第2章
2015 2016
事業領域の進化と安定経営
4

事業領域の拡充〔4〕新領域事業

テクノ事業創成本部の取り組み

当社は新領域事業の拡充を加速させるため、2014(平成26)年10月に技術本部ビジネス・イノベーション室とPFI事業部を統合・再編し「テクノ事業創成本部」を新設した。ビジネス・イノベーション室から受け継いだ再生可能エネルギー分野では、太陽光発電事業で2015年度に5カ所(12.2MW、累計83.2MW)、2016年度に2カ所(3.3MW、累計86.5MW)、2017年4月には釧路町トリトウシ原野、同年5月に日向日知屋の完成で120 MW超の発電施設が稼働した。このほか、後述のように風力や木質バイオマス、地熱などの自然エネルギー発電への取り組みや農業ビジネスへの本格的展開を進めた。また水素関連ビジネスなど、当社の保有技術を活かした新領域分野にも進出した。さらに、それまで国内でトップクラスの獲得実績を持つPFI事業で培った事業スキーム構築や資金調達等のノウハウを活用し、PPPプロジェクトへの取り組みを強化した。

こうしてテクノ事業創成本部が中心となって、再生可能エネルギー事業や農業などの新領域事業を推進し、建築・土木・不動産開発に続く第4の収益の柱に成長させることで、収益基盤の多様化・安定化を図った。

PPP事業の強化

PPP事業分野では、川上段階からの情報収集に一層注力し、発注者のニーズに合致した事業提案に基づき、各案件に取り組んだ。施設の維持管理・運営にあたっては、グループ会社も含めてPPP事業への取り組みを強化することによりグループ全体の収益拡大をめざした。

この時期の主な案件として、2015(平成27)年3月に受注した「神奈川県警察自動車運転免許試験場整備等事業」がある。既存施設の技能試験コースなどの敷地に新がんセンター施設を移転・整備(当社を代表企業とする特別目的会社による「神奈川県立がんセンター特定事業」)した後、旧がんセンターの敷地などに自動車運転免許試験場を新たに整備するもので、横浜支店、設計本部、テクノ事業創成本部PPP事業部が一体となって総合力を発揮し、12カ月の工期短縮を可能とした施設整備計画、周辺道路の渋滞に配慮した配置計画に加え、付帯事業として託児施設などを提案したことが、高評価を受けた。

また同2015年3月には、「神戸市の市営桜の宮住宅建替事業(1期)」を落札。桜の宮住宅が立地する団地全体の一部を解体し、新しく450戸の建て替え住宅と付帯施設などを整備し、入居者の仮移転および本移転などに関する業務も行ったほか、余剰地を購入して民間住宅なども建設した。同年10月には、「福岡市美術館リニューアル事業」を落札し、同美術館を設計した前川國男氏の設計思想を継承した大規模改修を行い、リニューアル後は地元のメディアとホテル企業の強みを活かした美術館のブランディング・集客プロモーションなど、運営・維持管理業務を行っている。

翌2016年3月には、「奈良県営プール跡地活用プロジェクト ホテルを核とした賑わいと交流の拠点整備事業」を落札した。県営プール跡地および奈良警察署跡地で、観光、コンベンション、駐車場・バスターミナル、料飲・物販などの集客・賑わい施設などを、官民で連携して一体的に整備し、奈良県の観光振興の核となる事業として維持管理・運営業務を担っている。同年7月には、東大阪市の新市民会館整備運営事業を落札した。文化会館と市民会館が閉鎖されたため、市立中央病院跡地(市有地)に、文化芸術の振興の拠点となる多目的ホールの役割を担う新市民会館を整備運営する事業であった。

初の風力発電所を着工

当社では、2012(平成24)年に開始した太陽光発電事業を皮切りに、風力やバイオマスなどの再生可能エネルギーによる発電事業を推進している。

このうち風力発電事業では、2016年7月、秋田県三種町で当社初の陸上風力発電事業として「三種浜田風力発電所」の建設が開始された。同発電所は、直径約92mの風車3基により計5.97MW、三種町の7割に当たる5,000世帯の年間消費電力量に相当する発電容量を有する。高さ約125mの風車建設では、大型クレーンを使わずに最小限のエリアで組み立てる「ウインドリフト」工法を採用するなど、周辺地域の安全や環境保全に配慮しながら工事を進めた。

三種浜田風力発電所は2017年7月に完成し、大林グループの大林ウインドパワー三種の運営により、同年11月から運転を開始した。

三種浜田風力発電所
三種浜田風力発電所
三種浜田風力発電所

初のバイオマス発電所を着工

2016(平成28)年3月、大林グループとして最初のバイオマス発電事業「大月バイオマス発電所」の建設が山梨県大月市で開始された。

約2万m2の広大な敷地に建つ大月バイオマス発電所は、再生可能エネルギー事業会社である大林クリーンエナジーが設立した大月バイオマス発電が運営し、一般家庭約3万世帯の年間消費電力量に相当する14.5MWの発電容量を有する。これは国産材を使った木質バイオマス発電事業としては国内最大級の規模で、燃料には山梨県内を中心に関東圏で発生する剪定枝を主として、未利用の間伐材などを細かくした木質チップを年間約15万t利用する。2018年12月に商業運転を開始したが、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を活用して木質バイオマス発電事業に参入するのは、建設業界では初めてであった。

農業分野での新たな取り組み

2016(平成28)年3月、オーク香取ファームが千葉県香取市で運営する太陽光型植物工場で栽培したミニトマトを初出荷し、農業ビジネスを本格的にスタートさせた。

当社のグループ会社として2014年11月に設立したオーク香取ファームは、ミニトマトを栽培する農業生産法人である。当社は、第4の事業の柱として展開する「新領域事業」の一つとして、以前から農業ビジネスへの参入を検討していたが、第一弾がオーク香取ファームのミニトマト栽培事業だった。

オーク香取ファームは、農業ビジネスのノウハウを持つ農事組合法人和郷園と提携し、栽培指導を受けるとともに同社の販売ルートを活用して事業を進めた。当初は約2,000m2の太陽光型植物工場でミニトマトを栽培したが、翌年、施設を約1haに拡大した。また、植物工場の拡大に合わせ、ICTを活用して工場内外の環境データを収集・分析し、生育速度や収穫時期の予測・管理を実施したほか、位置情報の管理システムなどを利用し、人の動きを「見える化」して作業効率を検証するなど、当社が建設事業で培った環境制御や省力化に関する技術・ノウハウを蓄積した。

「COMPACT AGRICULTURE」 構想―― Society 5.0 時代の農業

超高齢・人口減少の段階を迎えた日本は、どうすれば農業の担い手を確保し、生産を維持していけるだろうか。その答えの一つが、建設業界同様、ICT、AI、ロボティクスを活用してスマート化を推進し、新たな社会「Society 5.0」をめざすことだろう。

Society 5.0は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指す。第5期科学技術基本計画において日本政府がめざすべき未来社会の姿として提唱したものだ。ロボットスーツを着用し、ビッグデータを収集して、ロスなく、そこに住む人が必要なものを必要な分だけ生産する地産地消の最適な農業を、再生可能エネルギーによって営む。大林組プロジェクトチームが描いたコンパクトで完全な循環型社会が「COMPACT AGRICULTURE」 構想であり、Society 5.0のめざす姿の一つといえるだろう。

生産施設にはモジュールごとにロボットアームを2台設置。すべての農作業をロボットアームが行う。居住スペースから生産施設を間近に見ることができ、コミュニケーションスペースには、実りや収穫を実感できる植え込みや家庭菜園体験コーナー、工場での食糧生産の様子を確認できるスクリーンなどが配置される。

生産物は、自動搬送システムで必要なときに必要なだけ各住戸に届けられるため、フードロスの抑制にもつながっていく。

シティー型生産施設の外観
シティー型生産施設の外観

小面積での食糧生産を可能にしたことで都市部への建設も可能になった。

生産施設は建物内部に集約し、人々は自然採光が可能な外壁部に居住する。