
JR北海道千歳線の札幌駅と新千歳空港駅の間、石狩平野のほぼ中央に位置する北広島市は、なだらかな丘陵地帯に豊かな自然と都市機能が調和している街。冬には氷点下20℃になる地で、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場の建設が進んでいる。
街の核となる新球場建設


北海道日本ハムファイターズが現在、本拠地を置く札幌ドームは、札幌市が所有しているため球団が施設を直接管理・運営することができない。そこで、球団は自前の新球場の建設をめざし、北広島市と官民協働で新球場を核とした街づくりを進めることになった。
新球場「エスコンフィールド HOKKAIDO」の建設地は、面積が約32万m²、高低差が約30mの傾斜地で、元はきたひろしま総合運動公園予定地だった。2023年のシーズン開幕時には、3万5,000人を収容する。臨場感抜群でフィールドに近い観客席や開閉式屋根、天然芝、自然光を取り入れる最大高さ70mのガラス壁、球場内のどこからでも試合観戦を可能にする360度回遊型コンコースなど、さまざまな工夫が施された球場となる。
新球場を擁する「北海道ボールパークFビレッジ」は、将来、ホテルや商業施設などを備え、野球観戦以外の魅力も併せ持つ街になる予定だ。現場では全体工期の中間を経過し、固定屋根工事は概ね完了、可動屋根の組み立てに取りかかっている。
重さ1万tの巨大屋根を支える
工事開始1年前から施工計画を策定
着工と完成の日付が確定しているこの工事は、全体工期が32ヵ月ということが決定していたものの、工事受注時に設計図面詳細までは決定していなかった。そのため、定められた工期内に完成させるには、屋根工事の進捗が最大のポイントとなった。
そこで、着工1年前に先発メンバーとして所長 竹中を含む4人が配属されたことを契機に、構造・意匠設計業務に、初めから施工側の意見を反映させるフロントローディングを導入し、設計側と施工側双方が工期厳守のための施工計画などについて、意見やアイデアを出し合った。その結果、球場ホームベース側を北工区、センター側を南工区に区分し、おおむね固定屋根が架かる範囲の北から南工区に向かって工事を進める計画を策定した。

屋根を支え、スライドさせるガーダー架構の構築
大屋根は勾配のある切妻型で、冬場には雪の重量を支えるために、屋根が外側へ広がろうとする力が大きくなる。この力に耐えるのが鉄筋コンクリート造のガーダー架構だ。建築では例のない柱断面2.5m×4m、梁断面4m×3mという、道路や橋脚のような土木構造物に匹敵する巨大な躯体構築が必須となった。
高速道路の施工方法などからもヒントを探した。しかし、本工事の場合、同じ方法を採用していては完成に間に合わない。そこで、ガーダー架構の躯体をあらかじめ工場で製作するプレキャスト(PCa)化することとした。だが躯体は大断面のため、一体でのPCa化は総重量が数百tとなり、建築現場で使用する揚重機では吊ることすらできない。また、工場製作の製品を現場搬入する際の公道上の重量制限を考慮し、運搬可能な重さにする必要もあった。
そこで柱、梁のみをPCa化し、現地で一体化する方法を検討した。今回の工事のために開発したのが、外周部のみをPCa化した柱「外殻PC 」と、底部分のみPCa化したものを複数本並べ、上部を現場施工で一体化する梁「ナックルPCa」だ。
工場で作製された外殻PCaを現場で一段ずつ重ねて、内部にコンクリートを打設することで、重量の課題を解決した。ガーダー架構の躯体の内部、上部に打設したのは、大林組が開発した低炭素型のコンクリート「クリーンクリート」だ。
さらに、屋根が移動するレール躯体の複雑な形状の構築には、スライド式のシステム型枠を採用して高精度な施工を実現し、安全性や生産性の向上を図ることにも成功した。



屋根工事の安全性、生産性の向上

切妻型で、固定屋根と可動屋根で構成される新球場の大屋根には大きな特徴が2つある。一つはライト側の座席数が多いため、勾配がレフト側20度、ライト側17 度の左右非対称の屋根となっていること。もう一つは、冬場に積もった雪を屋根上から落雪させないよう、載せたままにする防水設計となっていることだ。
これらの特徴のために、特に仮設計画ではさまざまな工夫を行った。仮に固定屋根を一般的な総ベント工法で施工すると、フィールドの中に仮受け支柱(以下、ベント)を設置し、その上で屋根構築に必要な鉄骨を組み立てていくことになる。
しかしこれでは固定屋根の工事中、直下のスタンド構築ができず、屋根完成後も直下の工事に必要な揚重機のブームの可動域が狭くなり、作業効率が悪化してしまう。
そこで、固定屋根の構築は可動屋根と同様のスライド式にして、スタンド躯体の外側に可動屋根の施工と兼用できるベントを配置する計画を立案。固定屋根鉄骨と直下のスタンド躯体の構築を並行して行った。
屋根は防水材と天井吸音板をユニット化して地組みし、屋根上の高所ではユニット間の防水だけを行う。これにより安全性向上や作業の効率化、コスト削減に成功した。
副所長の黒田は「施工方法の提案は、施工側から積極的に働きかけました。関係部署と連携しながら、さまざまな工夫を施すことで工期に遅延はなく、現在も順調に工事を進めています」と話す。


施工管理に効果を発揮するSite Scan
ドローンで撮影した写真から点群データをクラウド上で自動生成し、データ共有を可能にするサービス「Site Scan for ArcGIS」。本工事は敷地が広大なため、このシステムを使用して日々変化する現場の様子を把握する。立体的に現場を確認することができ、社員間でデータを共有して現場状況確認や簡易測量、切盛土量算出などに使用。施工管理に効果を発揮している。また、ストックヤードやクレーンなどの作業計画の打ち合わせ、現場見学会の案内時などにも活用している。

厳冬期の施工に挑む
積雪への対応
北海道の工事では厳冬期に休工もあるが、本工事は工期厳守のため、スタジアム建設中二度の厳冬期も工事は中断できない。そのため、北海道の広大な現場ならではの対応が必要となる。
敷地面積が広く、作業員のほとんどが車通勤する現場では、駐車場を含め、冬期に膨大な量の除雪、施工場所の採暖が重要だ。除雪は現場に大型タイヤショベルカーを2台、小型ショベルカーを5台投入して作業に当たる。
降雪予報が出れば、夜間に除雪専門部隊を配置し、夜中の12時から朝6時ごろまで場内の除雪を行い、朝からの工事が問題なく進められるように備える。それでも朝礼後約30分は持ち場周辺の除雪が必須で、常に雪に対応しなければならない。

安全と品質の確保
北広島市の冬は、氷点下20℃に達することがある。その中で社員や作業員の安全確保、健康管理はもちろんのこと、建物の品質確保にも十分配慮しなければならない。
厳冬期のコンクリート打設では、養生の際、そのまま寒気にさらすと凍って品質に影響を与える。そこで打設前に仮設の壁や屋根を設置して作業場所を覆い、ストーブをたいて作業を行うことを毎回実施し、品質を確保している。また、降り積もった雪は、日中の気温上昇と下降で雪が一度溶けて水になり、氷になる。これが繰り返されると、塊は大きいもので厚さ約20cmにもなるため、簡単に除去できず、作業に支障が出る。滑る危険もあり、社員や作業員の安全面でも問題になることから、作業員が電動ピックなどを使用して一つひとつ氷を割るなどしている。
冬場の施工継続は想像以上に厳しく「肉体的、精神的にこたえます。そういう状況でも前を向いて工事を進めなければなりません」と副所長の嶋田は語る。雪や氷への作業前の手間を惜しまず、作業員たちは鉄筋を組み、コンクリートを打設する。所長の竹中は「北海道の冬場の作業では、地元の方々の知恵を借りながら、厳冬期のない場所の施工と同レベルの品質を追求します」と語った。


現場は、今後可動屋根と並行して南側ガラス壁を施工し、外構・フィールド工事を行う予定だ。2023年春の開幕に向け、工事は着実に進んでいる。

(取材2021年9月)
工事概要
名称 | 北海道ボールパーク(仮称)建設計画 |
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場所 | 北海道北広島市 |
発注 | ファイターズ スポーツ&エンターテイメント |
CMr | 山下PMC |
設計 | 大林組、HKS |
概要 | RC造・S造・SRC造、B2、6F、延12万500m² |
工期 | 2020年5月~2022年12月 |
施工 | 大林組、岩田地崎建設 |