第2章
2015 2016
事業領域の進化と安定経営
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新領域を第4の柱に

「中期経営計画 2015(Evolution 2015)」の策定

2015(平成27)年4月、当社は新たな3カ年計画「中期経営計画 2015(Evolution 2015)」をスタートさせた。

前中期経営計画「中期経営計画 '12」では、基幹分野である国内建設事業と開発事業のさらなる成長と、海外への戦略的展開および新収益分野の育成による「収益基盤の多様化」をめざした。計画期間中、国内の建設需要は近年になく高い水準へと拡大し、当社の工事受注高・売上高は大きく伸長したものの、デフレ経済からインフレに向かう過程で建設物価高騰や技能労働者不足などにより、建築事業では利益確保が一時的に困難となる状況もあったが、グループ全体の業績はおおむね順調に推移した。また、開発事業では賃貸不動産の拡充、M&A等による海外建設事業の拡大、再生可能エネルギー事業を中心とした新収益分野の進展など、収益基盤の多様化に向けて一定の成果が得られた。こうした状況のもと、2013年度および2014年度の連結売上高は業界トップを記録し、前中期経営計画の数値目標をほぼ達成した。

この結果を受けて「Evolution 2015」では、それまでの路線を引き継ぎ、建築・土木・開発の3事業に加えて「新領域事業」を第4の柱として収益基盤の多様化を推進していくこととし、次の三つの方針を掲げた。

「Evolution 2015」による取り組み

・切迫する巨大災害への備えや環境・エネルギー対策などの多様なニーズに応え、社会の安全、安心、快適を実現する

・建築、土木、開発の3事業に加え、新たな収益源を創出する「新領域事業」を第4の柱に、収益基盤の多様化を推進する

・当社の技術力、財務力を活かした強固なグループ経営の実践により、グループ各社の収益力を向上させる

経営目標としては、収益力強化の指標として営業利益を重視し、計画期間中に安定的に450億円(連結)程度を計上することとした。また、建設事業売上高に占める海外比率を約25%に、国内建設事業以外の営業利益の割合を約45%に高めることで、市場の変化に柔軟に適応できる収益構造の確立をめざした。

さらに技術戦略として、以下の4項目を掲げた。

・社会的課題や顧客ニーズに応える「技術のイノベーション」の推進

・建設事業や新領域事業の成長に繋がる技術の研究開発、展開の推進

・技術提案力・営業力の強化によるエンジニアリング事業の拡大

・国内外の原子力関連プロジェクトの取り組み推進

エンジニアリング事業の拡大

当社は「中期経営計画 2015(Evolution 2015)」に掲げたエンジニアリング事業の拡大に対応するため、2016(平成28)年4月に技術本部エンジニアリング本部の施工関連部門を再編した。それまでエンジニアリング関連施設の施工関連業務については、生産施設・環境施設などの各担当部門がそれぞれ担当関係する各部門と調整して施工していた。これを生産施設施工技術部から改組した「エンジニアリング施工技術部」に関連業務を集約し、競争力と収益力を強化した。

エンジニアリング事業は、計画段階のコンサルティング業務から設計、調達、施工、試運転、調整の一連の活動において、高付加価値を提供する事業である。1980年代に始まった当社のエンジニアリング事業は、社会や発注者のニーズの変化に応じて注力分野を見直しながら、プロジェクトの川上から川下へと業務を拡大してきた。

エンジニアリング事業は「建築」「土木」の枠組みを超えた収益基盤の多様化につながる事業であり、時代の変化がますます激しくなるなかで当社が持続的発展を実現していくために、さらなる強化・拡大が求められるようになった。そのため当社では、エンジニアリング工事の受注から施工に至る一貫したプロジェクト遂行体制の構築、現地法人と協働してのエンジニアリング工事受注に向けた事業展開の強化、技術・ノウハウの活用による収益力向上に取り組んだ。

2010年代半ばに特に注力したのは土壌環境、情報、環境施設、生産施設の4分野で、土壌環境では、1990年代後半から各種汚染物質の浄化技術の研究開発を進め、2003年の土壌汚染対策法の施行および2010年の同法改正で規制が強化され、ニーズの高まった土壌汚染調査や対策に取り組んだ。また、処分場の新設や土壌の再生など土壌環境の保全にも力を入れた。

情報通信技術では、施設セキュリティの構築、電子カルテをはじめとする病院情報システムの構築、学校や商業施設向け最新AV機器の導入など幅広い分野で企画から引き渡しまでの支援を行った。

環境施設では、2012年に導入された再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が追い風となり、再生可能エネルギー発電施設への投資が急増し、当社は同業他社に先立ち積極的に発電施設をEPC(Engineering, Procurement and Construction : 設計、調達、施工)により受注した。

生産施設では、医薬品や電子関連、食品などの生産施設の基本計画から設計、調達、施工、稼働、保守までを担当し、機能、コスト、環境、安全など顧客のニーズに応え、生産ライン(プロセス)、生産支援設備(プロセスサポート)等の生産関連設備も含めた高付加価値のサービスを提供した。

従来エンジニアリング事業では、プロジェクトを総合的に主導する機会は多くはなかったが、さらに高付加価値を作り出すため生産関連設備や発電設備を含む専門的な知見が必要な工事については、エンジニアリング本部がプロジェクトマネジャーとして主導する、新しいプロジェクト遂行体制を構築した。そして、その第1号案件として、大月バイオマス発電施設建設工事を進めるなど、さらなるノウハウを蓄積しながらエンジニアリング事業の進化・拡大を図った。

コーポレートガバナンス体制の拡充

広く社会から信頼される企業となるには、確固たる業務執行体制を構築するとともに、経営の透明性、健全性を高めることが重要である。当社は2015(平成27)年6月から適用された「コーポレートガバナンス・コード」の理念を踏まえ、経営の効率化を推進するとともに透明で迅速な意思決定を図り、持続的な成長と企業価値を向上させることで、ステークホルダーから一層信頼される企業をめざしている。

取締役および執行役員の報酬については、2015年6月に業績連動型株式報酬を導入した。優秀な人材を確保するとともに、業績の向上・企業価値の増大に対する各取締役等へのインセンティブ効果が発揮されるよう、業績への貢献実績に応じて基本報酬および株式報酬の額等を決定することを基本方針とした。監査役報酬についても、コーポレートガバナンスを有効に機能させるため、優秀な人材確保に必要な水準の額とすることを基本方針とした。

同年6月、当社は社外取締役を1名増員し、社外取締役2名と社外監査役3名体制とした。社外役員は、それぞれ会社から独立した立場で経営効率向上のための助言や経営全般の監督、客観的な視点からの経営チェックを通して、公正かつ迅速・果断な意思決定と経営の透明性確保に大きな役割を果たしている。

創業125年・技術研究所開所50周年を迎えて

2016(平成28)年1月、当社は創業125年を迎えた。これを記念して、10月19日に大阪市の生國魂神社において、当社およびグループ会社の社業繁栄、社員・家族の健康、工事の安全と工事にかかわる協力会社の繁栄を祈願するための神前祭が執り行われた。

また、技術研究所が開所50周年にあたることから、その記念行事として「大林組テクノフェア2016 しなやかな未来を創る」を品川事務所(10月6~7日)、技術研究所(10月12~15日)、グランフロント大阪(11月1~2日)の3会場で開催した。会場では「大林組がめざす未来社会像」と「その実現を支える技術」を四つのコンセプト(①レジリエントシティ/安全・安心な社会、②アクティブライフデザイン/快適・健康で活力ある社会、③ロボティクスコンストラクション/人と科学の協調社会、④サステナブルエネルギー/持続可能な環境と社会)に分けてパネル・映像・モックアップなどで紹介し、合計8日間の開催期間中に約5,800人が来場した。

2015年には、大林組の創業者大林芳五郎の没後100年を記念して、100回忌記念行事が実施された。当社はその一環として『大林芳五郎傳』(1940年6月発行)、『大林組70年略史』(1961年9月発行)および『大林組八十年史』(1972年10月発行)を電子化しウェブサイトに公開した。

創業125年を迎えた大林組の描く「しなやかな未来」

2016(平成28)年は、大林組創業125年、大林組技術研究所開所 50 周年の節目の年であった。2050 年を想像した場合、どのような社会になり、どのような技術が実現しているのであろうか。社会を取り巻く環境は常に変化し続けるが、技術的課題や、将来起こると予見されている自然災害など、予想される社会的な課題に対して、技術的な側面から解決の方向性を示すこともできるだろう。

大林組創業 125 年・技術研究所創設 50 周年記念行事「大林組テクノフェア 2016 しなやかな未来を創る」では、あらゆる環境変化に柔軟に適応することで、高水準な豊かさを維持できる「しなやかな未来」が2050 年に実現することを目標に定め、そのために貢献しうる技術の一部を紹介した。時とともに変わりゆく社会環境においても、技術革新により変わらぬ豊かさを享受することを期し、「しなやかな未来」を提案したのである。