第2章
2015 2016
事業領域の進化と安定経営
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事業領域の拡充〔1〕建築事業

生産システムのイノベーション

建設業界では、建設現場を支える技能者の高齢化が深刻な問題となっており、2015(平成27)年に発表された試算(「再生と進化に向けて」一般社団法人日本建設業連合会)では、建設現場で働く技能者340万人の約3分の1に当たる110万人が、2025年までの10年間で高齢などのために離職すると予測された。このため人材の確保と育成に加え、省力化・短工期化を実現する工法の開発や生産システムのイノベーションが、建設業全体にとって喫緊の課題となっていた。

当社では建築物に関連するさまざまな情報や、設計から施工、維持管理に至るプロセスを3次元モデルで「見える化」するBIM(Building Information Modeling)を業界に先駆けて導入。また実際の建設現場では、床のPC化、大型システム型枠工法、2スパン分の柱と梁の鉄筋を地組みする工法などにより、作業時間の短縮に努め、省力化・短工期化を進めた。

工場で製造した柱、梁や接合部の部材を建設現場で組み立てるプレキャスト工法については、2008年にRC造高層住宅向けに独自の改良を加えて開発した「LRV(Left-Right-Vertical)工法」を2016年にさらに改良。土木・建築が協働して鉄道の高架橋建設工事にもLRV工法の適用を進め、さらに大幅に工期を短縮した。

各工区の作業量を削減・平準化する「水平多工区構工法」も導入した。工区割りを増やし、鉄筋・型枠・とび・土工工事の作業を1日程度で完結できるボリュームに細分化することで、各作業員が同じ作業を毎日繰り返し行えるようにした結果、工種間の空き時間がなくなり必要人員が変動しないため、作業員の確保がしやすくなった。また、毎日同じ作業内容のため作業員の習熟効果が上がったほか、型枠の転用回数が増え型枠数の削減にもつながった。なお、水平多工区構工法を活用した3R活動プロジェクトは、「平成27年度3R推進功労者等表彰推進協議会会長賞」を受賞した。

「持続可能な社会の実現」をめざす

2015(平成27)年9月の国連サミットで「持続可能な開発目標」(SDGs:Sustainable Development Goals)が採択された。また、同年12月に開催された「第21回気候変動枠組条約締約国会議」(COP21)では、気候変動抑制に関する多国間の国際的合意として「パリ協定」が採択され、日本もこれに批准し2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減(2013年比)する目標を打ち出した。

こうしたなか、「Obayashi Green Vision 2050」を掲げる当社は、建設事業を中心とした取り組みによる「低炭素・循環・自然共生」社会の実現をめざし、主要事業である国内建設工事でのエネルギー消費量を、2020(令和2)年に18%削減(2010年比)することを目標とした。そのための取り組みとして、ZEBに代表される省エネビルの提案・設計、低炭素化を実現する技術や資材の開発・普及等に加え、省エネ型重機の開発・導入や仮設照明のLED化、さらには作業に携わる一人ひとりの節電意識向上により、建設現場におけるエネルギー消費量の削減を図った。 

一方、新エネルギーに関しては、水素を燃料とする発電設備を用いたエネルギーシステムの本格利用に向けて、技術開発・実証に取り組んだ。経済産業省は、CO2を排出しない究極のクリーンエネルギーである水素活用に向け「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、その最初の一歩として、燃料電池自動車(FCV)用の水素ステーションを全国100カ所に設置することを掲げていた。当社は岩谷産業株式会社と水素活用プロジェクトに取り組み、各地で水素ステーションの建設を進めた。

2015年4月、当社が設計・施工を行った「イワタニ水素ステーション芝公園」が完成した。トヨタ自動車株式会社のFCVを展示する日本初のショールーム併設型の水素ステーションで、FCVや水素の特徴などを映像で紹介するなど、水素社会実現のための情報発信基地としての機能も担っている。

リニューアル工事への注力

リニューアル市場は引き続き拡大することが予想され、建築事業の一つの柱になりうる有望な市場であったため、リニューアル工事の拡大は当社の重点施策の一つに位置づけられていた。リニューアル工事分野でさらなる受注拡大と収益向上を図るためには、顧客に潜在する改修ニーズを的確につかみ、BCP(事業継続計画)支援や省エネ・創エネなど新技術をベースに、設計・技術・開発等の総合力を活かした提案により受注につなげることが重要であった。

そこで2014(平成26)年10月、設計本部にリニューアル設計部を新設、社内に分散していた建築リニューアル設計の機能を統合し、ノウハウの集約と設計要員の機動的な活用を図り、より高度で専門性の高い案件についてもきめ細かく対応できる態勢を整えた。

この時期に受注した主なリニューアル案件には、海ほたる15周年リニューアル工事(2012~2019年)や京都タワーの外壁・エレベーター等の改修工事(2013~2014年)、高松市美術館改修工事(2014~2016年)、日本生命日比谷ビル日生劇場改修工事(2015~2016年)、東京メトロ上野駅リニューアル工事(2015~2017年)などがある。

すみだ北斎美術館の新築――BIMの活用

2016(平成28)年4月、浮世絵師・葛飾北斎が生まれ育った東京・墨田の地に「すみだ北斎美術館」が完成した。

設計を担当したのは、世界的建築家・妹島和世氏で、四角柱と三角錐を合わせたような斬新なデザインだ。

下町のまちなみを構成する小さな建物とスケールを合わせた四つのアルミニウムのボリュームが上空で合体。各ボリュームにエントランス、美術品搬出入室、講座室、図書室が割り当てられ、講座室と図書室はそれぞれが独立してまちに開かれている。外観・内部ともに複雑な形状の連続である。

デザイン性の高い建築物の施工には困難が伴う。大林組は、この高難度の建築物に向き合い、BIM(Building Information Modeling)をフル活用した。まず意匠設計モデルと構造設計モデルを重ね合わせて調整し、躯体モデルを作成し、外装の主要頂点の座標を算出、型枠作成に利用した。アルミパネルとカーテンウォールの取り合い調整や承認もBIMモデルで実施。3次元断面を可視化して各種施工計画や製作図を連携させ、精度を確認するなど、難解な形を緻密に造り込んでいった。

また、各種モックアップや輝度の異なるアルミパネルの製作と設計者による確認を繰り返し、設計者の感性に合ったイメージを実現した。

外壁には淡い鏡面のアルミパネルを使用。周辺の景色を映り込ませることで、建物を地域の景観に溶け込ませ、三角の切れ込み(スリット)により緩やかに分断された外観にすることで、市街地との調和を狙っている。

すみだ北斎美術館は、街のスケール感に対し新たな解を示したことが高く評価され、2018年度BCS賞(一般社団法人日本建設業連合会主催)を受賞した。

BIMを活用して三次元した図面
BIMを活用して三次元化した図面
BIMを活用して三次元化した図面
すみだ北斎美術館外観
すみだ北斎美術館外観