第2章
2015 2016
事業領域の進化と安定経営
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社会インフラ整備への貢献

アベノミクスの新成長戦略とインフラ整備

リーマンショック以後、建設業界では厳しい経営状態が続いていたが、2012(平成24)年12月に第2次安倍内閣が誕生し、アベノミクスの「三本の矢」(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)と呼ばれる一連の経済対策を打ち出すと、景気回復への期待が膨らみ都市部の再開発事業やオフィスビルなど民間の建設需要が急回復した。

さらに2013年には2020(令和2)年のオリンピック・パラリンピックの開催が東京に決定し、交通インフラの整備や民間設備投資が活発化した。国内の建設需要は近年になく一層高まり、一部で人手不足や建設資材の値上がりはあったものの、採算性の高い工事が増加した。特に都心の再開発による事務所や商業施設、物流施設など非製造業の建設投資が旺盛で、当社の受注高も2010年度以降4期連続で前年度を上回った。

一方、海外では新興国の経済発展等を背景に世界的にインフラ需要が高まり、2012年7月に閣議決定された「日本再生戦略」では、2020年度までに建設業の新規年間海外受注高2兆円以上を実現することが示された。また、2013年5月に政府が取りまとめた「インフラシステム輸出戦略」では、2020年までに30兆円のインフラシステム受注が目標に掲げられた。

特に新興国に対しては、持続的な成長と包括的な開発を達成するため、ライフサイクルコスト、安全性、自然災害に対する強靭性、社会環境基準、ノウハウの移転、地域コミュニティ・環境の保全、地域雇用創出等に配慮した、「量」だけでなく「質」にも着目したインフラ投資が求められた。日本政府は2015年5月に「質の高いインフラパートナーシップ」を公表し、アジア地域の膨大なインフラ需要に応えるため、円借款や海外投融資の制度改善を発表した。そしてこの「質の高いインフラパートナーシップ」の考え方は、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられた「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)にも同様の内容が盛り込まれ、日本がイニシアチブをとる形で世界に発信されていった。

当社ではこうした「質の高いインフラパートナーシップ」の考え方に基づき、新興国の都市部における慢性的な交通渋滞緩和のための高速道路や鉄道の立体交差化、洪水を防ぐための下水道・排水トンネルの整備など、安全・安心で快適な暮らしを実現するインフラの構築や、環境に配慮した生産施設の建設やまちづくりに取り組んだ。

建設需要の増大

2013(平成25)年9月に、2020年のオリンピック・パラリンピック開催が東京に決定すると、各競技会場の設備や選手村建設などの直接的需要だけでなく、ホテルの新築・増改築や都心の再開発、商業施設の建設や交通インフラの整備といった間接的な需要も増大した。関連する建設投資の規模は、総額10兆円程度に上ると見込まれた。特に宿泊施設の新築・リニューアル工事は招致決定前の2011年から増加し始め、2015年には2,500億円を超す投資が行われた。

また、近年は東日本大震災をはじめ大規模な自然災害が相次ぎ、さらに近い将来、首都直下地震や南海トラフ地震の発生などが予測されることから、防災・減災関連工事のニーズが高まっていた。こうしたなか「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が2013年12月に公布・施行された。同法では基本方針として「人命の保護を最大限に図る」、「国家や社会の重要な機能が致命的な障害を受けず、持続可能なものとなるようにする」、「ソフト面の施策とハード面の施策を組み合わせる」などを掲げ、水害や津波対策として河川・海岸の堤防整備を進めると同時に、ハザードマップの作成や活用、避難訓練の実施などの施策も合わせて進めることとした。翌2014年6月には「国土強靭化基本計画」を閣議決定し、具体的な実行内容を「国土強靭化アクションプラン」として示した。

当社はこうした防災・減災関連工事を受注する一方、この時期新たに発生した自然災害の復旧・復興工事にも引き続き取り組んだ。2015年は全国で火山の噴火や大型台風の上陸などが相次ぎ、9月には台風17号が関東、東北地方に記録的豪雨をもたらして、土砂崩壊や鬼怒川の堤防決壊などが発生した。当社は東武鉄道日光線の土砂被害の緊急復旧工事を担当し、線路内の土砂搬出や法面崩壊の応急工事に取り組み、わずか一週間で運転再開にこぎつけた。翌2016年4月の熊本地震では、熊本城の復旧に向けた緊急対策工事を実施した。「奇跡の一本石垣」と呼ばれた、角部分に残った石垣で辛うじて支えられていた飯田丸五階櫓の倒壊防止工事では、仮設用橋桁を転用した「鉄の腕」を櫓下部の空隙に差し込む難工事を成功させた。また、天守閣の復旧事業では、伝統工法を遵守しながら最新技術による耐震補強の設計・施工に着手した。

(参照:スペシャルコンテンツ>6つのストーリー>熊本地震)

なお、当社は2014年度に大規模災害時の支援・復旧活動を迅速かつ有効に行うため、災害時に物流拠点となる東京機械工場および大阪機械工場を再整備することとし、エネルギー供給が停止しても7日間の稼働が可能な事務所棟と整備棟およびBCP(事業継続計画)対応設備を新設しBCP機能を強化した(東京は2015年12月、大阪は2016年6月完了)。

一方、防災やオリンピックなどの建設需要の増大に伴い、建設産業の担い手不足という構造的な問題解消のため、外国人技能実習生受け入れ体制の整備も進められた。2015年1月、当社を含む大手ゼネコン5社を中心に一般財団法人国際建設技能振興機構(FITS)が設立され、建設分野等の技術・技能・知識を習得・実践しようとする各国人材の受け入れ、育成等が適正に実施されるよう、必要な支援等を行っている。