第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
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多様化する社会課題への対応

豪雨災害の続発

近年、たび重なる大地震や相次ぐ大型台風の上陸など、自然災害の脅威が増大するなか、人々の生命と暮らしを守る防災・減災、インフラの老朽化対策、国土強靭化への取り組みがますます重要になっている。当社はこれまで、道路・鉄道の橋脚の耐震化や補強、ダムの建設、河川の改修などインフラの整備に広く取り組んできた。また、実際に自然災害が発生した場合には、迅速に復旧・復興支援活動にあたるなど、当社が担うべき社会的責任と使命を果たし、人々の生活の安全・安心の実現に貢献している。

特に2010年代後半には、日本各地で毎年のように大型台風や局地的な豪雨による自然災害が相次いで起こった。2017(平成29)年の「平成29年7月九州北部豪雨」では、西日本から東日本にかけて局地的に猛烈な雨が降り、福岡県と大分県を中心に大規模な土砂災害が発生、多数の家屋が全半壊や床上浸水の被害を受けた。

翌2018年の「平成30年7月豪雨」では、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道の多くの観測地点で観測史上1位の降水量を記録し、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が西日本を中心とした各地で発生した。2019(令和元)年8月には再び九州北部の長崎県から佐賀県、福岡県の広い範囲で、線状降水帯による集中豪雨が長時間にわたって続いた。さらに同年9月には、過去最強クラスの勢力を持つ台風15号が関東に上陸。千葉県を中心に大きな被害を出し、続けて10月にも台風19号が関東や甲信、東北地方などに記録的な大雨をもたらした。

当社は、これらの豪雨災害により寸断された高速道路や鉄道の早期復旧に全社を挙げて取り組んだ。

大阪・関西万博への参画と夢洲開発への貢献

当社は、大阪府・大阪市などが誘致をめざす「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)と、万博会場となる夢洲(ゆめしま)地区周辺で構想されている統合型リゾート(IR:Integrated Resort)の実現に向けて、積極的な支援、参画を通じて広く関西経済の発展に寄与することを目的に、2018(平成30)年5月、大阪本店に「夢洲開発(万博・IR)プロジェクト・チーム」を設置した。

1970年以来二度目となる大阪万博の誘致に向けては、大阪府・市などの行政、経済界などさまざまな団体、個人が参加する誘致委員会が立ち上げられ、関西のみならずオールジャパン体制で、プロモーション活動を行った。当社もオフィシャルパートナーとして、開催地決定に向けた活動を支援した。

その結果、2018年11月にフランスのパリで開かれた博覧会国際事務局総会において、2025年国際博覧会の開催地が大阪・関西に決定した。当社は会場が大阪の夢洲に決定したことを受けて、2018年12月、「夢洲開発(万博・IR)プロジェクト・チーム」を発展的に改組し、新たに「大阪万博・IR室」を設置。官民一体となって万博開催に向けた取り組みが活性化されていくとともに、2018年7月に成立したIR実施法(特定複合観光施設区域整備法)に基づき、IR誘致活動も加速度的に進むものと予測された。「大阪万博・IR室」では、当社が培ってきた技術・ノウハウを最大限に活用できる体制を構築することで、高まる機運を迅速にとらえ、夢洲の開発ひいては関西経済の発展に貢献できるよう積極的に取り組んでいる。

新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延

2019(令和元)年12月、中国湖北省武漢市で、初の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が確認された。翌2020年になるとアジア・オセアニア諸国、さらに欧米各国へと、感染者は一気に世界中に広がった。日本でも当初、横浜港に入港した大型クルーズ船での集団感染が注目されたが、2月22日に国内での感染者数が累計で100人を突破し、感染は全国へと広がり、3月には、東京2020オリンピック・パラリンピックの延期が決定した。

当社は感染の拡大を受け、2月に社長を委員長とする「新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置、情報収集や対応策の立案、全社への指示にあたった。4月には政府から緊急事態宣言が発令され、当社では協力会社を含めた大林グループ関係者の身体および生命の安全を守ることを最優先に対応を行った。工事現場では「3密(密接、密集、密閉)」の徹底回避など当社社員および作業員が安心して工事に臨める対策を講じて施工を継続し、一部の工事については発注者と合意のうえ施工を中断した。常設部門では、在宅勤務のためのICT環境等を整備したうえで、テレワークを実施した。

また、新型コロナウイルス感染症の発生、感染拡大、感染予防を踏まえ、政府の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」と日本経済団体連合会「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」に準拠し、5月25日付で「新型コロナウイルス感染拡大予防のための基本行動プログラム」を策定した。また、国土交通省、厚生労働省、日本建設業連合会の建設現場における対策ガイドラインに基づき、6月1日付で「工事現場における新型コロナウイルス感染予防行動ガイドライン」を策定した。

西日本豪雨での復旧への貢献

2018(平成30)年の「平成30年7月豪雨」では、広島県、岡山県、愛媛県を中心に死者が230人を超える甚大な被害が発生。西日本の大動脈である山陽自動車道が土石流の流入や大規模な盛土崩壊によって通行止めとなり、物流がストップし、被災地への支援物資輸送も困難な状況となった。被害が最も大きかった広島東IC-河内IC間では、本線に流入した土砂や樹木約3万m3を一刻も早く撤去するため、当社は広島支店に加えて東京や大阪などから応援要員を派遣し、24時間体制で全社を挙げて早期復旧に取り組んだ。

また、広島市と呉市を結ぶ広島呉道路も通行止めとなり、並走する国道に大渋滞が発生し、撤去土の搬出に大きく影響することが予測されたため、瀬戸内海を利用して船で運搬する方法を採用。1回で1,000m3の撤去土の運搬が可能となり、早期復旧に貢献した。

山陽自動車道の応急復旧工事
山陽自動車道の応急復旧工事