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2017.03.09

重要文化財勝興寺大広間及び式台ほか11棟保存修理工事

匠の技が活きる江戸時代の伝統建築を後代へ
重要文化財勝興寺大広間及び式台ほか11棟保存修理工事
重要文化財勝興寺大広間及び式台ほか11棟保存修理工事

3,000m²を超える素屋根は寺社仏閣にかかるものとして日本有数の規模を誇る

富山湾越しに立山連峰を望む小高い丘に立つ勝興寺。境内にある多くの建造物が国の重要文化財に指定されている、富山県を代表する名刹だ。建造物の多くは、江戸中期から後期に当たる200年~300年前に建てられたもの。年月の経過により劣化や損傷が目立つようになったため、勝興寺では、1998年から建造物の保存修理事業「平成の大修理」が行われている。

足かけ23年の一大事業
勝興寺保存修理工事概要図
勝興寺保存修理工事概要図

勝興寺保存修理工事概要図
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大林組は、大修理の初弾となる勝興寺本堂の保存・改修工事の後、2005年からは大広間や式台、台所など僧侶が生活する建造物群(本坊)の保存・改修工事を引き続き担当している。

現在工事が行われているのは素屋根の中。素屋根は修復作業中の建造物を風雨から守る仮設構造物で、全天候下で作業が可能となるうえ、瓦、木材などを加工・保管できる場所でもある。

建立当時の技法や材料を洗い出すため、素屋根の架設後、建造物の解体を行った。そしてその調査結果を設計や工事計画に反映させて、保存・改修工事に取りかかった。本坊以外の工事も含め、完了するのは2021年。まさに23年を費やす一大事業なのだ。

文化財を守る素屋根
素屋根構築時の様子

素屋根構築時の様子。素屋根はジャッキにけん引され、手前から奥(画面右方向)へ送られた

建造物の損傷と、後工程への影響を防ぐために、素屋根中央部分には、安全でスピーディーに架設できるスライド方式を採用した。文化財が直下にない場所で素屋根をブロックごとに組み立て、けん引ジャッキなどで横移動させながら構築するやり方だ。

ローラー式からプレート式へ

素屋根スライドの動力となる揚力50tのジャッキ

素屋根スライドの動力となる揚力50tのジャッキ

電動移動式足場で機動力と安全性を確保

電動移動式足場で機動力と安全性を確保

本堂での架設経験を活かし、架設の際には現場状況を考慮した工夫を重ねた。素屋根のスライドにはローラーを用いず、レールとなるH形鋼にステンレスとテフロンのプレートを取り付けてスライドさせた。

さらに、プレートに食器用洗浄剤を塗布することで摩擦力を減らし、一度にスライドできる範囲を大幅に拡大。ローラー使用の場合5ヵ月かかるスライド工事を、わずか19日で成し遂げた。工事に伴う設備も簡素化し、コストの圧縮にも貢献した。

また、素屋根の設備工事や点検、写真撮影に用いる足場は、キャットウォーク(通路)に変えて電動移動式の足場を設置。縦横に動く足場を計画したことで、素屋根内の作業効率と安全性が向上した。

本坊の保存・改修工事が完了する2017年4月からは、いよいよ素屋根の解体が始まる。解体も落下物を防ぐためにスライド方式を採用し、万が一に備えて落下防止ネットも張り巡らせる。所長の山本は「地域の方々は素屋根が外れた本坊を見るのを楽しみにしています。その期待に応えるべく慎重に進めていきます」と意気込みを語った。

江戸時代の技法と材料で造り上げる
葺き材が剥がされた屋根。下地材は残す部分と交換する部分を判断

修復前、葺(ふ)き材が剥がされた屋根。下地材は残す部分と交換する部分を判断

新たに取り付けた屋根の下地材には、修理年を刻印

新たに取り付けた屋根の下地材には、修理年を刻印

素屋根の内部に足を踏み入れると威風堂々とした本坊に圧倒される。「江戸時代の建物は100年ごとに大規模な改修が必要ですが、勝興寺は今回が初めてです。これは建立当時の技術者の腕と建築材料が良かったことを物語っています」と所長の山本は言う。

工事では、できる限り当時の技法や材料を用いたうえで、耐用年数を長くすることが求められている。それを実現させるのが、経験豊富な田中健太郎棟梁が統率する田中工匠の宮大工をはじめ、全国から集められた熟練の技術者たち。彼らの技術が遺憾なく発揮されるのがこけら葺(ふ)きの屋根と土壁の施工だ。

こけら葺きの材料は樹齢200年以上のスギやサワラ、クリを厚さ3mmに割り裂いた板状のもの。それを一枚一枚、わずかにずらして重ね、竹くぎで止め付けていく。屋根の隅などの曲線部分は丸みを帯びた板を使用する。それぞれの屋根を仕上げるために3万5千~6万5千枚もの板が必要となる一連の作業が、技術者により丁寧に行われた。

木製の椅子に座った屋根葺き工が一列に並んでこけら板を打ち止める

木製の椅子に座った屋根葺き工が一列に並んでこけら板を打ち止める

土壁の主な材料となるのは、粘土に藁(わら)を何度も混ぜて練り上げ、3ヵ月以上寝かせて出来上がる荒壁土と、それに砂や銀杏草を加えて練り混ぜた仕上げ用の上塗り漆喰(しっくい)だ。

その日の気温や湿度によって硬化する時間が異なるのがこの材料の特徴。左官工が経験に基づき、練り混ぜる時間や養生時間を判断している。また、竹の上に茅(かや)を組んだ小舞と呼ばれる下地に塗り付ける作業では、塗る範囲や箇所によって大小のコテを使い分ける技も必要となる。

ほかにも宮大工が行う、腐敗した柱の一部を切り取って新しい木材と接合する根継ぎなど、脈々と受け継がれてきた技術を、随所に見ることができる。

屋根の凹凸部分は丸く切り出した板で美しい曲線に仕上げる

屋根の凹凸部分は丸く切り出した板で美しい曲線に仕上げる

左官工がさまざまなコテを駆使して塗り付けていく

左官工がさまざまなコテを駆使して塗り付けていく

鬼板の曲線に合わせて銅板を張り、屋根の修理が完成

鬼板の曲線に合わせて銅板を張り、屋根の修理が完成

割竹を張った壁面。この上に茅を組み土壁の下地とする(小舞)

割竹を張った壁面。この上に茅を組み土壁の下地とする(小舞)

内部の取り付け飾り金物は一つひとつ丁寧に修理される

内部の取り付け飾り金物は一つひとつ丁寧に修理される

小舞に小さなコテで荒壁土を塗り付ける左官工

小舞に小さなコテで荒壁土を塗り付ける左官工

100年後に思いを託して

大改修の完了まであと4年。境内にはこれまで通り多くの参拝者が訪れる。第三者災害を起こさないよう安全通路の確保を徹底するほか、文化財を守るため、火気の取り扱いなど、作業員への安全教育も抜かりなく行っていく。

これから着手する棟もある。基本的な技法と材料は各時代で同一だが、細かな部分では棟ごとに違ってくる。施工方法の決定には、棟梁を交えて発注者や設計者と細かな協議が続く。「今後も協力は惜しみません」と語る田中棟梁の力強い言葉が頼もしい。

所長の山本と田中棟梁は口をそろえ「われわれの仕事の良し悪しは次の大改修が行われる時に分かる。その時の建造物の姿はもちろん、現場を管理できる所長や棟梁が育っていることを楽しみにしています」と未来への思いを語った。

匠の技が活きる江戸時代の伝統建築を後代へ
(取材2016年12月)

●工事概要

名称:重要文化財勝興寺大広間及び式台ほか11棟保存修理工事

場所:富山県高岡市

発注:勝興寺

設計:文化財建造物保存技術協会

概要:保存修理工事、敷地面積2万7,000m²、素屋根(S造、4F、延3,389m²)

工期:2005年12月~2021年3月(予定)

施工:大林組、塩谷建設、山本建設