「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想
構想:大林組プロジェクトチーム
東京はかつて、"東洋のヴェネチア"と呼ばれ、人々の暮らしのなかに水が豊富にある「水都」だった。しかし、舟運から陸運の時代へ移り変わると東京の「水都」のイメージもしだいに失われていった。
また、世界規模での水不足問題は東京も例外ではない。実は東京は、生活用水や工業用水などの多くは他県で取水して必要量を確保しており、世界有数の水不足の都市だ。その一方で、降水量が多く、超大型台風やゲリラ豪雨など極端気象による災害激化への対策も喫緊の課題である。くわえて地球温暖化による渇水や、災害時の水供給リスクへの対応も視野に入れなければならない。
そこで、大林組プロジェクトチームでは、美しい水景を取り戻すと共に、有限であるがゆえに、今後ますますその価値が高まる水資源を、適切にマネジメントしながら有効に利活用する「スマート・ウォーター・シティ」を未来の東京の姿として描いてみた。 中心となるものは以下の3つだ。
1)都心部の降水を大量に貯留し、それを循環活用する「スマート・ウォーター・ネットワーク」
2)連河や都市河川に水の流れを復活させ、水上交通網として整備する「運河復活」
3)水都にふさわしい洋上のランドマーク「東京ウェルカム・ゲート」
スマート・ウォーター・ネットワーク
本構想では、現状ではほとんど活用されないまま東京湾に流されている雨水を、新たな水源として活用する。
<雨水を融通しあう>
雨水を利用するために重要なことは、雨水をいかに貯留するかだ。対象地域内では、「SWNビル(スマート・ウォーター・ネットワーク・ビル)」で集めた雨水をSWNビルの貯水槽と大深度地下に建造した巨大な貯水施設「ウォーターズ・リング」で貯留し、雑用水として利用する一方、ネットワーク内で融通しながら、渇水や集中豪雨、ヒートアイランド対策などに、賢く利活用する。
「スマート・ウォーター・ネットワーク」では、気象情報を修正しビッグデータ化して天候予測の分析を行うとともに、地域内の貯水状況をモニタリングし、ネットワーク全体の水を常にコントロールできる体制を整えている。渇水時には、リングからネットワークを通じてSWNビルの貯水槽に揚水して雑用水に使う。また、都心で集中豪雨の発生が予測された場合は、リング内の雨水を、事前に外濠、内濠、神田川などに排出し、大量の雨水の受け入れ体制を整える。
降水量に恵まれているものの、ゲリラ豪雨などの短時間に発生する降水への対策も必要な東京。雨水をためて循環させ、水をコントロールできる巨大な仕組み「スマート・ウォーター・ネットワーク」の構築が、これからの東京に求められるシステムだ。
<ウォーターズ・リング>
「スマート・ウォーター・ネットワーク」の核となる「ウォーターズ・リング」は、都心の地下50mに建設する、全周約14kmの二重リング状の巨大貯水施設だ。
貯水量は、通常時が230万m³、最大460万m³。災害などの発生時には非常用水としても利用でき、東京23区の全住民の6.5日分をまかなうことができる。集中豪雨などの大量の雨水受け入れ時には、SWNビル群の地下貯水槽のネッとワーク以外に、都心の随所に設けた臨時流入口も使用する。
都心の地下に大量の雨水を貯留したリングは、新たな交通網としても利用される。水陸両用車を利用すれば、地上の渋滞を避けて、都心の主要スポットヘの短時間移動が可能となる。 ウーターズ・リングは、都心の新たな水源として水を循環させ、水不足と水災害の両方に強く、さらには大深度地下に交通水路網を備えた至便な都市を実現する施設だ。
運河復活
江戸時代の外濠・内濠には水の流れがあり、人々が水辺に憩い、船が水上を行き交う「水都」にふさわしい風情で彩られていた。都心に水の循環システムをつくり、雨水を利活用する本構想は、この江戸期の水景も復活させる。
現在、都心の生活用水のおよそ20%は、多摩川の取水堰から取水している。都心で必要な雑用水を、雨水利用に切り替えることで、上流での取水量の一部を玉川上水に流し込み、外濠・内濠に導水する。江戸時代と同じように水路を再生し、最高地点の真田濠に流し込めば、濠の高低差を利用して水は自然に流下し、外濠・内濠のすべてに水を送り込むことができる。
東京ウェルカム・ゲート
現在、世界有数の大型クルーズ客船のほとんどはレインボーブリッジをくぐることができず、東京に寄港する際には、大井コンテナ埠頭などに臨時に停泊させている。世界に向けて水の都「スマート・ウォーター・シティ束京」を発信するにあたっては、国際航路級の大型クルーズ客船が着船でき、かつ、シンボルとなる新しい海の玄関が必要だ。それが、東京湾内・羽田空港沖の海域に浮かぶ、外径1kmのリング状のメガフロート「東京ウェルカム・ゲート」だ。
東京ウェルカム・ゲートは、大規模ターミナル施設で、大型クルーズ客船が最大6隻までリングの外縁に着船可能。もちろん、空の玄関・羽田空港や陸の玄関・東京駅との間も、シャトル船の航路で結ばれている。東京湾沖合は水質が良く、マリンレジャーにも格好の場所だ。「東京ウェルカム・ゲート」は都心から気軽に行くことができる都市型オーシャンリゾートとして人気を博すことになるだろう。
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No.56「水都復活」
2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が決定した日本では、大会を機に、世界を代表する都市・東京がどのように変貌していくべきなのか、さまざまな課題や提案が論議されています。
本号では、3人のオピニオンリーダーが、東京という都市の成り立ちや特異性、現状、五輪開催による変化などについて論考。大林組の技術陣による構想OBAYASHI IDEAでは、「歴史的に価値あるものを引き継いでいくことこそに、その都市独特の魅力が形成される」との考えのもと、POST2020年の姿として、かつて“東洋のヴェネチア”と称された水都東京の現代版での復活を試みました。
(2016年発行)