これからの循環型農業
「COMPACT AGRICULTURE」 構想
構想:大林組プロジェクトチーム
日本の農業は、就労人口の減少や高年齢化、労働環境の3K、農業総生産額の減少、貿易赤字など、多くの問題があるといわれて久しい。しかし近年、テクノロジーの発展やビジネスモデルの多様化に伴い、「スマート農業」「農業ビジネス」「稼ぐ農業」といった標語が現実味を帯び始め、最先端の産業になる可能性も感じられるようになってきた。取り組み方によっては、最高の仕事場になり、人間の食生活を支え、自然と環境を守護し、場合によってはかつてのように国民経済の中核に返り咲くことさえも期待できるのかもしれない。
環境面から見ると、食品廃棄やフードロスは世界的な問題で、日本も例外ではない。農業を行うこと自体が物質の真の循環システムを狂わせ、環境に影響を与えていることも見逃してはならない。これらの環境に関する諸問題も、テクノロジーの力で解決し、農業との新たな「付き合い方」を生み出すことはできないだろうか。
本構想では、テクノロジーの発展の先に可能となる、「どのような環境下でも、地球環境を破壊することなく、生活する人々にとって適切かつ適量の食糧を、地産地消で供給する」未来の農業の姿を描いてみた。
物質もエネルギーも循環する農業
物質の循環を狂わせているのは、物質を生産して人が消費し排出された物質を回収するという有機資源を循環させながら農産物を生産するサイクルが崩れたことが大きな要因だが、畜産用の飼料を輸入するなど、外部とのモノのやり取りが増えたことで問題が複雑化している。COMPACT AGRICULTUREでは、「生産と消費の接近」「回収技術の導入」によりヒトの営みを自然環境の条件から切り離し、ヒトから排出されたCO2でさえも、農産物の効率的な育成に利用するとともに、「再生エネルギーの活用」により、循環のプロセスを構築している。
【物質循環 - 炭素の循環】
【物質循環 - 炭素以外の循環(窒素、リン、カリウム、その他必須元素)】
自動化による高効率育成、データに基づく最適生産
営農コンセプトは最適な質と量の生産物を、小さな面積で効率よく生産することだ。生産物の内容はパーソナルデータから導き出す。各住民の身長・体重のほか既往症や健康状態、食感や味の好み、イベントスケジュールなどを収集し、住民の健康や好みに配慮したニーズに合った食料が必要な時にタイミングよく提供されるように、いつ何を生産すべきかを予測し、生産する。
また、個々の要求に合わせた機能性作物を作るとともに、最高の効率で生産するために、生産は完全自動化された施設内で行う。生育状態に応じた作業はセンサーで感知した情報をもとに育成ロボットが行い、生産物は、自動搬送システムで各住戸に届けられる。常に、必要な時に必要なだけ提供されることにより、現在の世界中で問題視されている、生産から消費の過程で生まれる無駄な食品廃棄物をゼロにするとともに、フードロスの抑制にもつながっていく。
【ひとりあたりの食糧生産面積】
生活の中に農業がある
食を大切にする人間らしい生活を営むためには、食の生産の現場を身近に感じることが有効に働く。COMPACT AGRICULTUREにおける「食糧生産工場」自体はある意味無機質だが、農がコミュニケーションの中心に位置づけられている。 完全コントロール下に置かれた生産施設には住民が中に入る事はないが、居住スペースから生産施設が間近に見ることができる。コミュニケーションスペースには、実りや収穫を実感できる植え込みや家庭菜園体験コーナー、工場での食糧生産の様子を確認できるスクリーンなどが配置され、「マイ食糧」を大切にする気持ちもおのずと醸成されていく。
多くの人が都市部で生活する日本では、農業を身近に感じることが少なくなっている。農業の進化の先には、「マイ食糧」が育つのを楽しみながら生活する日が待っている。
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No.59「農」
日本の農業は、就業人口の低下、高齢化、後継者不足、不安定な収入など多くの問題を抱え、非常に厳しい状況に置かれています。その一方で、「スマート農業」「農業ビジネス」あるいは「稼ぐ農業」といった標語が現実味を帯び始めています。
現在3Kの代表格といわれる農業は、今後の取り組み方によっては最高の仕事場になるかもしれません。また、環境を破壊することもなく、人々の豊かな食生活を支える中核施設となる日が来るかもしれません。
本書では「農」にまつわる現状を解明すると共に、現在の発展のその先の姿を考えてみました。
(2019年発行)