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2013.01.24

高野山金剛峯寺伽藍中門再建工事

悠久の歴史を紡ぐ地の中門再建事業
高野山金剛峯寺伽藍中門再建工事

悠久の歴史を紡ぐ地の中門再建事業

 

高野山は1200年という長い時の流れを経て、今の時代にある。大林組は、昭和12(1937)年完成の「根本大塔」をはじめ、約80年にわたって数々の施設建設に携わってきた。今進めているのは、心待ちにされた中門の再建工事だ。

 

172年の時を経て再建

高野山金剛峯寺伽藍中門完成予想図

高野山金剛峯寺伽藍中門(和歌山県伊都郡高野山)の完成予想図

上層一段目の施工風景

上層一段目の施工風景。各作業場で丁寧に加工された組物が現場に運ばれ、組み立てられて中門の美しい姿の一部になっていく  ※クリックで拡大

「弁柄」で鮮やかな赤色を着ける

「弁柄」で鮮やかな赤色を着ける。塗料もすべて自然由来のものを使用

高野山の開創は弘仁7(816)年。かの時代、宗祖である弘法大師はどうやってこの地に来たのだろう。思わずそんなことを考えてしまうような高地に現場はある。道中、急こう配の山肌をケーブルカーで一気に登る。それはまるで雲の層を一つ突き抜けるような感覚だ。

金剛峯寺をはじめ117もの寺院を有する広大な信仰の地、高野山。大林組が施工している中門は、高野山開創の折、弘法大師が真っ先に整備に着手したといわれる「壇上伽藍(がらん)」の入り口に据えられたが、長い歴史の中で焼失と再建を繰り返してきた。

今回の再建は8代目に当たり、天保14(1843)年の焼失から172年ぶり。高野山開創1200年記念大法会事業の中心に位置する大事業だ。

再建中の中門は木造建築で棟高が約16m。その大きさは、残っていたかつての中門の柱基礎の間隔を基に、日本建築特有の比率で割り出された。五間三戸楼門(柱間が5つのうち、真ん中の3つ分が出入り口)で、両脇には、天保14(1843)年の大火の折に運び出され、類焼を免れた2つの像が、長い時を経て再び祀(まつ)られることになっている。

計画に当たり、発注者には施工中の様子を多くの人に知ってもらいたいという希望があった。そこで大林組が提案したのはポリカーボネート製の透明な素屋根だ。

素屋根とは、工事中の施工物を覆って保護する囲いのこと。これが透明であれば、訪れた人は歴史的建造物が形になる過程を自由に眺めることができる。

ポリカーボネートを使用した素屋根は「見せる」工夫のほか、自然採光を取り入れたエコ仕様

現場は静寂な境内の一角にある。ポリカーボネートを使用した素屋根は「見せる」工夫のほか、自然採光を取り入れたエコ仕様

伝統の技を駆使して

柱のひかり付け作業

柱のひかり付け作業

柱のひかり付け作業   ※クリックで拡大

柱の溝「蟻落とし」と板と板をつなぐ「ダボ」

柱の溝「蟻落とし」

柱の溝「蟻落とし」と、板と板をつなぐ「ダボ」の効果で部材が一体となり、耐震性が高まる   ※上写真・クリックで拡大

再建は伝統にのっとった工法で行うことを方針としている。材料もできる限り自然由来のものを使用。木材は高野山中で育てられた「高野霊木」を使用する。

これまでの工程で特筆すべきは、柱のひかり付け作業である。ひかり付けとは「光も漏れないほどに素材同士を密着させる」というものだ。

全18本の柱が置かれるのは自然石。その表面の凹凸に合わせて柱底部を削る作業を繰り返し、接合面をぴったりと密着させる。こうしてできた精巧なかみ合わせと、上部から加わる構造物の重みで柱が安定するという伝統の技だ。この作業に約50日間が費やされた。

伝統の工法を駆使して、この再建のために考案されたのは耐震壁だ。これは、柱に彫った台形の溝に、板の端に造った同形の出っ張りをはめ込んで積層壁を積み上げていくというもの。溝の形は「蟻落とし」といわれ、手前よりも奥の方が広がっているので、一度板をはめたら簡単には外れない。

さらに、上下の板壁と板壁を「ダボ」という木片で接合。これらの相乗効果で、釘を使わずしても部材同士が固く結び合い、大きな揺れがあっても一体となって崩壊するのを防ぐというものだ。

今回のような規模の大きい木造伝統建築はあまり例がなく、作業の複雑さについては先が読めないところもある。「だから慎重に進めていく」と関係者たちは気合いを込める。

間もなく始まる軒まわり工事では、軒先の「そり」具合をミリ単位で調整するという繊細な作業が控えている。「そり」は建物全体の荘厳かつ優美な姿を印象付けるポイントだ。

 

 

現場にあるプロフェッショナルの輪

「見せる」工夫の一環で「作業館」を設置

「見せる」工夫の一環で「作業館」を設置。中門再建に関する資料展示と木材加工場があり、一般客は加工の様子を見学することができる

大林組施工の「根本大塔」

大林組施工の「根本大塔」(昭和12(1937)年)。高野山には大林組が担当した施工物が多い

現場では、技術指導に関わる諸機関をはじめ、社寺建築を専門とする堂宮大工の高野山建築協会と共に施工に当たっている。プロジェクトには、伝統建築の分野に豊富な知識と経験を持つプロフェッショナルたちの存在が不可欠だ。

そんな中で大林組が担うのは、安全管理、施工管理、そして関係者間の融和を図ること。また、受注のポイントになった「見せる素屋根」の提案には、インテリアデザインや景観などを設計する大阪本店インタースペース部の力があった。発注者の考えを実現するこうした企画力も含め、伝統建築施工の場に大林組の力が活かされている。

「関係者に恵まれて、仕事を進めています」と言うのは、現場を担当する所長の吉田だ。そんな所長のスローガンは「ゆめ、よろこび、ゆとり」を示す「3Y」。苦しいだけでは仕事はつまらないから、心にゆとりを持つように心がけようというのがその思いだ。

加えて持ち合わせるべきは、施工者としてのプライドと関係者への尊敬。それらが融合すればおのずと信頼関係が築かれ、良い仕事ができる。

今回の取材には大林組以外の皆さんにも集まっていただいた。その場で感じたのは、仕事に誇りを持つ者同志の輪が自然につくられていること、そしてその輪が醸し出す心地よさだ。

竣工は2014年末の予定。素屋根の撤去は、観光客などに配慮し、夜間作業併用で行われることになっている。悠久の歴史を紡ぐ世界遺産の地で、500年後、1000年後の世に伝えるべく再建される中門。その施工過程を目にすることができるのは、今だけだ。(取材2012年11月)

 

各分野のプロフェッショナルたちがタッグを組んで進む

 

●工事概要

名称●高野山金剛峯寺伽藍中門再建工事

場所●和歌山県伊都郡高野山

発注●総本山金剛峯寺

設計●和歌山県文化財センター、建築研究協会、立石構造設計、空間文化開発機構

概要●五間三戸楼門、木造(伝統木造架構、積層壁、制振装置取付)、屋根檜皮(ひわだ)葺き、延べ216m²

工期●2010年10月~2014年12月

施工●大林組