住宅や工場などが立ち並ぶ神奈川県横浜市北部で、大林組の土木技術の粋を集めた地下トンネル工事が進んでいる。
「横浜環状道路」の北区間、首都高速道路横羽線と第三京浜道路を結ぶ延長約8.2kmの首都高速道路「横浜環状北線」だ。大林組JVはそのうちの約7割を占める地下トンネル部分、新横浜出入口付近から岸谷生麦出入口付近までの5.5km区間の整備を行っている。
本線シールドトンネルの施工延長は、上下線合計で11km。日本最長級のトンネル工事だ。直径約12.5mの巨大シールドマシン2機による並列施工は24時間体制で進められ、2014年3月、岸谷生麦出入口付近に到達した。大林組JVは、現在、馬場出入口で分岐・合流部の拡幅工事に、世界にも類を見ない工法で挑んでいる。
地上への影響を出さずにトンネルを造る
シールドマシンが地下を通過する地上部分には、住宅やインフラ設備などさまざまな構造物が存在し、工事は地上に影響を出さないことが強く求められた。特に、新幹線を含む鉄道線の直下を掘進する際には、列車の運行に影響を及ぼさないよう構造物の変動に厳しい基準が設けられ、沈下計をはじめとする各種計測機器を設置するなど、細心の注意を払いながら進められた。
また、地上での土砂運搬にもできる限り配慮した。シールド工事で発生した土砂は140万m³を超え、搬出車両の台数はダンプトラックで一日600台に上った。住宅街に位置する土砂の搬出口での住民と車両の接触や土煙の飛散を防ぐため、土砂は鶴見川対岸の敷地まで800mのベルトコンベヤーで搬出。車両の速度や積載重量についても徹底的に管理した。
世界初の「分合流拡幅工事」に挑戦
従来、地下を走る高速道路の出入口は、地上から掘り進めて、本線シールドトンネルとつなげるのが一般的だ。しかし、現場が住宅街に位置し、十分な施工場所が得られなかったことから、馬場出入口では先に完成している本線シールドトンネルを地中で広げる「分合流拡幅工事」が行われた。
大林組が提案したのは、拡大シールドと大口径鋼管パイプルーフを採用した世界初の大断面地中拡幅方法だ。
手順はこうだ。まず、本線トンネル内部からは施工範囲となる外周に向けて薬液を注入、止水層を構築する。本線シールドトンネルの下部にあるセグメント(トンネルの周囲を覆う鋼製部材)を一部取り外し、拡大シールド機を設置。拡大シールド機を後ろからジャッキで押し上げる掘削作業を一周分行う。一回り大きくなった断面部分がパイプルーフを押し込む発進基地となるのだ。
パイプルーフは直径1.2m、長さは1列当たり150m~200m。27列のパイプルーフは推進機によって拡幅する方向に押し込まれ、細長いメガホンのような形を構築する。
本線シールドトンネルの内部からパイプルーフの際まで重機で掘削し、セグメントと同程度の強度を確保できるコンクリート壁面を構築していく。こうして本線では円形だった断面が、分合流地点に向けて徐々に楕円形に姿を変えていくのだ。
高品質で低コストを実現した技術
品質の良い構造物を低コストで造るための工夫もしている。本線シールドトンネルのセグメントには高い耐火性と耐久性が求められ、大林組は、鋼繊維補強コンクリート(SFRC)に耐火性を持つポリプロピレン短繊維(PP繊維)を混入した「耐火型SFRCセグメント」を提案した。
これにより、通常より薄いセグメントでの施工が可能となり、品質を保ちながら製作費の削減につなげた。路面の基礎となる床版もプレキャスト化し、工程の短縮と作業量の低減も実現させている。
現場ではJV構成会社も含めた60人を超える社員が昼夜交代で働く。大所帯を率いる所長の北村は若手社員に対して「仕事では、常に考えることで個人の能力を上げてほしい」と説く。また、役職者に対しては、部下が仕事しやすい環境をつくることの大切さを語っている。
竣工まで残り数ヵ月。「まずは安全第一。そして、住民や発注者、協力してくれた社内外すべての方の期待に応えるため、誠心誠意、施工していく」と語る北村のまなざしからは、この現場にかける熱い思いが伝わってきた。
(取材2016年3月)
工事概要
名称 | 横浜環状北線シールドトンネル工事 |
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場所 | 神奈川県横浜市 |
発注 | 首都高速道路株式会社 |
概要 | シールドトンネル工(2本、総延長約11km、径12.3m)、分岐合流4ヵ所、立坑部躯体構築工 |
工期 | 2008年6月~2016年9月(工期延伸予定) |
設計・施工 | 大林組、奥村組、西武建設 |