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Project Story 05

将来は月面の建設プロジェクトに。
5Gを使った新しい時代の建設工事

将来は月面の建設プロジェクトに。
5Gを使った新しい時代の建設工事

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プロジェクトリーダー プロジェクトリーダー

Project Leader

地盤技術研究部 主席技師

稲川 雄宣

Yusen Inagawa

斜面安定や地盤改良の研究開発を経て、ケーソン工法の自動掘削などICT土工に携わる。国土交通省の5Gを使った遠隔操縦の実証実験で品質管理に関わる「αシステム」などを担当。徹底して想像することを心がけている。

斜面安定や地盤改良の研究開発を経て、ケーソン工法の自動掘削などICT土工に携わる。国土交通省の5Gを使った遠隔操縦の実証実験で品質管理に関わる「αシステム」などを担当。徹底して想像することを心がけている。

労働力不足と技能継承は建設業界が直面している重大な問題で、デジタル技術を用いた省人化による生産性向上は急務となっている。大林組では建機を遠隔操作できるシステムや工事現場におけるICT活用を見据え、作業効率化を研究。プロジェクトを担当した稲川雄宣研究員は建設工事の未来を語った。

About Project

国土交通省のローカル5G遠隔操縦の実証実験に参画

DX(Digital Transformation、デジタル変革)は生産性や安全性の向上、人手不足への対応などのため、建設業界でも急がれています。政府としても推進している分野となります。例えば、2021年から国土交通省所管の国土技術政策総合研究所と土木研究所が運用している「建設DX実験フィールド」には遠隔操縦の機械などが置かれていて、中小の建設会社もさまざまな検証が行える場として貸し出されています。もちろん、大手ゼネコンは各社競うように遠隔操縦をはじめとするICT(情報通信技術)活用やAI(人工知能)活用の研究開発を加速させています。

大林組も近年、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。その一つが2020年度に行った、内閣府主導の「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の一環である国土交通省の事業、ローカル5G(第5世代通信規格)を用いて複数の建機を連携させる遠隔操縦の実証実験です。⽇本電気株式会社(NEC)、酒井重⼯業株式会社とコンソーシアム(共同事業体)を組んで参画しました。

遠隔操縦で最も重要なのは、オペレーターがいかにその場にいるかのごとく運転できるかということ。要は数秒でも映像が遅れたり、画質が悪かったりしたら実用化できない。施工の効率や精度が落ちるだけでなく安全に関わります。それを可能にするのが大容量・低遅延の5Gですが、キャリア5Gの電波が届かない山間部などではローカル5Gを使うことになります。それで国土交通省に対して、実際の施工現場にローカル5Gの通信網を整備し実作業の中で遠隔操縦の実験を行うという、これまでにないプロジェクトを大林組が中心となって実施したわけです。

プロジェクトの期間は準備を含め2021年1~3月。場所は大林組のJV(ジョイントベンチャー)が施工中の静岡県御殿場市にある境沢川調節池。実際に現場で、5Gと5GHz帯無線を利用して汎用遠隔操縦装置と電気信号制御装置を使い、3台の建機(油圧ショベル、キャリアダンプ、ブルドーザー)の遠隔操縦と1台の建機(振動ローラ)の自動運転による盛土の施工を行いました。現場から400m離れた場所からの遠隔操縦をメインに、約300km離れた大阪府枚方市からの超遠隔操縦も実験。遠隔操縦の操作および映像に関わる装置の開発は大林組、基地局から5Gを使って電波を飛ばす通信環境の開発はNEC、土を平らに固める振動ローラの自動運転化技術の開発は酒井重工業という役割分担でした。

アバウトプロジェクト アバウトプロジェクト

Story

便利なだけではいけない。
品質が良くなくては

実証実験に用いた装置の一つが「サロゲート®」。建設機械の操作レバーに装着することで無人化運転を可能にする汎用遠隔操縦装置です。さまざまなメーカーの建機に対応しており、オペレーターが遠隔操縦室から建機を動かせるようになります。もう一つが「スカイジャスター®」。特に電波の指向性が強いキャリア5Gに必要な装置ですが、自動的にGNSS(全球測位衛星システム)データを取得し、常に建機のアンテナを基地局に向かせる電気信号制御装置です。吊り荷の回転を制御するクレーン用スカイジャスターの技術も応用し、これをアンテナに装着することで、どこに移動しても良好な電波状態を保つことが可能になります。

キャリアダンプで「自律運転」の実証実験も行いました。最初に経路を設定すれば、あとは障害物があっても自動で避けて目的地まで行きます。加えて「音声操作」も行いました。ダンプへの土の積み込みもオペレーターが遠隔操縦し、それが終わったら目的地を音声で指令。すると自動的に移動する。さらに目的地に着いたら、ダンプアップや積み下ろし位置の調整なども音声で指令する。そうやって土をきれいにならして下ろす。つまり、汎用遠隔操縦装置と電気信号制御装置を組み合わせて、一人で二つの建機を動かす実験もしたわけです。

ただ、やはり私たち建設会社としては、できあがりの品質が良くないと困ります。そのため、遠隔から建機を動かすこともさることながら、遠隔から品質を管理できるような仕組みも重要になってくる。そういうアプローチの実証実験も行いました。

それが遠隔操縦に3Dレーザースキャナや加速度計などのセンサを組み合わせて、リアルタイムで盛土の品質管理を加えた「統合施工管理システム」を使った実験です。例えば、振動ローラに加速度計を装着して、地盤の固さが目標まで到達しているかどうかを測定する。あるいは3Dレーザースキャナを用いて高さや平坦性を確認する。それを自動化して遠隔で品質管理を行ったわけです。

ストーリー ストーリー

月面での建設プロジェクト適用も遠くない

国土交通省のローカル5G遠隔操縦の実証実験は非常に満足のいく結果が得られました。遅延の問題もなく、安全性や品質も確認されました。大林組は既に地震で倒壊した熊本城のがれき撤去なども遠隔で行っており、その意味では、もう実用化されている技術と言っていいでしょう。ただ、現時点ではコストが高く、通常の工事に適用するのは難しい状態です。そのため、まだしばらくは今にも崩れそうな山など人の入りづらい特定の場所、オペレーターが搭乗して作業するのが困難な事故・災害現場などで利用されていくと思います。

ストーリー ストーリー

ただし、遠隔操縦・自動操縦については法律の整備がしっかりできていない面があります。例えば「何か起きた時にどうやって建機を止めるか」という安全に関わる問題に対して法律的なルールは決められていない。そのため、今回の実験でも、緊急停止のボタンを持っている係員を必ず一人、建機のそばに配置していました。自動操縦の普及は、まず法整備から始めないと、なかなか進まないのではないでしょうか。

大林組 東日本ロボティクスセンターでは今、「自動掘削」の研究開発にも取り組んでいます。もうすぐ自動的に土の状況を判断し、最適なアプローチで掘削して土を積み込むという自律型の建機が登場するはずです。それは将来的には、例えば、月面での建設プロジェクトに適用されるかもしれない。いつになるか断言できませんが、そんなに遠くない時期に現実になると思います。

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