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Project Story 04

世界基準の「WELL認証」を日本で初めて取得。
働く人々の健康に配慮した新標準「ウェルネス建築」

世界基準の「WELL認証」を日本で初めて取得。
働く人々の健康に配慮した新標準「ウェルネス建築」

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プロジェクトリーダー プロジェクトリーダー

Project Leader

都市環境技術研究部 副部長

吉野 攝津子

Setsuko Yoshino

人間心理の面から建築環境を研究し、ウェルネス建築、マルチエージェント避難シミュレーション、たてもの診たろう®、自然災害リスク簡易評価システム、BCM達成度診断などの開発に携わる。モットーは「求められるうちが花」。

人間心理の面から建築環境を研究し、ウェルネス建築、マルチエージェント避難シミュレーション、たてもの診たろう®、自然災害リスク簡易評価システム、BCM達成度診断などの開発に携わる。モットーは「求められるうちが花」。

心身の健康や豊かな生活を積極的に実現・発展させる「ウェルビーイング」の観点はいまや世界的な経営指標。大林組では建物利用者の健康活動や環境行動に働きかけ、安全・安心・健康・快適を実現する建築計画・管理手法を「ウェルネス建築」と命名し、研究に取り組んでいる。プロジェクトを率いる吉野攝津子研究員は、文字通りゼロからのスタートだった。

About Project

健康もパフォーマンスもUP!
注目が集まる「ウェルネス建築」

「ウェルネス建築」とは文字通り、建物を利用する人々のウェルネス/ウェルビーング(健康、快適、安全・安心など)に焦点をあてた空間づくりのこと。このコンセプトを適用することで、例えば、事務所や生産施設では働く人の病気予防や欠勤・離職の低減、出勤してもパフォーマンスが上がらない状態の解消、商業施設やホテルではリピーターの増加といった生産性や集客性への効果が期待できます。また、企業経営者にとってはブランディングによる優秀な人材の確保のほか、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)に関する市場評価の向上、ビルオーナーにとっては賃料・入居率のアップや不動産価値の向上といった収益性への効果が期待できます。

健康に配慮した建物に対するESG投資の額が2014年から8年間で3倍以上に上昇するなど、ますます注目されているウェルネス建築ですが、技術研究所はそのトップランナーを自負しています。「WELL認証(WELL Building Standard®)」というアメリカ発の第三者評価があり、技術研究所本館テクノステーションは2017年11月に日本で初めてこれを取得。建物全体としては世界初の認証でした。以来、私たちは認証機関との協議、要件への対処、エビデンスの整備などのノウハウを活かしてWELL認証の取得サポートを行い、取得しない場合でもその評価基準に合致するような技術やノウハウを提案・提供してきました。

アバウトプロジェクト アバウトプロジェクト

今では、こうした取得支援や認証要件に則した提案は業界標準になっています。技術研究所では、それに加え、WELL認証がカバーしていない建物利用者の心理面、共感や達成感を高める研究開発などにも取り組んでいます。

アバウトプロジェクト アバウトプロジェクト

Story

「全否定」から始まった
前例のないトライ

私がウェルネス建築に携わるようになったのは2014年度からです。次世代技術の探索を中長期的に取り組む組織横断型のワーキンググループのテーマが「ウェルネス」と決まり、そのリーダーに任命されたのがきっかけでした。具体的な課題設定や成果品はいわば自由なので、「ウェルネスって何だろう?」というそもそも論、コンセプトづくりからスタートしました。国内外のウェルネスに関する情報を集め、建設業としてどのように関与できるか、どのような技術開発が必要になるかをメンバーと議論しながら考え続けました。その過程でウェルネス建築という言葉を使い始め、「健康を損ねずに維持・増進させ、さらに健康や心の豊かさを支えるツールとしての建物」という定義も導き出しました。そして、2014年から始まったWELL認証に着目し、その取得をめざすことにしたのです。

当時のWELL認証は「空気」「水」「食物」「光」「フィットネス」「快適性」「こころ」の7領域・105項目(現在は「空気」「水」「食物」「光」「運動」「温熱快適性」「音」「材料」「こころ」「コミュニティ」の10領域・200項目以上)で建物・室内環境を評価するというものでした。ところがなかなか社内承認をもらえなかった。何度もダメ出しをされ、時には「技研のやることじゃない!」と頭ごなしに否定されることもありました。まったく前例がなかったのと、どのように大林組の事業に貢献するか、うまく説明できなかったのが原因だったと思います。それでも徐々に理解者が増えていき、2015年にWELL認証へのトライが認められたわけです。そこから人手や費用、建物の情報開示のための社内調整を行い、正式にWELL認証にエントリーできたのは2016年7月でした。

幸い2010年に新築された技術研究所本館は省エネと快適性・知的生産性の両立、コミュニケーションの活性化をめざして設計されていて、WELL認証の評価基準を既にクリアしている項目がたくさんありました。例えば、玄関ホールから伸びる階段の歩行スペースや常時300ルクスという適正値を保つ採光・照明のほか、受付に展示されている創業当時の社屋に使われていた鬼瓦も「組織の文化を感じさせ、情緒的な健康につながる」と評価されました。

国内第1号のWELL認証は
「プロフェッショナル」の
協力のおかげ

もちろん、足りない部分も多くありました。でも、予算にも限りがあったので工夫して取り組みました。例えば、「スタンディングデスクが30%以上」という基準も、執務席の交換が困難だったので、既存のデスクの上に置く安価な小机を活用して対処しました。ほかにもアンケート調査や活動量の統計解析などを行い、エビデンスとして提示して、評価を得ることができました。ただし、外気用の空調フィルターについては日本の基準よりもかなり厳しく、アメリカ製高性能フィルターにすべて交換する必要がありました。

また、認証対象には休暇制度やフィットネスクラブの補助、メンタルヘルスのプログラム、ビルメンテナンスの方法、社員食堂のメニューなども入っています。建物のオーナーには施設内では一切不健康なことをさせないという「哲学」が求められ、食堂メニューの栄養表示から掃除用洗剤の成分まで評価されるのです。なので、人事・総務部門や管理栄養士、建物の管理を担う大林ファシリティーズなどの協力が不可欠でした。ただ、やはり日米のギャップがあって大変でした。例えば、食物領域の項目に糖量の明記があるのですが、日本ではその表示義務がなく、炭水化物しかない。そこで審査機関に「管理栄養士が考えてつくっているから」と交渉して評価してもらったりもしました。

ストーリー ストーリー

評価項目は本当に多岐にわたっていて、個人的にもさまざまな学びがありました。審査機関に提示するエビデンスを整備する際にも、技術研究所に在籍する多くのプロフェッショナルに助けられました。ビルメンテナンスや食堂の方々も最初は「いきなり言われても無理」という感じでしたが、きちんと説明すると親切に対応してくれました。こうした課題の洗い出しや関係者との調整、備品の調達、工事、エビデンスの整備などを行いながら2017年5月に書類を申請しました。そして9月の現地調査を経て、11月に国内第1号のWELL認証が取得できたわけです。

手探りで始めたウェルネス建築ですが、現在、大きなビジネスにつながっていることを本当にうれしく思っています。同時に、これから後進を育てていかなければいけないという大きな責任も感じているところです。

公正な研究活動について

大林組技術研究所では、
公正な研究活動を推進しております。
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  • 大林組技術研究所企画管理部
  • 〒204-8558 東京都清瀬市下清戸4-640
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  • メールアドレス:tri_kousei_kenkyu@ml.obayashi.co.jp