第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
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グループ経営力の強化とグローバル化の加速

グループ経営基盤の構築

2017(平成29)年5月、当社は連結子会社である大林道路について、同社株式の公開買付を実施し、全株式を取得して完全子会社化した。

大林道路は、グループ会社として長年にわたり技術・人材交流や建築外構工事、土木工事取引を通じて連携強化に取り組んできた。しかしグループを取り巻く事業環境は、オリンピック関連施設、首都圏の大型再開発や国土強靭化に向けたインフラ維持更新など、当面堅調に推移すると考えられるものの、長期的には人口減少を背景に建設市場の拡大は見込みにくい状況にあった。特に道路建設業界では、民間設備投資が緩やかな増加基調にある反面、公共投資は減少傾向にあり、先行き不透明な原材料価格の動向や技術者・技能労働者不足の常態化なども懸念されていた。グループ各社の収益力向上のためには、さらなるグループ経営の推進とともに、IoTやAIなどの技術を取り込んだ生産性および競争力の向上、高度な技術を持つ専門的人材の確保が急務となっていた。

こうした状況のもと、大林道路を完全子会社化することで、従来以上にノウハウの共有、技術開発促進と生産力向上、営業情報の集約化による競争力向上、人的・財務的経営リソースの効果的な配分等が可能になり、グループ経営基盤の一層の強化につながると判断したのである。

大林道路では、完全子会社化以前の2017年2月に道路舗装に使うアスファルト合材の販売価格決定に関する独占禁止法違反について公正取引委員会の立ち入り調査を受け、2019(令和元)年7月には排除措置命令および課徴金納付命令を受けた。当社は、これを重く受け止めて再発防止策を講じるとともに、早期の信頼回復に向け、現行の「独占禁止法遵守プログラム」のもと、顧問弁護士らによる研修や個別面談およびアスファルト合材の価格決定プロセスにおけるウォークスルー監査などを実施し、大林グループとしてコンプライアンスの徹底を図った。

グループ経営の推進と営業力の強化

2019(平成31)年1月には、グループ経営のさらなる推進・強化を図るため、経営企画室を「グループ経営戦略室」に改組した。「目指す将来像」の実現に向けた取り組みをより確実なものとするには、当社単体のみならずグループ各社を含めた総合的・戦略的なマネジメントが必要であり、企業の業績向上とその存続・発展を可能とするESG経営を推進するためにも、グループ経営の羅針盤となるべき部門が求められていた。「グループ経営戦略室」には、経営企画部、事業統括部、ESG・SDGs推進部、経営基盤イノベーション推進部の4部が設置された。同室は、グループ全体でグローバル化を意識した経営を推進するため、2020(令和2)年4月に「グローバル経営戦略室」へと改称し、同室配下の経営企画部を企画部に、事業統括部を管理部へと改称した。なお、2019年1月にCSR推進施策がESG・SDGs推進部に移管にされたことに伴い、旧CSR室を「コーポレート・コミュニケーション室」に名称変更し、あわせて旧安全企画部に環境業務を移管して「安全環境企画部」とした。

2019年4月には、建築・土木の事業領域を超えて機能する戦略的組織への改編を進めた。全店連携の民間顧客グループに対する営業戦略を立案のうえ、建築・土木両本部や各店営業部門との調整・支援を行い、全体最適に資する取り組みを推進する部門として建築本部に「営業企画室」を新設。医療コンサルタント機能を担う営業支援部門である「医療ソリューション部」を、技術本部から建築本部に移管した。また調達力および生産性向上の機能強化を図ることを主眼として「調達マネジメント部」を新設するとともに、業務基盤としてのBIM/CIMモデルをすべてのプロジェクトに供給する体制を整備するため、PDセンターを「iPDセンター」に改編した。

さらに2020年4月、国内建設事業に関する全社的な営業体制の強化のため、全店営業組織として「営業総本部」を新設した。川上段階の営業情報の収集から個別プロジェクトの営業活動まで、すべての営業フローに関与することにより、顧客満足度の向上を図るとともに、営業情報の質および量の向上、全社の情報・資源を活用した効率的な営業戦略の立案・実施を図ること、さらにはグループ会社との営業連携、グローバル顧客等に対する国内外関係部門との連携による大林グループ全体の営業力強化を目的としている。営業総本部には、営業企画室、クライアントリレーション部、プロジェクト推進部、医療ソリューション部の1室3部を設置し、建築本部から営業企画室および医療ソリューション部の業務を移管した。また同時に、首都圏のシェア向上をめざし、関東支店を新設した。

また、近年重要性が高まっている設備工事とリニューアル工事におけるコスト競争力、施工・品質管理、技術開発等の強化を図るため、建築本部に「設備・リニューアル企画室」を新設し、配下に「設備・リニューアル部」「設備技術管理部」の2部を設置した。

エンジニアリング部門については、技術本部の配下組織として、エンジニアリング関連施設のプロジェクトについて、各店への営業および施工の支援に加えて、自らが主体的に営業情報の収集、顧客への技術提案などを行い、工事受注の拡大をめざしていた。2017年4月、エンジニアリング事業のさらなる拡大を図るため、既存分野(生産施設、環境施設および情報関連施設など)、新規分野への営業推進、関連業務(計画、設計、調達および施工など)の一貫推進体制の強化により、競争力および収益力を向上させることを目的に、エンジニアリング本部に「プロジェクト推進第一部」「プロジェクト推進第二部」を新設し、プロジェクト推進体制を強化した。2019年4月には、次世代医療や環境分野などにおいて、顧客や社会の課題そのものを解決するなど、M&Aやアライアンスを機動的に実行に移し、新たな付加価値を創造できる事業として強化するため、エンジニアリング本部を技術本部から独立した組織に改編した。

研究開発機能の強化

大林グループの事業を支える技術の研究開発機能を強化することを主眼として、技術本部の組織改正も実施した。

2019(平成31)年4月、顧客等との技術交流、事業部門への技術支援など、技術に関するワンストップ部門として、技術研究所「技術ソリューション部」を技術本部直下組織に改編。また宇宙開発、モビリティ変革等の未来創造テーマ推進の中核的役割を担うとともに、次世代技術のシーズ探索を行う部門として「未来技術創造部」を新設した。

2020(令和2)年4月の組織改正では、「個別の技術開発方針の策定」「知的財産戦略の立案、推進、管理」「研究開発テーマの選定、進捗管理」をワンストップで行う体制の整備を目的として、技術本部に「技術企画室」を新設し、その下に「技術企画部」「知的財産管理部」を新設するとともに、既存の「研究開発管理部」を配下組織とした。なお、原子力本部については、旺盛な需要が見込まれる原子力関連工事を受注するため、原子力関連技術に特化した専門組織として機能強化を図り、技術本部から独立させた。

新時代の生産性向上施策とデジタル変革

2019(平成31)年4月、IoT、AIなどを活用した環境に優しい施工機械の開発と早期の現場適用、さらに新たなビジネスモデルによる収益源の拡大を目的に、旧機械部を「ロボティクス生産本部」に改編。先進的技術の開発機能と営業機能を併せ持つ総合的な事業を展開し、積極的に他業種との技術連携を図りながらイノベーションの実現、大林グループの業容拡大に貢献することをめざした。まずは喫緊の課題であるロボティクスを活用した自律施工技術の確立に向け、クレーンなどの建設機械の自動化・省力化・自律化を推進するとともに、洋上風力発電施設の施工効率化のための専用設備の開発にも取り組んだ。また、東京機械工場を「東日本ロボティクスセンター」に、大阪機械工場を「西日本ロボティクスセンター」に改称した。

2020年(令和2)4月には、情報のデジタル化とその活用を推進するためICT関連部門を再編し、グローバルICT推進室(順次機能移転し、6月に完全廃止)と建築本部に所属していたiPDセンターを統合した「デジタル推進室」を新設した。

グローバルICT推進室(2010年設置)は、ICTを重要な経営資源ととらえて国内外の事業活動におけるICTの活用を推進してきたが、6月に廃止しその機能をデジタル推進室に移管した。iPD センターはデジタル推進室内の組織となり、近い将来のDX(デジタルトランスフォーメーション)を先取りし、経営情報とBIM生産情報の統合の源となるBIMモデルの供給を行う。これにより当社のデジタル戦略部門は、企画立案を行うグローバル経営戦略室とこれを推進するデジタル推進室で構成されることになった。

海外拠点の再編とエリア戦略

2019(平成31)年4月、海外支店を廃止、1979(昭和54)年に北米土木直轄事業の拠点として設立されたサンフランシスコ事務所と2010年に北米のグループ会社の事業推進に向けて設立された北米統括事務所を統合し、北米事業全体の戦略立案や事業推進・展開を担う組織として「北米支店」を設置した。また同時にアジア地域については、シンガポールに「アジア支店」を設置した。

(参照:スペシャルコンテンツ>グローバルプレゼンス>海外事業所のご紹介 北米)

(参照:スペシャルコンテンツ>グローバルプレゼンス>海外事業所のご紹介 アジア・その他)

従来は海外支店がアジアと北米を広く管轄していたが、以後は両支店を中心として海外グループ会社の支援をより身近で密接に行い、意思決定の迅速化や各地域の事情に合わせたローカル化を推進。各地域のグループ会社による定期的な事業報告会や連絡会を実施するなど、拠点間のネットワークの強化を進めた。また、国内支店と各本部が縦軸・横軸で連携しているのと同様に、北米・アジア両支店が、グループ会社を含めた管轄地域全体の成長のための施策を策定・実施し、損益責任を負うこととなった。また、2020(令和2)年4月には、アジア支店に建築設計部を新設し、アジア地域海外グループ会社の設計部門の統括および設計本部を含めた相互連携を図り、同地域における設計施工ビジネスの拡大、設計力の向上と品質の確保をめざしている。

未来技術の開発

2019(平成31)年4月、当社は「未来技術創造部」を新設し、保有技術やノウハウを活かして、ゼネコンの枠にとらわれない未来技術の開発や事業への展開を促進することとした。未来技術創造部がめざすのは、中長期にわたる社会の課題に対して産・官・学の垣根を越えて連携し、技術革新を起こし、時代が必要とする新たな社会インフラを構築することだ。

未来に必要なソリューションを生み出す分野は、「宇宙」「バイオ」「エネルギー」「モビリティ」、そして、本業の「建設」である。

建設分野では、未来型の建設技術と材料で生産性を向上させるため、将来の生活や産業構造、建設業界を取り巻く環境や技術の変化を予測し、ICT技術や3Dプリンタなども用いて、未来の建物やインフラの材料、施工技術、新たな生産プロセスを開発している。

モビリティ分野では、「空飛ぶクルマ」を開発する株式会社SkyDriveと共同して、建設現場での重量物運搬に「カーゴドローン」を活用する実証を2019年 から開始した。作業員の負担軽減や労働力不足への対応、危険回避といった課題を解決するために、高い安全性を有するカーゴドローンを活用した資材物流をめざしている。

宇宙分野では、2019年3月に成功した国内初の洋上発射実験に続く2例目として、11月にも千葉工業大学、ASTROCEAN株式会社、大林組未来技術創造部の3者共同でロケットによる洋上発射実験を実施。この実験では、洋上浮体係留用に開発した「スカートサクション」をロケット発射用浮体の係留に展開実証した。また、洋上ロケット発射時の制御を目的とした発射台の振動を計測した。

ちなみに、内閣府などが企画し、当社や他の民間企業が協賛・協力する宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2018」の最優秀賞および大林組賞は、先の洋上ロケット発射実験のチームだった。世界にある海洋掘削リグ(地下に眠る石油や天然ガスを採掘するために海洋上に設置する構造物)の40%が使用されていない状態にあるため、これを小型ロケットの打ち上げ場として利用することを提案。ニーズの高まる小型ロケットの発射場を提供できると評価された。

一方、宇宙エレベーター建設構想に必要なケーブル向け材料の2回目の宇宙環境曝露実験を2020(令和2)年に実施した。

当社は宇宙の交通インフラのパイオニアになるために、さまざまな角度から技術の研究開発を進めている。

(参照:スペシャルコンテンツ>6つのストーリー>宇宙エレベーター)