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Project Story 03

日本のスポーツターフに変革を起こす。
天然芝の生育予測技術「ターフシミュレータ®」

日本のスポーツターフに変革を起こす。
天然芝の生育予測技術「ターフシミュレータ®」

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Project Leader

自然環境技術研究部 副部長

松原 隆志

Takashi Matsubara

中東や東南アジアで緑化技術研究などに従事。スタジアム設計・芝管理評価プログラム「ターフシミュレータ」や生物多様性に配慮した緑地設計のための鳥類の生息地評価モデルを開発。常に自分の感性を信じて仕事をしている。

中東や東南アジアで緑化技術研究などに従事。スタジアム設計・芝管理評価プログラム「ターフシミュレータ」や生物多様性に配慮した緑地設計のための鳥類の生息地評価モデルを開発。常に自分の感性を信じて仕事をしている。

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自然環境技術研究部 主席技師

十河 潔司

Kiyoshi Sogo

ノエビアスタジアム神戸(当時:神戸ウイングスタジアム)のピッチ芝の育成管理・張り替え工事管理などを経て、エスコンフィールド HOKKAIDOの基本計画や実施設計、フィールド工事などのほか、寒冷地の芝育成実証試験に携わる。三現主義(現場で・現物を・現実に)がモットー。

ノエビアスタジアム神戸(当時:神戸ウイングスタジアム)のピッチ芝の育成管理・張り替え工事管理などを経て、エスコンフィールド HOKKAIDOの基本計画や実施設計、フィールド工事などのほか、寒冷地の芝育成実証試験に携わる。三現主義(現場で・現物を・現実に)がモットー。

サッカー、野球などのスタジアムに欠かせない「芝」。日本では2002年の日韓サッカーワールドカップで関心が高まったが、大林組もスタジアム内の「芝」に着目し、芝がどのように育つかを評価する「ターフシミュレータ」を開発した。研究を担当した松原隆志、十河潔司研究員の成果は、2023年にオープンする「エスコンフィールド HOKKAIDO」でも発揮されている。

About Project

世界唯一の
「ターフシミュレータ」

十河 「ターフシミュレータ」はスタジアムの形状で変化する光、温度などの気象条件によって、そこに植えられた芝がどのように育つかを高精度で予測できる世界唯一のプログラムです。2011年に開発されて以来、サッカーや野球のスタジアムの設計・管理ツールとして使われ、直近では、2023年3月オープン予定のエスコンフィールド HOKKAIDOに適用されています。寒冷地の屋根付き球場での天然芝の育成は日本初の試みですが、ターフシミュレータの解析に加え、2019年からエスコンフィールド HOKKAIDO近くに建てた30分の1スケールのモックアップ6棟内で、寒冷地における実証試験を行っています。さまざまな育成ノウハウが蓄積されているので、開幕戦からプレイヤーにもファンにも天然芝の良さを楽しんでもらえると確信しています。

アバウトプロジェクト アバウトプロジェクト

松原 ターフシミュレータは当初、スタジアム内の芝の生育不良原因を特定するために開発をしました。2005〜2010年に京都大学と共同研究を行い、芝群落の光合成モデルと生長/衰退モデルを統合した数理モデルを構築したのですが、その6年間、ノエビアスタジアム神戸(当時:神戸ウイングスタジアム)で検証を重ねました。芝の個葉の光合成・呼吸・蒸散を季節ごとに2~4週間ほど一日中座り込んで測定し、群落の光合成・呼吸・蒸散、葉や根の面積・重量も通年で2週間に一度ごとに、さらに根や土壌の呼吸も測定をしました。この膨大な実測データのおかげで、その後、生育予測プログラム・設計・管理ツールに改良することができたわけです。いまだにターフシミュレータが世界唯一なのは、私たちのように労力をかけてデータを十分に収集することが世界中のどの会社にも真似できないからでしょう。

アバウトプロジェクト アバウトプロジェクト

Story

あの「経験」があったからこそ

十河 スタジアム内の芝を研究するきっかけは2002年の日韓サッカーワールドカップでした。当時、観客席を覆う屋根、天然芝のピッチなど国際基準を満たす大型サッカー場が新しく10施設ほど建てられました。その中の一つ、ノエビアスタジアム神戸の設計・施工、そして管理を大林組が担ったわけです。大会後、スタジアムはドーム型に改築され、芝の品種も冬に休眠する暖地型から1年中緑の寒地型に変えたのですが、たちまち生育不良が生じました。それで急遽、特命の対策チームができました。私はその一員として2003年から現場に常駐して芝の維持・管理を担当することになり、2018年まで張り替え工事などに携わっていました。例えば、張り替えの回数や面積を減らすだけで10億円、20億円と経費削減できるので、グリーンキーパーさんと打ち合わせながら、水や肥料のあげ方、補修の仕方、プレイ以外の使用制限などいろんな試行錯誤をしました。

松原 私は2001年から低照度下での芝の生育試験を開始し、スタジアム内の照度改善および芝の管理計画にも関わっていましたので、そのまま対策チームに入りました。当初から生育不良の主な原因は日照不足という認識は共有されていました。ただ一方で、光以外の気象、病害、水・肥料管理、地盤、ピッチの使用頻度などの生育不良に関わる要因のうち、いくつかを改善したら芝は育つのではないかという意見も根強くありました。私としては「どんな対策をしても光が不足していたら無理!」と叫びたかったのですが、当時の学術的な知識では説得が困難でした。2年くらい現場で各種要因をしらみつぶしに検証したのですが、結局、解決することはできませんでした。そこで光合成と生長/衰退のモデル(後のターフシミュレータ)を構築すれば、対策チームを納得させられるし、より効率的な維持・管理も提案できるだろうと考え、京都大学との共同研究を始めたわけです。

十河 設計・施工会社が管理まで担うケースは稀ですが、ノエビアスタジアム神戸の場合、大林組は15年間管理するという契約を結んでいました。なので、腰を据えて研究開発や実験的な芝の維持・管理に取り組めました。その結果、適切かつ合理的な管理方法を見出し、無事引き渡すことができました。今も、ノエビアスタジアム神戸の芝生は極めて良好です。この神戸で得た貴重な知見が北海道につながっています。

日本をスポーツターフの先進国へ

十河 ターフシミュレータができあがると、ノエビアスタジアム神戸の維持・管理だけでなく、新規のスタジアムのコンペの提案資料にターフシミュレータでの検証結果を盛り込むなど、積極的に営業に活用するようになりました。もちろん、意匠や建設コストなど総合的に判断されるので、それで単純に受注件数が増えるわけではありません。ただ、芝は品種や手入れの仕方、環境、プレイ頻度などによっては1ヵ月でダメになる。そんな中で、私たちはターフシミュレータや維持・管理のノウハウを駆使することで「張り替えなし」という提案ができます。これは間違いなく、大林組ならではの強みだと自負しています。

ストーリー ストーリー

松原 これまでであれば、新しい芝管理の方法を検討する際に、試験区を設置して長期的な育成管理をして、初めて結果を得ることができました。しかし、苦労して育成試験をしても、試験結果に再現性がなく、明確な結果が得られないことも。今では、パソコン上で育成条件を変更して、何度でもシミュレーションすることができますし、試験結果が違ってくる原因をモデルで解析することも可能です。また、グリーンキーパーさんに育ててもらった芝も年々変化する気象条件で生育状態は変化してしまいます。そんな時にも、ターフシミュレータを活用することで、異常気象や将来の地球温暖化の影響を予測し、対処方法を検討することもできます。先進技術で良好なスポーツターフを提供することに貢献できればと思っています。

十河 日本のスポーツターフへの取り組みは世界に比べたらまだ後進国と言えます。繰り返し張り替えられるスタジアムはまだしも、お金をかけられず、選手に文句を言われながら何とか維持しているところが少なくありません。見た目は良くても、生育状態が悪いと選手のけがにもつながるので、欧米のような芝文化が根付いてほしいと思います。ヨーロッパでは、日本よりも日射量が少なく寒いところでも、グローライトという人工的な光を当てたりしてきちんと育てています。エスコンフィールド HOKKAIDOはそういう方式が採用される予定ですから、日本の芝文化の先駆けになるはずです。私たちの技術がその一助になったとしたら、これほどうれしいことはありません。

公正な研究活動について

大林組技術研究所では、
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