みんなでつくるまち

「OWNTOWN(オウンタウン)」 構想

構想:大林組プロジェクトチーム

あなたが暮らしている街とまったく同じ街がスマホやデジタル端末の中にあって、自由自在にそこでの暮らしを試すことができたら何をするだろう。まるでゲームのように手軽に都市の再開発や街づくりのシミュレーションができたら、きっとたくさんの人が、街が快適になるアイデアを考えるにちがいない。

私たち大林組プロジェクトチームでは、デジタルツインが進化して都市や街のスケールで構築され、誰でもカンタンに利用できるようになったときの街づくりを描いてみた。OWNTOWNは、住む人それぞれの思いやアイデアをもとに、皆が主役となってつくる街の構想だ。

"みんなでつくる"と正解に近づく

現在、都市開発や街づくりは、国や自治体が主導している。開発する地域の選定や建物の用途や容量の限定など、さまざまなルールにのっとって計画が策定される。多くの人がおおむね満足できる街がつくられるが、そこに人々の意思が反映される機会は非常に少ない。

街づくりの理想は、住む人の街や未来への思いを可能な限り活かすことだが、それは容易ではない。一つひとつのアイデアを現実空間で試せればいいが現実的ではなく、実際は一人ひとりの思いを汲み取ることもできていない。しかし、デジタルツインを活用することで、さまざまな思いやアイデアをデジタル空間で具体化し、シミュレーションを重ね、相反する条件、ニーズも含めて最もバランスの取れた計画をつくることができる。デジタル空間でならば、条件を変えた場合にどういう結果になるか、自在にシミュレーションができるので、検討を経て作られた計画は、多くの人の納得しやすいものになるはずだ。

OWNTOWNは、みんなの集合知によって街がつくりあげられる。

住民がデジタル上で街を編集していく

街を"考える"ための仕組み

情報を活用するためには、あらゆる分野の情報の中から必要なものを一つにまとめ、誰でも利用できるかたちにして提供するための土台となるプラットフォームが必要だ。OWNTOWNでは、まちづくりや暮らしに必要な、地図や建物・土木構造物の形状などの静的なデータだけではなく、気象や人流・物流、交通情報やインフラの稼働状況など、動的データも集約し、使いやすくまとめた「建築プラットフォーム」を用意する。

建設プラットフォームには街づくり、住まいづくりに関するさまざまなデータが格納されている

また、デジタル技術や建設の専門家でなくても簡単に利用できるサービスが「建設アプリ」だ。「OWNTOWN Future」を使えば、さまざまなデータや条件をもとに少し先の未来を予測でき、街をつくる場所を探すときに最適な場所を予測する時にも使える。街の機能をつくるサービス「OWNTOWN Construction」は新築する場合のほか、増改築、リフォーム、リメイクにも対応する。

建設プラットフォームには、不動産取引データ(購入の可否、価格、条件など)、関連法規など街づくりに必要な情報がすべて内包され、建設アプリはそれらを検討したうえで案を作成するため、実現可能性の高いプランとして提案ができる。プランが決定されると自動的に設計データが作成され、建築確認が行われ、必要な部材や機械工具、人員が確認され、施工計画が作られていく。

アプリと対話するだけで、住む街(場所)選びから施工計画づくりまで実施することができるのだ。

街を"つくる"ための仕組み

■ユニット化、モジュール化
未来の建築・建設の場では、職人的な技術が必要なつくり方だけでは困難になり、住まいもさまざまな施設も街自体も、モジュール化(サイズや接続方法を共通化、標準化)した部材や部品をごく限られた工具で組み立て、それを結合してユニット化する方式が標準になると考えられる。

デジタルツインで簡単に街づくりができても、実際に住み始めるまでに時間がかかってしまえば、デジタル上での計画と実空間が同調せず、意味がない。そこで、OWNTOWNでは、インフラや住まい、街を構成する施設すべてをユニット化する。玩具のようにユニットを組み立てたり組み替えたりすることで多様な街をつくることが可能で、デジタルの計画速度と現実の街の変容速度のスケールが近づき、建設プラットフォーム上で誰もが街づくりを考えやすくなる。

従来のユニット建築ではサイズや色を選べる程度だったのが、OWNTOWNでは、部材・部品をモジュール化しそれらを組み合わせてユニットをつくるため、デザイン・機能の自由度が飛躍的に高まり、多くのニーズへの対応も可能だ。また、ユニット間の接続方法もモジュール化、規格化されているので、建設(設置)・解体(取り外し)・移転(交換)も簡単だ。リニューアルやバージョンアップも容易になり、迅速な街づくりが実現する。

OWNTOWNは新規の街だけではなく、山中の一軒家の新築にも、既存の街への進出にも対応可能だ

安全に"暮らす"ための仕組み

住む人が街をつくり、改善していくOWNTOWNでは、街の機能を第三者に任せてしまうと自分たちで改善していくことは難しくなるため、街の自主性・自律性が重要になる。例えば、生活を支えるエネルギーは、街の規模に応じた供給能力を持つエネルギーユニットと、供給のためのインフラユニットを備える。従来だと専門的な知識に基づいた管理が必要だが、使用状況、稼働状況、経年変化はデジタルツインでリアルタイムに監視し、事故や老朽化の可能性は早期に把握できるようにする。

このように、遠方の施設から広範囲にエネルギーを送り届けるのではなく、供給元を街内に置き分散化することは、省エネルギーの推進やエネルギー需給の最適化を図りやすくなるだけではなく、想定外の災害時にも被害を最小限にし、普及も迅速に進めることができるのだ。

デジタルツインの可能性

今やデジタル技術は生活に欠かせないが、住まいや街づくりの分野の利用はこれからが本番だ。デジタルツインを前提とした街づくりを考えるとき、データの不正利用などネガティブな印象もつきまとうが、住む人が自分たちで最適解の街を作りあげていくことができれば、明るい未来の姿が描けるはずだ。

デジタルツインには大きな可能性がある。今回の構想OWNTOWNのように、社会問題を解決し、新たな社会を気付く力になることを願っている。

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この記事が掲載されている冊子

No.61「デジタルツイン」

「デジタルツイン(Digital Twin)」は、現実の世界にあるさまざまな情報をセンサーやカメラを使い、デジタル空間上に双子(ツイン)のようなコピーを再現する仕組みのことです。
製造分野においては早くからこの仕組みを活用し、デジタル空間で事前のシミュレーション・分析・最適化を行い、それを現実空間にフィードバックする試みが行われてきました。現在では、IoTやAI、画像解析等の技術の進化により、さまざまな分野にその活用が広がりつつあります。
本書では、デジタルツインの全体像をとらえるとともに、今後の可能性を紹介します。また、大林組技術陣による誌上構想OBAYASHI IDEAでは、デジタルツインを活用したあらたな街づくりの在り方を描いてみました。
(2021年発行)

都市のデジタルツインの今と将来への期待

葉村真樹(東京都市大学総合研究所未来都市研究機構 機構長・教授)

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デジタルツインのフロントライン

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デジタルツインが育む「未来の建築」

茂木健一郎(脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所上席研究員)

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