最先端技術を用いた工事 Projects Using Cutting-edge Technologies

CASE.2

中央環状品川線大井地区トンネル工事(2012年竣工)

「一致団結で達成した世界注目の新たな試み」

井澤 昌佳 〈当時〉監理技術者・工事長

中央環状品川線大井地区トンネル工事
新工法を含む多種多様な工種を用いた大規模工事

本工事は首都高速道路「中央環状品川線」の一部をなす大井ジャンクションと接続する高架橋から大井北換気所を含む区間延長約730mの道路トンネルを構築するものです。橋梁上部工および下部工から換気所のニューマチックケーソンでの立坑掘削、そしてメインとなる国内最大級のシールド機を使ったトンネル工事まで多種多様な工種が用いられた複雑なものでした。

中でもトンネルの掘削には、発進地点に立坑を掘って地中からスタートする一般的なシールド工法と違って地上から発進したシールド機が地中に向かってトンネルを掘り進め、ニューマチックケーソンで施工した立坑に到達した後、立坑内で180度方向転換して再びトンネルを掘り進め地上に戻ってくるというURUP(ユーラップ)工法®︎を国内で初めて実用化。海外の例を見てもこれだけの規模で行ったものは過去になく、国際的にも注目される工事だったといえます。

この工事に私は監理技術者という立場で携わることになり、工事全般の計画、管理、発注者対応などを受け持ちました。当初は、誰もやったことがない取り組みへの挑戦を任されたことについての感謝と高揚、これまでものづくりに携わってきたプロフェッショナルとしての自負、絶対に成功させなければいけないというリーダーとしてのプレッシャーなどが入り交じり、とても複雑な心境で工事を進めていたのを覚えています。

いよいよ実用化された新工法URUP

発進・到達地点に立坑を掘る必要のないURUP工法®︎には、工期の短縮や建設発生土が大幅に削減できるというメリットがあります。本工事の場合、すべて開削工事で行う場合と比較すると建設発生土は40%、CO2排出量は54%の削減が可能です。

その一方で地上発進・地上到達ならではのリスクもあり、発進・到達時の地下水によるトンネルの浮き上がりや小土被りで荷重が不安定になることによる断面の変形などの可能性が予見されました。

事前に実証実験を行い、この工法の理屈では発見できなかった問題点や課題を抽出。さらに実証実験の知見により技術審査証明を取得し、実際の現場への導入に至りました。
具体的な対応としては、地下水によるトンネルの浮き上がりについては、施工時には仮設盛土を、完成時には重量コンクリートをトンネル内の構造物に用いることによって重量バランスを安定化。小土被りで荷重が不安定になることによる断面の変形に対しては、施工時には仮設鋼材で補強し、完成時には道路空間に支障のない位置に本設の補強構造物を構築することで解決しました。

このURUP工事は世界初ともいえる大規模なものであったため、直近での導入を検討していたニュージーランドをはじめ、次々と海外からの見学者が訪れ、案内に追われる日々が続きました。

藤井 剛〈当時〉副監理技術者・副所⻑
URUPで広がったシールド工事の適用範囲

2010年2月にスタートしたこのURUPトンネル工事は、途中、電力を供給する埋設インフラとのわずか30cmほどの間隔しかない箇所などもクリアしながら2011年5月に完了。工期が短く、環境への負荷を大幅に削減する新時代へ向けた工法として第一歩を踏み出しました。

文字どおりトンネル工事に風穴を開けることとなったURUP工法®︎によって、シールド工法の適用範囲は大きく広がりました。地上から地下にアクセスする道路などで着実に実績を積み重ねているほか、現在は河川や海底を横断するライフライントンネルなどさまざまな場面で用いられるようになっています。

改めて実感した一致団結の大切さ

私はトンネル技術者として、現象をよく観察し、知識と経験を駆使しながら物事の本質を追求する姿勢で仕事に臨んでいます。自分に対しては「粘り強く、あきらめない」ことを課し、誠実かつ確実に工事を進めるのが信条です。

そしてこのような大工事は、みんなの協力があってこそ成功できるもの。関係者にはできる限り分かりやすい言葉を選んで伝え、しっかりとこちらの意図するところを理解してもらい、全員が共通した認識のもと同じ方向を向いて進んでいけるように努めています。

さまざまな工種が組み合わさったうえに新たな工法にもチャレンジすることとなった今回の工事では、現場の仲間や社内の技術陣、協力会社の作業員の方々などが一丸となって取り組むことができ、改めてその大切さを実感することとなりました。
立場上、手本となるよう常に自律していなければいけないと考えています。また、酒席が設けられている意味を考えると、誰よりも親睦を深めなくてはいけないのがリーダーである自分ではないかということに気づき、ならば人間味があった方がいいと次第にタガを外すようになり、いまでは若手からいじられるようにもなっています。
仕事に向き合うこのような姿勢はこれからも大切にしていくとともに、次の世代にもうまく引き継いでいきたいと思っています。

「つくるを拓く」を地で行く人間でありたい

現在、大林組のブランドビジョンとして「つくるを拓く」という言葉が掲げられていますが、まさに自分がこれまで胸に抱いてきた想いと相通じるものです。
「時代の先を思い描く構想力。必ずかたちにしてみせる実現力。そして、一人ひとりに真摯に向き合う人間力。」を持ち味に、「ものづくり」の技術と知見を今までにないやり方で活かし、これからもずっと「拓く」に挑戦し続けていきたいと考えています。