第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
5

人事と働き方改革

公正な人事の徹底とダイバーシティの推進

当社は「企業を支えるのは社員一人ひとりの力である」という考え方に基づき、多様な人材が活躍できる職場づくりを推進してきた。採用や昇進などのあらゆる局面において、人種・性別・国籍・宗教など能力や職務遂行と関係ない理由による不当な差別的取り扱いを禁止し、社員一人ひとりの人間性を尊重し、個々の能力を最大限に発揮できる環境を整えている。

障がい者の雇用については、特例子会社オーク・フレンドリーサービス株式会社を2001(平成13)年に設立し、全11カ所の事務所において障がい者の雇用を進めてきた。同社の社員は、専門的な知識を持つジョブコーチの指導のもとで、各人の特性に配慮した業務を担当し、社会と接しながら自立をめざしている。また、設立以来、毎年特別支援学校の生徒を職場実習生として受け入れ、社会参加に向けた教育を支援している。

女性の活躍推進については、2003年に総合職・専門職・一般職の職掌区分を撤廃し、能力本位での採用と配属を行うことを徹底してきた。2016年4月施行の女性活躍推進法に基づく行動計画においては、「第一次行動計画」(2016年4月~2021年3月)に続き、「第二次行動計画」(2021年4月~2025年3月)を策定しているが、技術系女性社員の比率は2016年度の8.8%から2020年度には9.8%にまで上昇し、2024年度までに12%程度とする目標に着実に近づいている。なお、こうした取り組みの結果、当社は2021年5月、厚生労働大臣認定「えるぼし」を取得した。

人権尊重

当社は「大林組基本理念」のもと、人権の尊重を企業の社会的責任における重要な課題の一つとしてとらえ、社員一人ひとりの人権意識の高揚に、継続的に取り組んでいる。2011(平成23)年に制定した「大林組人権方針」に則り、人権啓発を推進するため、「人権週間」に合わせて実施している「人権啓発標語」の募集事業等、さまざまな取り組みを行ってきた。

人事担当役員を委員長とする人権啓発推進委員会を、毎年定期的に開催し、各グループ会社でも同委員会が策定した方針に基づき、事業内容や地域性に応じた人権啓発活動に取り組んできた。また、人権デューデリジェンスに着手し、顕著な人権課題を特定するなど人権に関するリスクの抽出・把握を行った。

また全社員に対し、いかなる差別も行わず、個々の多様性を尊重する正しい人権感覚・人権意識を持つことの重要性を認識できるよう、ハラスメント、ダイバーシティ&インクルージョン、SOGI(Sexual Orientation & Gender Identity:性的指向と性自認)、人種差別など、幅広い人権問題をテーマとした研修を実施している。2017年1月には、改正男女雇用機会均等法および改正育児・介護休業法が施行され、従来のセクハラ対策に加え、いわゆるマタニティ・ハラスメントに関する対策も義務づけられたため、同月に「マタニティ・ハラスメントの防止等に関する規程」および関連ガイドラインを制定し、従業員に対するハラスメント防止教育等を実施。2019年4月には、執行役員を対象にした企業倫理職場内研修においてハラスメント防止やリスク管理に関する研修も行った。2020年6月には、「パワーハラスメント防止等に関する規程」を制定したほか、関連するハラスメントガイドラインを統合した「ハラスメント防止ガイドライン」を作成した。

人権に関する相談窓口も拡充した。企業倫理通報制度に加えて、2016年4月に障がいに関する専用窓口を設置し、さらに2019年4月にはハラスメント対策室を設け、6月に「大林組グループハラスメント相談・通報窓口」を設置した。ハラスメント対策室への相談は、被害者本人のみならず第三者や匿名の相談も受け付け、相談者が不利益な取り扱いを受けないよう保護を徹底した。また、相談窓口を社内外に周知するポスターの掲示を行い、相談内容を分析した結果を社内で開示するなど、ハラスメントの根絶をめざしている。

働き方改革と職場環境の充実

当社はこれまでも、従業員の心身の健康維持・向上と建設業の担い手確保を目的として総労働時間の縮減に取り組んできたが、長時間労働の是正は業務効率化や生産性向上と両輪の課題であるとの認識から、2017(平成29)年9月に社長直轄の「働き方改革推進プロジェクト・チーム」を設置して検討を行い、2018年に「働き方改革アクションプラン」を策定した。そして同アクションプランに基づく主な施策として、RPA(Robotic Process Automation 2018年導入)などの最先端のICTツールを活用した業務効率化、「休日休暇取得予定表」の活用による計画的な年休や振替休日の取得などを推進した。

適正工期受注・土曜現場閉所に向けた取り組みを始めた2018年度の目標として、建築では4週5閉所、土木では4週8閉所を設定。現場全体では4週6閉所以上が40%を超えた。そして、その後の詳細な工程計画の策定や意識改革、作業効率化の取り組みの結果、2020(令和2)年度には71%となっている。柔軟な働き方を促進するための施策も充実させた。その一つが2019年10月より全職場を対象に正式導入したテレワーク制度で、多様な働き方を見据えてすでに整備していたWeb会議システムや情報共有ツールの拡充、ITサポートの整備なども行った。テレワークは徐々に拡大していたが、2020年初頭の新型コロナウイルス蔓延に伴い、2020年4月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言が発令され、常設部門では宣言期間中は70%、同年5月の宣言解除後は50%を目標にテレワークを実施している。

また、仕事と家庭の両立を図りながら、安心して働くことができる職場環境の整備を目的として、次世代育成支援対策推進法に基づいた「第六次行動計画」(2017年4月~2021年3月)では、目標として掲げた男性従業員の育児休職・育児目的休暇の取得率15%以上、女性従業員の計画期間内の育児休職取得率90%以上を達成。「第七次行動計画」(2021年4月~2025年3月)においては、目標として2024年度までに男性従業員の育児休職・育児目的休暇年間取得率100%達成を掲げた。

育児支援制度については、この計画に基づき、法令に基づく育児休職や短時間勤務などに加え、当社独自の支援制度の充実を図った。例えば2017年10月には、保育園に入園できない場合などの育児休職期間を2歳から3歳に延長したほか、2018年4月には2歳未満の子どもの育児について連続7日以上の休暇が取得できるよう、休暇制度を拡充した。

また、介護支援のための制度充実も行い、2017年1月に介護のための短時間勤務制度や時差出勤制度を導入し、社員の介護への理解を深めるための動画を作成・公開するとともに、定期的にセミナーを実施している。

なお、こうした取り組みが評価され、2017年2月に経済産業省と日本健康協会が認定する「健康経営優良法人2017」の大規模法人部門(ホワイト500)に認定された。

建設DXと働き方改革

かつて建設現場は、「3K(きつい、汚い、危険)」の代表とされ、しかも多くの人手が必要とされる場所だった。平成初期にバブル経済が崩壊すると、その後の「失われた20年」の時代には労働力が過剰となったため、他業種と比べて生産性向上の取り組みは遅れた。しかし、ICT技術が飛躍的に向上したこの時代、他業種ではICTの活用により、生産性の向上は大きく進んでいた。

人口減少局面に入り、あらゆる業界で生産性向上が大きな課題となったいま、社会インフラを支える建設業界の革新は、国を挙げて取り組むべき課題である。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、この建設業界の課題のいくつかを解決し、建設業界での働き方を大きく変える可能性がある。人手に頼ってきた建設現場でも、機械と設計データなど「モノ」と「モノ」がIoTによってつながり、その結果、ICT 建機による3次元データを活用した施工など、自動化・ロボット化による生産性向上が可能となる。さらに、あらゆる建設生産プロセスに3次元データを導入することで、建設生産システム全体を見通した施工計画、管理などを実施することもできるようになれば、省人化が一層進むであろう。

当社は、国の「i-Construction」や働き方改革に先駆け、現場のワークスタイルの変革に向けて2012(平成24)年度に建設現場で施工管理を行う技術職全員にタブレット端末を配付。施工管理に必要な技術資料、安全資料(安全ダイジェストなど)をタブレット端末に標準搭載し、現場事務所に戻ることなく、現場にいながら資料、メール等の情報を確認することが可能となった。また、野帳の電子化、品質検査システム、作業間連絡調整システムなど、アプリの導入、整備を進め、現場にいながらできる業務を拡大していった。

また、2015年度からは夏場の熱中症リスクなどに対し、シャツタイプのバイタルセンサ(心拍センサ)で作業者の心拍数を計測し、作業環境をクラウド上で共有することでリスクのある作業者に注意喚起する「Envital(エンバイタル)」を開発、2017年度から本格運用した。その後も改良を続け2019年度にはリストバンド型に変更するなど、労働環境の改善も進めている。

いま、工事現場では、かつての3K作業の自動化が進んでいる。大林組は、DXを、生産性のみならず、安全性の向上にも寄与する手段と位置づけ、各現場でDXによる働き方改革に取り組んでいる。