海外事業のあゆみ

戦前・戦時期の海外工事

当社が初めて手がけた海外の工事は、朝鮮半島を縦断する鉄道の敷設に関連する工事であった。日露開戦の1904（明治37）年に仁川（インチョン）支店を開設し、本線の一部と機関車庫、駅舎等を施工。さらにその実績によって製材工場の建設をはじめとする十数件の特命工事を獲得した。

日本が戦争へと向かう昭和初期には、満州（現在の中国東北部）、華北（中国北部）で建設工事が急速に増大し、1940（昭和15）年3月に株式会社満州大林組を設立して大陸に進出する。同年9月に日本軍が北部仏印（現在のベトナム）に進駐すると、日本の南方進出における拠点として台湾の重要度が増し、台北出張所（1931年設置）は、台湾電力から天冷発電所、円山発電所の建設工事を受注。さらに海軍からは軍港工事、海軍病院、陸軍からは倉庫建設などを受注した。

1942年には軍需の拡大によって東南アジア地域にも進出するが、1945年の敗戦によって、海外基盤の一切を失った。

戦後の再出発――アジアで実績を積む

戦後の海外事業は、東南アジア諸国に対する戦後賠償の工事によって始まった。戦後賠償工事は1954（昭和29）年から1963年ごろまで継続し、当社はインドネシア・スマトラ島パレンバン市のムシ大橋架設、ジャカルタ市のサリナ百貨店建設などを受注した。

1964年4月には、東南アジアを視察して拠点をタイに置くこととし、日本の建設業者の常駐第1号としてバンコクに駐在員事務所を開設。このとき受注したAIA（アメリカン・インターナショナルアシュアランス）ビル新築工事は、当社が商業ベースで行った本格的な海外工事の最初である。その後1974年5月にはタイ大林を設立し、着実に実績を積んでいった。

また、1966年にはハワイに進出、ホノルルのサーフライダーホテルの建設特命を受けるとともに、同年4月に外国会社としての営業登録を行い、米国進出への足がかりとした。

なお、これらの海外工事においては、現地の地域開発に協力し、現地住民との交流を進めるなど国際親善に努めた。

米国で地歩を固める

1978（昭和53）年に現地資本との共同出資によりJ.E.ロバーツ大林を設立した。一方、翌1979年8月サンフランシスコ市下水道工事の受注に成功。これは日本の建設業者が初めて米国本土で受注した公共土木工事であった。工区は全体に軟弱地盤であり、周辺環境に対する厳しい制約があったが、当社は米国でそれまで施工例のなかった土圧バランス式シールド工法で応札し、その技術力が米国の建設技術専門誌『ENR』の誌上で高く評価された。その実績を背景として、1981年には現地の会社とのJV（共同企業体）により同幹線工事の別工区を、続いて合衆国内務省発注のユタ州ヒーバーのストロベリートンネルを受注。さらに1983年にはニューメキシコ州でエネルギー省発注の放射性廃棄物処理テストプラント立坑トンネル工事を行うなど、ロサンゼルスを中心とした民間諸工事の増加と相まって、米国本土における地歩を固めた。

現地パートナーとともに――海外事業のさらなる拡大

1980年代には日本企業のグローバル化とともに広い地域で受注活動が本格化した。1985（昭和60）年11月、オランダ・アムステルダムに大林ヨーロッパＢ.Ｖ.を設立。翌86年にパリ支店、87年にはロンドン支店を開設し、EC統合に向けて進出が活発化していた日系企業への対応策を進めた。

また、1985年にはオーストラリアで初めての土木工事を受注、87年、88年には2件の超高層ビルの建設工事をヘッドコントラクターとして請け負った。さらにアジアでも、1989年に台湾で台北市の地下鉄工事を受注するなど、現地の企業からの受注や大型公共プロジェクトを次々と獲得した。

当社は建築事業において、アジアでは現地法人化、アメリカではM＆Aを軸とした現地企業とのパートナーシップの構築によって現地顧客との信頼関係を築いてきたが、近年は、北米で直轄事業である土木も含めて積極的なM＆Aを展開し、さらに事業を拡大した。また2000年代には中東でもアラブ首長国連邦（UAE）のドバイで総延長75kmの都市交通システム「ドバイメトロ」を建設（2011年完成）、2013年にカタールの首都ドーハで旧市街地の大規模再開発工事を初受注するなど、大規模プロジェクトを推進している。

このように当社はそれぞれの地域の特性ごとに営業活動を展開し、高い技術力を必要とするプロジェクトに数多く参画している。