最先端技術を用いた工事 Projects Using Cutting-edge Technologies

CASE.1

横浜環状北線シールドトンネル工事 分合流部(2017年竣工)

「覚悟を決め、熟考し、結束力で完成させる」

藤井 剛 〈当時〉副監理技術者・副所長
中野 孝⼆ 〈当時〉工事長

横浜環状北線シールドトンネル工事 分合流部
世界初の大規模なシールド機によるトンネル拡幅工事

〈藤井〉
横浜環状北線シールドトンネル工事で大林組は本線の地下トンネル部分5.5km区間を担当しました。
11.5m径でつくられたトンネルのほぼ中間部に、地上にある出入口からの分流部と合流部を設けたのですが、できあがった本線のトンネル内から拡大シールドと大口径鋼管パイプルーフを使って約200mの距離を拡幅していくもので、これだけ大規模な拡大シールドを使用した地中拡幅は世界的に見ても例のないものでした。
また、現場の地上部は住宅地で幹線道路や鉄道といったインフラ施設も敷き詰められているため、安全・安心に対する条件が特に厳しく設定されており、デリケートな施工が求められました。

分岐部と合流部、計4ヵ所を同時進行

〈中野〉
世界初の試みであるという点は特に意識はしていませんでしたが、前例がないので、どのように工事を進めていくかについては大小さまざまなポイントで相当悩みました。 私の主な担当は掘削した箇所への躯体構築だったのですが、まず大きな壁として立ちはだかったのが、楕円状の断面が徐々に広がっていくという形状の躯体を構築することでした。ラッパ型といいますか、円錐形に拡幅していくため、1ブロック施工が終わってホッとするのもつかの間、また次のブロックでは断面をはじめ鉄筋、型枠、支保工など、あらゆるものの条件が変わってくるので、毎回個別に対応していかなくてはなりませんでした。

〈藤井〉
しかも初めての取り組みでありながら、工期の都合上、上下線の分流部、合流部、合計4ヵ所を同時進行することが強いられました。 本線の工事が終わった部分を追いかけるように4ヵ所の工事日程をやりくりするだけでも大変でしたが、実際に工事を進めてみると当初の技術提案では入れていなかった工法を用いるべき部分が出てきたりして、設計も同時に進めなければならず、みんなで知恵を振り絞りながら進めていった記憶が強く残っています。

〈中野〉
完成後の姿は図面に書いてありますが、我々の仕事はそれを実現する道のりを考えること。例えば、トンネル内という限られた空間には4ヵ所分の資材を置いておく場所も十分に確保できなかったので、資材をやりくりするというだけでも頭がシビれましたね。
ほかにもいろいろと困難はありましたが、1回で施工する進度を4mから6m、8mと徐々に広げるなど効率化を図り、工期内に仕上げることができました。

藤井 剛〈当時〉副監理技術者・副所⻑

藤井 剛 〈当時〉副監理技術者・副所⻑

最先端工事を通じて得られたもの

〈藤井〉
今回、拡大シールドを用いた大規模なトンネル拡幅工事の実績はできました。しかし、それが我々の強みとしてどのようにアピールできるかは正直なところまだよく分かっていません。

〈中野〉
そうですね。得手不得手はあっても、保有している技術については各社それほど大きな差はないと私は思っています。 ただし私たちにいえるのは、未知という恐怖に対して臆さず、ごく自然に踏み込める人間たちが集まっているということです。どんなに難しい条件であっても、できない理由を探すようなことはまずしませんし、「できない」という言葉自体誰も発しません。

〈藤井〉
私の周りでも技術者は、悩んで、悩んで、壁にぶつかってから仕事が始まるといわれています。 過去に所長として携わった現場があり、そのときはさまざまな判断を下す立場の難しさを感じていたのですが、この横浜環状北線シールドトンネル工事を経験してからは判断を下すことは大して難しいことではないと思うようになりました。トップが行う判断という行為ではなく、突きつけられた課題へ向けて各メンバーが死に物狂いで考える、その過程こそが断然難しいのだと痛感しています。 あの難しい状況の中で仕事をしたことを振り返れば、少々のことはクリアできると思えますよ。

〈中野〉
私もあの難工事の真っ最中は常に気持ちが張り詰めて心拍数が高まっていましたが、終盤からはスーッとないでいき、心は穏やかになりましたね。

中野 孝⼆〈当時〉工事長

中野 孝⼆ 〈当時〉工事長

現場リーダーの役割とは

〈中野〉
私はいつも「考えること」を最も大切にして工事に向き合うようにしています。一人でとことん考える、誰かと意見を出し合いながら考える、何人かで集ってみんなの話を聞きながらさまざまな方向から考えるなど、あらゆる方法で熟考し、実現可能な方法をできる限り用意します。そして、決断を求められるときにすべきなのが「何をやるか」ではなく「何をやらないか」を決めること。選択肢を一つに絞り込まず、物事を決めつけてかかることのないような思考回路を持つように心がけています。

〈藤井〉
いわゆる難工事に取り組む際、いつも「覚悟」を決めて向かう私がいます。特に意識しているわけではないのですが、リーダーが諦めたらそこでもう工事はストップしてしまうので、何が何でもやりぬくという覚悟を決め、その想いを周囲に発信するようにしていますね。そういった精神状態にあると、工事を進めている際に生じるさまざまな課題を常に頭に入れながら施工するようになるので、ふとしたときに違った角度から捉えることができたり、解決策が浮かんだりすることも珍しくありません。強い想いがあれば、自然となんとかなるものです。

とはいえ、過去に経験のない今回のようなケースではチームとしての結束力が何よりも重要になります。そんな中で求められるのが上司と部下の信頼関係です。日常的に発生するさまざまなトラブルを一人で抱え込むことのないよう、常に寄り添う愛情を持つことも現場のリーダーに欠かせない資質だと思っています。