描かれた漁・魚
衆鱗図(しゅうりんず)
18世紀
江戸時代に高松藩第5代藩主松平頼恭の命により作られた日本最古の本格的魚類図鑑。全4帖に魚類などの水生生物723点が生き生きと細部まで精緻に描かれている。鱗の下地には金銀の箔を用いて光沢を表現し、紙を重ねて表面を盛りあげて彩色するなど、技巧を凝らして立体感を表している。高松松平家歴史資料(香川県立ミュージアム保管)





魚類学あるいは魚の博物誌
1796年(仏語版)
18世紀の最も重要な魚類学者、ドイツのマルクス・エリエゼル・ブロッホ(1723~99)が著した博物図鑑。当時知られていた世界の魚の図版を約200点収録。地面に横たえた状態で描かれていた従来の魚の絵から、背景を省略して魚のみを精密に描写した図版は、その後の図鑑表現の原点となった。


自然の芸術的形態
1899~1904年
ドイツの生物学者エルンスト・ヘッケル(1834~1919)が著した芸術的な生物画集。10冊組の本で、全100枚の絵が収められている。大部分が本作のために描かれたもので、そのスケッチや下絵を版画に起こして掲載された。博物学と美術を融合させたかのような画集は、19世紀末~20世紀初頭の芸術運動アール・ヌーヴォーに大きな影響を与えたと言われている。本図版はハコフグが描かれている。

日本動物誌
1833~50年
ドイツの医師・博物学者シーボルト(1796~1866)が長崎に滞在中に採集した膨大な動物標本や日本人絵師が描いた下絵をもとに、オランダのライデン博物館の研究者達によって作成された。17年という長期にわたって分冊刊行された全43冊のうち、魚類は16冊。日本の動物について欧文で記載した最初の資料で、西欧に広く紹介された。京都大学理学研究科生物科学図書室所蔵




日本西部及び南部魚類図譜
20世紀初頭
スコットランド人貿易商トーマス・ブレイク・グラバーの次男である倉場富三郎(1870~1945)が、明治末から昭和初期の約25年間に編纂した長崎近海の魚類図鑑、通称"グラバー図譜"。長崎の魚市場に水揚げされた約600種の魚類を、地元の5人の画家に描かせた。全32集、806図。長崎大学附属図書館所蔵


日本魚介図譜
1929~30年
日本の動物学者田子勝弥が、博物画家である伊藤熊太郎の魚類画を編纂し、1冊20枚、全3冊で刊行した。伊藤は、明治から昭和にかけて図鑑や学術文献のために多くの精緻な魚類画を描き、魚類学の発展に貢献。アメリカによるフィリピン海洋調査に絵師として参加し、その際に描いた多数の魚類画がスミソニアン博物館に残されている。


浦々大漁之図
歌川広重 1858年
地引網、追網、ごち網など、幕末期のさまざまな網漁法を描いた三連の版画作品。広重の特徴の一つである、前景と遠景との大胆な対比で近海から遠海までを描く。

千絵の海 総州銚子
葛飾北斎 1833年頃
日本各地の漁を題材にした全十図からなる名所絵揃物。本図は舟の難所として知られる銚子の海に出た漁舟を描いた作品で、粗削りな力強い波の表現が魅力。千葉市美術館所蔵

諸国名所百景 肥前五島捕鯨の図
二代歌川広重 1859年
1859~61年にかけて日本の名勝、名跡を描いた二代広重の代表作。本図は、数十艘の舟で囲み、銛を打って捕らえる長崎県五島列島の捕鯨の様子を描いた作品。

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No.63「漁」
海に囲まれたわが国。その周辺はさまざまな魚介類が生息する世界でも有数の好漁場であり、豊かな食文化も生み出してきました。しかし近年、気候変動などにより近海での漁獲量が減少傾向にあることに加え、食生活の多様化などにより、日本の水産業が危機的状況にあるとされています。
本号では、日本ならではの海の恵みを次世代に受け継ぐことを願い、漁業の今、そして未来を考察します。大林プロジェクトでは、大阪湾を舞台に、「おさかな牧場」と名付けた環境負荷の少ない持続可能な漁場を構想しました。
(2024年発行)
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