Q:それなのに、なぜ建設会社に入社したのですか?
A:バブル経済期の1990年頃、日本の建設会社は次々と宇宙開発のセクションを立ち上げました。当時、月や火星に人類が住むという話が世界的に盛り上がっていたのです。それは「現在の宇宙と生命の関係」にほかならず、建設業で宇宙に関わっていけば少しは人の役にも立つかと思って大林組に入社しました。いつまでもかすみを食べているような研究ばかりやってられませんしね(笑)。
Q:根っからの「宇宙分野のスペシャリスト」なのですね。でも、未知の部分が多い宇宙向けの技術開発は特別な難しさや苦労もあるのでは?
A:確かに地球では想定していなかった事態はよく起こります。例えば、宇宙エレベーターのケーブルへの採用を検討しているカーボンナノチューブという素材があります。その耐久性を検証するために、2015年から2017年にわたり国際宇宙ステーション/「きぼう」日本実験棟で曝露実験(宇宙空間に剥き出しでさらし影響を調査)を行いました。地球に帰還したカーボンナノチューブを解析したら、表面がガサガサになっているんですね。ケーブルは宇宙エレベーターの要だから「これはまずい」とかなり焦りました。原因を突き止めたところ、国際宇宙ステーションの軌道の周辺では、酸素が原子状になってそれが悪さをしていることがわかりました。そこで特殊なコーティングを施して宇宙へ運び、再び曝露実験を行っています。その解析結果がもうすぐ出るのでドキドキしているところです(笑)。
Q:宇宙空間を体験した人はごくわずかしかいないし、イマジネーションも必要になりますね。
A:確かにその通りです。大学院生の頃、「星間雲」という星と星の間にあって生命の素になるような物資の研究をしていましたが、実験中は宇宙にいるような気分になりました。火星の研究にのめり込むと、実際にそこに住んでいる錯覚に陥ったりもします。宇宙にいる自分から、地球にいる自分を相対視することができる。それも宇宙に関わる面白さですね。