次の時代の指針ともなる。ビッグデータから見えてくる未来とはどのようなものだろうか。私たち大林組プロジェクトチームは、ビッグデータがもたらす人と社会の変化の可能性を読み解きつつ、一つの都市像を想定した。
モザイク・シティとは(基本構想)
ビッグデータを活用することで、地域の特性や住民の意向、ニーズ、計画の課題などに対し、空間的にも機能的にも最適化した未来都市、それが『モザイク・シティ』だ。人口減少などによって生じる都市の空きスペースをそのまま活用し、地域住民の個々人が必要としている生活関連施設(役所、オフィス、学校、病院、店舗など)の機能をモザイク状に集約化することで誕生する、スーパー・コンパクトシティともいえる。
『モザイク・シティ』の基本構成単位は、2km四方の徒歩圏内をパーソナル・エリア(一個人の生活圏)だ。一個人が必要とする生活関連施設を細分化(小規模化)した形でビルなどに配置することで、日常生活の大半はパーソナル・エリア内で済ませることができる。そうした個々人のパーソナル・エリアの集合体として、街全体が形成される。
生活関連施設のどこでも化(都市機能面)
都市機能面では、生活関連施設の「どこでも化」が特徴だ。 従来の都市のように、遠方にある大規模な施設へ出かけるのでなく、個々が必要とする小規模・高機能な施設が身近に配置される。その結果、いま住んでいる場所の近くのどこにでも、必要な生活関連施設の設置が可能となる。
①どこでもオフィス(労働環境)
lCT(情報通信技術)の発達により、距離や時間の制約が少なくなり、大規模なオフィスが必要でなくなる。ビルの空きスペースなどを活用し、個々人の業務内容や生活パターン、ニーズなどに応じて、自宅のオフィス化、気の合った仲間や異業種の人たちとのシェアオフィスなど、多様なオフィス形態が誕生する。
②どこでもマイホーム(居住環境)
構想では、現在の住民は移転することなく、施設やインフラなどの都市機能が細分化され移転してくる。その一方で、個々人のライフスタイルや好みなどに対応する形で新規の住宅が建設され、選択肢が広がる。その結果、地域によっては以前よりも居住人口が増え、街の活性化にもつながる。
③どこでも医療(医療環境)
サテライト型医療施設での個別医療が進展し、手術などを除く日常医療では大規模な施設を必要としなくなる。パーソナル・エリア内の小さな医療施設で、患者ごとの個人データに基づく緻密な医療を受けることができる。一方、自宅で病院とやり取りする技術などが進歩し、在宅医療が増加することで通院が不要になる。
④どこでも学校(教育環境)
生徒の理解力などをデータ解析し、一人一人に応じた個別の教育システムの提供はすでに始まっている。その発展形として、オンライン化の進展により、一律の通学制度や学年制などの教育システム全体が変化する可能性が高い。タブレット端末さえ開けば、どこでも学校になる。もちろん、交流機会の必要性を考慮し、小規模な小・中学校施設をビル内に設定した。
⑤どこでも緑地(インフラ環境)
『モザイク・シティ』は徒歩圏によるパーソナル・エリアの集合体なので、幹線道路以外のほとんどの道路は空きスペースとなる。また、幹線道路も地下化されれば、都市軸そのものが大きく変化する。空きスペースとなった道路の大部分を、緑地や公園などのコミュニケーション・スペース、都市型農業の地域拠点(田んぼや畑を含む農業施設)などへ転換することを想定した。
空間のモザイク化(建築的側面)
現在、多くのビルは基本的に単一の機能(オフィス、ショップ、病院、住宅など)で構成されているが、本構想の中軸となるのは、既存のビルがもつ機能の再構成だ。
既存のビル機能の再編成にあたって、私たち大林組プロジェクトチームは環境面を重視し、「壊さない変化、壊さない再構成」と「建築物の社会ストック化」をめざした。具体的には、CO2排出量を抑制し、環境への負荷を軽減するため、すでに述べてきた「空きスペースの転用」に加え、「減築」(建物の床面積を減らすこと)の手法を採用。新しい空間が誕生するだけでなく、地域の日照や通風・換気などの環境改善を図ることも可能になる。
新物流ネットワークシステム
従来の搬送システムは車両中心だが、パーソナル・エリア内が徒歩移動となる本構想では、物流にも新機軸が不可欠だ。『モザイク・シティ』のパーソナル・エリアを貫き、個人と地域、個人と遠隔地をつなぐのが新物流システムだ。
新物流システムについては、全体を地下化する考え方もあるが、減築などによって生じたスペースを利用して、カーボンナノチューブのケーブルを使った空中搬送(ロープウェー)システムを採用する。
また、ケーブルのネットワークは、さらに個人と遠方の生産地をつなぐ。地方の漁港や農場の生産者と直接つながることで、現地の産物が市場を介さずに数時間で搬送されてくるようになるだろう。
終わりに
『モザイク・シティ』は、ビッグデータの活用によって未来社会がどのように変化するのか、その可能性を検討しつつ、新しい都市のイメージをまとめたものだ。
未来社会を的確に予測することは困難としても、昔とは桁違いの膨大かつ多様なデータから、いままでは見えなかった未来が見えてくる可能性がある。それがジョージ・オーウェルの小説『1984』にみられるような監視社会ではなく、『モザイク・シティ』のような、多様な人間活動を支えるものであることを願っている。
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No.55「ビッグデータ」
近年、膨大なデータ群を記録・保管して即座に解析する技術が開発され、これまで見過ごされてきた知見や新たな仕組みなどを発見できることが明らかになってきました。「ビッグデータ」活用は、あらゆる産業分野にイノベーションや新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めていることから、にわかに注目を浴びるようになっています。
本号では、ビッグデータは何をもたらすのかを論考すると共に、ビッグデータ活用の事例を紹介します。また大林組の技術陣による構想OBAYASHI IDEAでは、ビッグデータによって空間的にも機能的にも最適化された未来都市を想定しました。
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