トンネルをつくる人たち Tunnel Construction Professionals

技術研究所編

技術研究所インタビュー1

地盤技術研究部 上級主席技師(数値解析)杉江 茂彦

地盤技術研究部 上級主席技師(掘削土砂)山田 祐樹

自然環境技術研究部 主席技師(材料)三浦 俊彦

「物事の本質をとらえ、真に貢献できる研究を」

環境への負荷を抑えるために

〈杉江〉
私の主な業務は、建設工事で生じる地盤の変形や地下水の変動を、コンピュータによる数値解析で予測することです。シールドトンネルの工事現場は、公共施設や住宅と近接することが多く、人々の暮らしや経済活動に影響が生じないように適切な対策を講じることが重要です。複数の対策案の効果を比較・検証し、最善の対策工を選択するうえで、数値解析が役立っています。
私がシールドトンネルの工事に初めて関わったのは、1990年代後半のことです。都内の地下鉄の新線を設ける建設プロジェクトでした。直径の異なる大断面のシールドトンネル同士の地中接合が上下2ヵ所で近接しており、とても難易度の高い工事でした。そこで、三次元の数値解析を行い、地中接合部の砂礫(されき)地盤の安定性や崩壊の可能性を評価しました。その後は、大林組の独自技術であるURUP(ユーラップ)工法®(シールドマシンを直接地上から発進させ、再び地上へ到達させることが可能なシールド工法)の開発において、数値解析に携わったこともあります。

杉江茂彦 地盤技術研究部 上級主席技師(数値解析)

杉江 茂彦 地盤技術研究部 上級主席技師(数値解析)

〈山田〉
私は、シールド掘削土砂の研究をしています。シールドトンネル工事はシールドマシンで掘削しますが、マシンで覆われているため、前方の地盤が見えません。また、シールドマシンで地盤を掘削するためには、土をほどよい柔らかさにする必要があります。そこで、マシンから出た土を評価することで、「今どのような地盤を掘削しているのか、うまく掘削ができているか」を調べることができます。
多くのシールド工事では、気泡を注入し、土を柔らかく掘りやすい状態にしながら掘削します。使用する気泡の量によって土の柔らかさや工事のコストも大きく変わってくるため、適切な量に調整する必要があります。また、掘削で出てきた大量の土をどのように扱うかということも重要なポイントです。条件を満たした土であれば、空港や海岸の埋め立てなどに活用されることもあります。

〈三浦〉
私は、工事に用いる材料の開発と、それが与える環境への影響を調べる業務に携わっています。例えば、シールドトンネルの工事に使う起泡剤は、界面活性剤であり人工物ですから、環境への影響をチェックする必要があります。環境への影響の程度を判断する基準に「魚毒性」というものがあります。魚毒性がある場合は、どのくらいの期間にわたって存在し、いつごろ有機物として分解されるのかなどを解析します。そして、現場のニーズに合わせて、魚毒性の低い材料や分解の早い材料を開発しています。
また、土の性質を変えるための材料を開発する業務にも携わっています。シールドマシンがトンネルを掘り進めると、土がどんどん排出されます。それらの土を柔らかくして運びやすくしたり、硬くすることで頑丈にしたりと、土の状態をコントロールする必要があるのです。本社や現場とも連携しながら、施工方法に合った材料を選定します。

さまざまなチームとの連携で目標達成へ

〈山田〉
技術開発は、全員が同じ目的を共有して協力しなければゴールにたどりつくことができません。例えば、夏場に屋外で気泡を用いた実験をすることになったとき、昼間に行うとすぐに土が乾いてしまうという問題があったため、真夜中に集合して涼しい時間に実験したことがありました。大変なこともありますが、皆が一丸となって研究を進めることにやりがいを感じますね。
また、近年では技術研究所の若い職員たちは、研究所で半年から1年勤務したあと現場に配属され、工事を実際に経験するようにしています。現場でどのようにものづくりをしているかを理解しなければ技術開発はうまくいかないと考えています。

山田祐樹 地盤技術研究部 上級主席技師(掘削土砂)

山田 祐樹 地盤技術研究部 上級主席技師(掘削土砂)

〈杉江〉
技術研究所の業務の中でも、特に建設プロジェクトの支援業務では、研究所外の多くの部門と関わります。例えば、工事案件の入札や設計・計画段階では、営業部門や設計・技術部門と連携します。また、工事が始まると工事事務所とも情報を共有します。
最近のシールドトンネルの関連工事は、大深度地下道路における地下ジャンクションの拡幅施工をはじめ、極度に複雑になっています。コンピュータで施工過程をシミュレーションし、地盤の崩壊対策などを具体化していくためには、設計部やシールド技術部との綿密な情報交換が必要不可欠です。ゼネコンの研究部門の土木技術者としては、技術研究所外の関連部門とも一丸となって地下構造物の建設を実現できることに醍醐味(だいごみ)を感じますね。

〈三浦〉
大林組の技術研究所の強みは、現場とよい関係を築き上げていることですね。物事の本質には共通点があるものなので、研究者の知識と、現場の知識がつながるときがあります。そのような新しい発見を研究に応用することで、結果的に現場にも役立つという面白さを感じます。若手の研究者にも、「現場に役立つ研究開発をするためには、現場の現状や課題をよく知っておかなければならない」ということを意識してほしいと思います。

流行を察知しながら、普遍的な要素も大切に

〈杉江〉
現在、国連加盟国は、持続的な開発目標であるSDGsを2030年までに達成することをめざしています。大林組でもさまざまな取り組みが行われています。シールドトンネルの分野においても、環境負荷の低減や省エネ化などに向けた技術革新が図られています。それに伴い、地盤の数値解析では今後も、時代のニーズに応じて予測精度の向上につながるよう、地盤の物性評価や力学モデルの高度化の継続が重要になります。
大林組では研究職の人材育成にも積極的です。現在、後輩の研究員がイギリスのインペリアル大学に留学中で、新しい解析法である粒子法や個別要素法(地盤の大きな変形を解析するための手法)の研究に取り組んでいます。後輩たちには、これまでの解析法に加え、地盤の現象に応じて新しい解析方法を適宜導入しながら、新しいスタイルの設計・現場支援に挑戦してほしいと思っています。

〈山田〉
私は現在、シールド工法関連の技術開発を担当しています。大林組ではシールドマシンの自動運転は技術が進んできていますが、シールドマシンで掘削した土の状態を評価するのは、いまだに職員が自分の手で触るなどして確認しています。このような評価の作業を、カメラやAIなどで自動化・機械化できないかと考えています。機械だけで評価することは難しいかもしれませんが、24時間稼働できるというメリットがありますし、少なくとも人間が判断するときの補助になるため、職員も余剰として生まれた時間を他の作業に充てることができるはずです。これからも、現場の省人化・効率化に役立つ技術開発を進めます。

三浦俊彦 自然環境技術研究部 主席技師(材料)

三浦 俊彦 自然環境技術研究部 主席技師(材料)

〈三浦〉
環境への配慮について求められるニーズは、時代とともに変わっていきます。社会が望んでいる環境ニーズを敏感に察知することが、他社に先んじて新しい研究を始めることにつながると思います。一方で、普遍的な本質をつかむことも重要です。流行に影響されすぎずに「本当に大切なこと」を提案し、大林組として社会に貢献していきたいです。「環境にとって何がよく、何が悪いか」ということを理解するのは非常に難しいため、今後も引き続き勉強する必要があると感じます。