大林組ダム情報化施工技術「ODICT®

Obayashi-Dam Innovative Construction Technology

 

ダムをつくる人たち

STAFF INTERVIEW

監理技術者 柱 征宏

50年前の革新技術を未来に残す

川俣ダム工事事務所 監理技術者

柱 征宏

岩盤PSアンカーを用いた川俣ダム

川俣ダムは、周辺の地形を活かし、少ないコンクリートボリュームで大量の水を貯められる効率的なアーチ式コンクリートダムをめざして、1966年に建設されました。アーチを支える岩盤の強度を高めるため、当時の最先端技術である岩盤PSアンカーを用いた岩盤改良工事が採用されています。岩盤PSアンカーは1964年に英国・エディンバラで開催された国際大ダム会議でも画期的な工法として絶賛されたものです。建設から半世紀を経て、2017年からリニューアル工事を実施。ダム建設時に施工した既設アンカーの間に、今回新たに更新アンカーを施工し、岩盤を補強するものです。
2020年7月、予定していたアンカーの施工を無事終えることができましたが、ここに至るまでには多くの課題がありました。アンカーの設計から削孔(さっこう)、挿入、注入、緊張作業に付随する技術の開発や急峻な場所へのアンカー構台設置といった技術的課題やコストパフォーマンスの問題も含め、手探り状態での作業が続きました。また、私自身も供用中のダムの施工は経験がなかったため、下流域の住民の飲用水や農業用水、発電などのインフラを妨げないよう、工程管理には細心の注意を払いました。
そうした課題を一つひとつクリアし、岩盤PSアンカーの専門家に協力を仰ぐなど国内外の知識と技術を総動員して、ようやく工事の完了が見えてきました。また、結果として今後の岩盤PSアンカーの基準となるようなさまざまな知見を得ることもできました。

若手技術者の育成

私が入社して最初に配属されたのはダム技術部でした。その後は東北でのダム建設を皮切りに、日本中の土木建設現場を回っています。胆沢ダム建設の際にはコントラクションマネジメント(発注者の立場に立って建設工事のコストダウンや品質改善に取り組む業務)を担いました。この経験は、現在の監理技術者という立場として発注者と協議する場面でも活かされています。
ダムに限らず土木工事の現場では技術者が減りつつあります。大林組では作業のICT化に力を入れていますが、それでも人の手が必要な部分は必ずあり、技術の継承が課題となっています。幸い、本工事には20代、30代といった若手も多く配属されています。「土木は経験工学である」といわれるように、実際に携わって作業することがとても重要。大規模な自然災害が頻発する昨今、彼らがこの川俣ダムで得た経験を活かし、周辺住民の生活や安全を守るダムを建設できるように育成するのも私の役目です。

監理技術者 柱 征宏

〈川俣ダム工事概要〉

川俣ダムは、利根川水系鬼怒川に1966年に建設された、高さ117mのアーチ式コンクリートダムです。ダムからの力に対する岩盤の安定性対策として、岩盤内にPC鋼材を挿入して緊結し補強する岩盤PSアンカーを採用。基礎岩盤の一体化を図りダムの安定性を確保してきました。建設から約50年を経過した岩盤PSアンカーの健全性について調査した結果、対策が必要となり、既存のアンカーの間に、新たな更新アンカーを追加し岩盤を補強する工事を行っています。

工事名:川俣ダム周辺部補強工事
工事場所:栃木県日光市川俣
発注者:国土交通省 関東地方整備局
施工者:大林組
工期:2017年3月〜2021年3月