トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals

技術研究所編

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地盤技術研究部 主席技師中岡 健一

地盤技術研究部 課長奥澤 康一

地盤技術研究部 主任三宅 由洋

「学びと経験を積み重ね、地質のさらなる追究へ」

日々の研究が施工の安全を支える

〈中岡〉
私は岩盤の解析を通して、現場の安全性・生産性向上をめざしています。具体的には、岩石の強さを測る試験などを行って岩盤の強度を推定し、その結果からトンネルの変形を予測して、安全に施工するための研究を行っています。岩盤は「掘ってみなければどのような状態なのか分からない」といわれています。その不明瞭な部分を少しでも明らかにするため、岩盤の変形を測るための研究にも取り組んでいます。
日々の研究は地道な作業です。例えば過去には、岩盤の変形を計測していたつもりが、計測装置そのものの動きを測っていたことがありました。設置が不安定だったのです。また、苦労して解析した予測が外れることもよくあります。ただ、失敗は無駄ではなく、すべて学びにつながっています。経験を蓄積していくのが研究の醍醐味(だいごみ)ですね。

〈奥澤〉
私は、岩盤チームの中で地質を専門としています。トンネルの発注者はあらかじめ地質調査を行い、事前調査をもとにどのような工事をするか決めます。そこで、私たちは地質学の知識を活用して現場の状況をより詳しく推定し、トンネル崩壊や変形のリスクが予測された場合には、現場と連携して対策を講じます。
施工前には地形をチェックする必要もあります。これまでにも、「問題がないだろう」といわれていた現場で、文献や現地調査を通して地滑りの痕跡があることを発見したことがありました。もしもリスクに気づかないまま工事を開始していたら、地滑りを誘発し、トンネルが大変形を起こしていた可能性がありました。このように、地質学の知識を用いて地質・地形を確認することは、工事を始めるにあたってとても重要です。

〈三宅〉
私の業務は、トンネル工事に必要な地質情報を把握するための技術を研究・開発することです。技術を進歩させることで、工事期間の短縮やコストダウンなど、工事全体の効率化にもつながります。学会で情報収集をしたり、調査業者の方や現場の方など、さまざまな人の声を聞くことが開発のヒントになっていますね。課題に直面したときは、実際に現場に行くことも大切です。以前、新しくつくった技術がうまく動かず困ったことがありました。そこで、さまざまな方と対策を準備したうえで、現場での作業を注意深く観察したところ、開発した機械の組み立て方が間違っていたことが分かったのです。本当に些細なミスですが、それが引き金となって問題につながっていたことが分かりました。このように、技術開発では、現場に赴いて自ら情報を収集することで重要なことに気づくことができます。
私はもともと教育学を学んでいたため、専門的な話はよく調べて自分なりに理解し、要点をかみ砕いて説明できるようにしています。その経験も活かしながら、地質調査の結果や技術開発が現場に役立っているのだということを、社内外の方々に分かりやすく伝えるように心がけています。

山岳トンネル工事の課題を払拭(ふっしょく)

〈中岡〉
山岳トンネルは、山という大きな荷重を受けるため、掘削してから時間が経過すると少しずつトンネルが変形し、トンネルを補強しているコンクリートなどが損傷することがあります。そのため、施工期間中から完成後も含めて、長期的な変形を予測する技術を開発しています。こういった技術開発は、地質学の知見も参考にしながら進めています。

奥澤 康一 地盤技術研究部 課長

中岡 健一 地盤技術研究部 主席技師

〈奥澤〉
トンネルは距離の長い構造物ですから、地質全体を実際に調査するのは困難です。平野部のトンネルであれば、例えば100mおきにボーリングを行い、地下の泥や砂の状態を調べることができます。しかし、山岳トンネルは地下の深い部分を通ることが多く、詳細に調べることが難しいという課題があるのです。そこで役立つのが地質学です。実際には見ることができない部分も、地質や地形の知識を活用すれば、施工予定地がどのような地形・地質なのかを分析することができます。

〈三宅〉
トンネル工事では、作業員だけでなく、発注者の方など社外の方々も現場を訪れますが、切羽(きりは)まで往復するだけで何時間もかかります。そこで、大林組は遠隔臨場システムを開発しました。この遠隔臨場システムでは、事前の地上からの地質調査結果や、掘削中に得られる切羽より前方部分の探査結果などの地質情報を確認できます。技術研究所では、これらの地質情報から重要なものを3Dで視覚的に分かりやすく伝える工夫を施しました。現場と中継し、オンラインでトンネルの掘削状況を見せることができるようになり、発注者からは高い評価をいただきました。

奥澤 康一 地盤技術研究部 課長

奥澤 康一 地盤技術研究部 課長

「個」の力が集う技術研究所

〈中岡〉
技術研究所の職員は、各自が専門分野をとことん追究しています。私自身、解析や計測の結果で気になることがあれば、帰宅後も黙々と思考してしまうタイプです。奥澤さん、三宅さんを見ていても、知的好奇心を掘り下げながら研究しているなと感じますね。自分では分からないことが出てきても、「あの人はこの分野に詳しいから聞いてみよう」と、互いに協力し合うことができます。

〈奥澤〉
私は学生の頃、地質学を専門としてきました。卒業後は水質調査や活断層の地形調査など、純粋な「地質学」の範囲を超えた業務にも幅広く携わってきました。大林組に入社してからは、それらの経験を活かすとともに、大林組で新しく経験したことをさらに積み重ねることで知識の幅がどんどん広くなり、成長することができたと思います。

〈三宅〉
地質学は自然のルールを解明する「探求」の学問ですが、土木工学は物理現象を利用した「実用」の学問と考えています。大林組の技術研究所には、地質学と工学の専門家が両方そろっているという強みがあります。
また、大林組の技術研究所はとても風通しのよい雰囲気です。先輩方は、適度にサポートしつつも裁量をもたせてくれるため、自分の成長につながっていると感じています。

三宅 由洋 地盤技術研究部 主任

三宅 由洋 地盤技術研究部 主任

〈中岡〉
今後は無人化の技術にも関わっていかなければならないと思います。特にトンネル工事の現場では、無人化を進めることが安全性のさらなる向上につながります。同時に、岩盤の評価をするためには、基礎的な研究も続けていく必要があると考えています。

〈奥澤〉
AIの重要性は大きくなっていますね。今の現場では、工事で出てきた石を職員の目で確認していますが、私たちのチームでは、この作業をAIで行うことができるように技術開発を進めているところです。

〈三宅〉
AIの専門的な知識だけでなく「AIをどういった場面でどのように役立てるのか」という実践的な知恵も身につける必要があると思います。この両輪がそろってはじめて、新しい技術を現場や研究に有効活用できると考えています。各職員が知識を身につける努力をしているほか、技術研究所では、希望者にAIに関する知識・技能の習得の機会を与えてくれる動きもあります。このような組織の力はとても心強いです。