第3章
2017 2021
ESG経営と技術革新――持続可能な未来を拓く
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事業領域の深化・拡大〔1〕建築事業

環境共生とウェルネスの追求

ESG経営を推進する当社は、環境に対する基本方針として、持続可能な社会を実現するため低炭素・循環・自然共生社会づくりに取り組むことを掲げている。この方針に従い、当社は環境への負荷を低減するために、省エネルギーや再生可能エネルギーの使用、資源の再利用、廃棄物の削減などの対策を徹底し、快適な住環境を実現する「環境共生建築」を追求している。

当社ではこれまで、セメントの混合割合を減らして60~80%のCO2排出を低減した「クリーンクリート」、LVL(単板積層材)の一次接着品をボルトなどで一体化しロングスパンの木造構造物や中高層木造の大断面部材を安価に施工可能な「オメガウッド」、土壌に含まれる重金属等の汚染拡散を低コストで防止する「ソイルメタガード工法」のほか、多数の環境負荷低減技術や廃棄物利用・既存物利用技術、長寿命化技術、自然エネルギー利用技術などを保有し、これらを応用することで環境共生建築の実現に努めてきた。また、2017(平成29)年には環境建築熱負荷シミュレーションシステム「エコシミュレ」など、新技術の開発にも継続して注力している。

2017年8月、これらの技術を適用した環境共生建築として、テナントオフィスビル「oak神田鍛冶町」が竣工した。同ビルの建設にあたっては「クリーンクリート」を使用しCO2排出量を大幅に削減。国(経済産業省、環境省、農林水産省)が運用する「J-クレジット制度」において、CO2排出削減量555t(約4万本のスギが年間に吸収する量に相当)がクレジットとして認証された。同クレジットのコンクリートによる認証は国内で初めてだった。また、当社が開発したスマートビルマネジメントシステム「WellnessBOX」を国内で初適用し、実証を行った。同システムはIoTなどを活用し、ビル内で働く人の「快適」「健康」「便利」「安全・安心」などウェルネスの向上を図りつつ、最適な建物管理を実現するもので、当社はこの手法を「ウェルネス建築」と呼んでいる。

日本初の高層純木造耐火建築への挑戦

当社の「環境共生建築」「ウェルネス建築」の代表的な例として、大林組技術研究所本館テクノステーションや、2022(令和4)年の竣工をめざして横浜市に建築中の当社研修施設がある。この研修施設は、大林グループの持続的な成長に向けた研修施設であり、日本で初めて構造部材すべてを木材とした地上11階の高層純木造耐火建築物である。建設にあたっては、耐火木造技術「オメガウッド(耐火)」を構造部材として適用する。テクノステーションで得た経験とノウハウを活かしつつ、「WellnessBOX」でウェルネスの向上を図り、また環境関連技術を多数導入し、エネルギー消費量が一般的な建物の50%以下となるZEB Ready実現とLEED認証の取得、ウェルネスに配慮した建物・室内環境評価基準であるWELL認証の取得をめざしている。

(参照:スペシャルコンテンツ>技術研究所)

このほか「オメガウッド」を適用し28m×100mを超える大空間を木造で実現した内外テクノス本社工場(2023年竣工予定)の建築や、日本の森林資源を有効利用し、持続可能性と魅力ある暮らしを両立する森林と共に生きる街「LOOP50」建築構想の推進など、これからも当社は環境に最大限配慮した「環境共生建築」「ウェルネス建築」の実現に力を尽くしていく。

(参照:スペシャルコンテンツ>6つのストーリー>LOOP50)

完成予想図
完成予想図
建築中の研修施設(2022年竣工予定・純木造免震構造耐火建築物)
建築中の研修施設(2022年竣工予定・純木造免震構造耐火建築物)

安全・安心と品質の追求

当社は「安全と品質」を、事業を支える根幹と考え、企画・設計・施工・アフターサービスにおける一貫した品質管理と継続的な改善や、情報の共有や各種教育の実施、誠実なものづくりと技術のイノベーションなどに取り組むことで、安全・安心かつ良質な建設物やサービスを提供し、顧客の信頼に応えてきた。

社会や経済が激しく変化する時代にあって、建設物に求められる品質や性能も多様化してきた。地球環境問題、頻発する自然災害、少子高齢化などの社会的な課題の解決と、公共サービスや顧客の事業に貢献するという目標を見据えながら、「安全・安心」を追求するための技術の開発・向上に取り組んだ。

免震の技術では、建築基準法などが定めた地震動を超える大きな地震動が発生した場合に、免震建物が免震擁壁などに衝突した際のリスクを軽減する緩衝装置「免震フェンダー」を2017(平成29)年に開発、その後改良を行って中間層にも適用できるようにした。2018年には免震基礎のコンクリートの空隙判定試験時、AI技術を用いた写真画像分析で自動計測し、合否判定時間を大幅に短縮するシステムを完成させた。

2017年、既存天井の落下防止構法「フェイルセーフシーリング」の適用範囲を拡大するため、傾斜角30度までの傾斜天井や曲面天井など、特殊な形状の天井に適用できる技術を開発した。2019年には天井と空調機双方の耐震性向上を合理的に実現する天井制振構法「ロータリーダンパー天井制振システム」を開発し、一般財団法人日本建築総合試験所から天井制振技術で日本初の建築技術性能証明を取得した。

さらに2017年には、汎用木材を用いた高剛性・高耐力の柱を安価に製作・活用することで耐震壁を削減し、開口部などの制約を最小限に抑える木造技術「オメガウッド・カラムウォール」を開発。また、耐震補強壁工法「3Q-Wall」(サンキューウォール)の一つとして高強度の鋳鉄製ブロック(3Qダイアキャスト)を用いた新しい工法を開発した。

建築物のリニューアル工事の際には、耐震補強やBCM(Business continuity management:事業継続マネジメント)、アスベスト対策なども実施している。また、2018年には短工期・低コストでタイルの剥落を防止する外壁改修技術「リニューフェイス」を開発した。

「耐震改修優秀建築・貢献者表彰」(一般財団法人日本建築防災協会主催)において、2019年度(第9回)は武蔵野音楽大学ベートーヴェンホール(日本建築防災協会理事長賞)と京都南座、2020年度(第10回)は香川県庁舎東館(国土交通大臣賞)、ザ・ホテル青龍 京都清水、弘前れんが倉庫美術館が受賞し、当社の改修技術の高さが証明された。

なお、2021(令和3)年4月には、設計品質の向上・均一化を目的として、各店に配置していた設計要員・体制を設計本部に移管し、全店のプロジェクトを一元管理して柔軟な要員調整を可能にするとともに、品質チェックについても全店的に集約して実施することとした。

提案営業の推進(医療ソリューション)

医療・福祉を取り巻く状況は目まぐるしく変化しており、高機能・高品質に加え、将来の変化に対応できる施設づくりが求められている。営業総本部医療ソリューション部・設計本部・エンジニアリング本部情報エンジニアリング部の協働によって医療施設に関する提案力を強化し、医療・福祉施設において建設周辺分野も取り込んだ受注拡大を図った。

こうしたなか、2020(令和2)年2月以降、国内で急速に新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、医療施設の機能低下が懸念された。そこで当社は、2009(平成21)年の新型インフルエンザ流行に伴う病床不足に対応するために開発した「新型インフルエンザ対応緊急病棟」(パンデミックエマージェンシーセンター:PEC)を改良し、「新型コロナウイルス感染症対応病棟」を新たに開発した。医療機関が患者の症状ごとに求める機能に対し、5種類のユニットで対応できるようにした。なかでも「PEC Ⅱ」と「PEC/ICU」は、新型コロナウイルス感染拡大防止と医療スタッフの安全・安心な医療環境の実現という社会の要請に応えるために開発され、発注者の要望や敷地の形状に合わせることができるフレキシブルさと、発注から数週間で設置が可能なスピードを兼ね備えていた。

2020年12月、当社のPECシリーズを初めて適用した病棟が、愛知県一宮市にある一宮西病院の敷地内に完成し、感染者の治療に活用されている。2021年5月末時点で計5件の仮設病棟を設計・施工し、業界をリードした。

また、室内の環境表面を除菌する技術として2019年に特許を取得した「マルチミスト」は医療施設向けに装置のコンパクト化に取り組み、新たに「カセットミスト」をラインアップに加え、ミスト除菌シリーズとしてリリース。コロナ禍における院内感染防止策として多くの医療施設へ納入した。PEC・マルチミストは、共に医療施設が本来の医療を提供し続けるための技術であり、医療施設におけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)として高く評価されている。

資材搬送の自律化

建設現場では、日々、大量の資機材を繰り返し運ぶため、搬送作業の省力化・省人化が、生産性の大幅な向上につながる。

大林組は2018(平成30)年に水平方向(フロア内)で資材を自動搬送する低床式AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)を開発、さらに2020(令和2)年には、AGVとエレベーターを連携制御し、垂直方向の自動搬送もできるフォークリフト型AGVによるロジスティクスシステムを開発した。これにより、エレベーターを操作する作業員がいなくても、階数を問わず自律的に資材搬送ができるようになったのである。

この技術は日本橋兜町「KABUTO ONE」(2019年着工、地上部竣工2021年8月、全体竣工2023年予定)建設をはじめとする複数の現場に導入され、作業員は日々の資材運搬作業から解放されて、施工業務に専念している。

低床式AGVとセンサー・カメラ
低床式AGVとセンサー・カメラ
フォークリフト型AGV
フォークリフト型AGV
現場監視のイメージ
現場監視のイメージ