第1章
2011 2014
収益基盤の多様化とグループ経営の推進
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収益基盤の多様化

「中期経営計画 '12」の策定

当社は、2008(平成20)年度を初年度とする5カ年計画「中期経営計画 '08」に基づくさまざまな取り組みを進めてきた。しかしその間、リーマンショックの発生により受注環境が著しく悪化し、さらに東日本大震災や歴史的円高の長期化など、当社の事業に多大な影響を及ぼす事態が続発した。こうした事業環境の激変に対して、柔軟かつ強靭に対応できる収益構造へと変革するため、計画の最終年度を待たずに、新たに2012年度から3カ年を実施期間とする「中期経営計画 '1220122014年度)」をスタートさせた。

同計画では「基幹分野のさらなる成長」に加え「収益基盤の多様化」を推進し、グループとしての収益力を高めることを目標とした。

「基幹分野のさらなる成長」については、国内建設事業の収益性を改善するため、グループ内で情報を共有し、技術や資産を相互活用するなど連携強化を図った。国内土木事業では、防災・減災を含む安全・安心のための社会インフラ整備への取り組みを強力に推進した。開発事業では、賃貸事業を主とする安定的収益基盤の拡充にグループ一体となって取り組み、事業拡大に向けた投資を進めた。東京・大阪など都市圏のオフィスビルに引き続き投資を行い、賃貸事業利益を増加させるとともに、販売・分譲不動産事業に機動的に投資することで利益の上積みを図り、開発事業を建設事業と並ぶ中核事業に成長させ、安定的な収益の確保をめざした。

一方、「収益基盤の多様化」については、基本方針として地域や事業領域を選択したうえで「海外へのさらなる戦略的展開」を進めるとともに、当社が培ってきた技術・ノウハウなどを新たなビジネスモデルで事業化する「ビジネス・イノベーション分野の発掘・育成」に努め、建設事業の競争力として機能してきた技術では「利益を創出する技術への進化」を図ることの3点に注力した。

経営目標としては、収益力強化の指標として連結営業利益率を重視し、計画終了年度の2014年度までに3%を達成するとともに、株主資本利益率(ROE)を8%以上に引き上げることをめざした。

中期経営計画 '12

収益基盤の多様化の推進

「中期経営計画 '12」では、基幹分野のさらなる成長に加えて、新たな事業領域への進出による「収益基盤の多様化」を推進した。そのために次の三つの基本方針を掲げた。

一つ目は、「海外へのさらなる戦略的展開」である。海外建設事業では、リスク管理および経営資源の選択と集中の観点から北米、東南アジア、中東の3地域およびオセアニアを重点地域として、各地域の特性に応じた戦略的な事業展開を進めた。同計画では、建設事業における連結ベースでの海外売上高比率を20%超にまで高めることを目標とした。これにあわせて日本国内で外国籍社員の採用を増やすなど、人材のグローバル化を進めた。

二つ目は、「ビジネス・イノベーション分野の発掘・育成」で、大林グループがこれまで培ってきた技術・ノウハウを、新たなビジネスモデルによって事業化することをめざした。その一例が、2012(平成24)年7月に設立した大林クリーンエナジーによる再生可能エネルギー事業への参入で、業界に先駆けて太陽光発電を中心に風力、バイオマス、地熱、小水力などを利用した「創エネルギー事業」の推進に取り組んだ。また、そのほかにも農業の新しい形態である太陽光型植物工場などに取り組むことで、事業領域を拡大していった。

三つ目は、「利益を創出する技術への進化」で、それまでは工事獲得のためという位置づけであった技術そのものについて、新たな収益源とする方策を探った。生産施設などの建設をトータルコーディネートするエンジニアリング事業の拡大や、技術を活用したフィービジネスなど、大林グループに蓄積された多様な技術・ノウハウを新たな利益創出へとつなげることをめざした。

なお、三つ目の方針に関連して、2012年4月には「医療福祉推進部」(2006年5 月設置)をエンジニアリング本部から技術本部に移管し、技術営業支援の強化を図った。

また、2014年3月には1994年に開業した「ハイアット リージェンシー大阪」(当社設計施工)を売却、運営会社「エイチ・アール・オーサカ」を同年9月に清算し、ホテル事業から撤退した。赤字経営が続き、本業とのシナジー効果も見込めないことから、他の事業に集中していくための経営判断であった。

大林グループの社会貢献活動

大林グループは、「地球環境への配慮」「防災と災害時の復旧・復興」「地域社会との共生」「次世代の育成」を重点分野として、多様な社会貢献活動を行っている。

工事現場では、見学会はもとより、個別の現場の特性と経営資源を活かした活動なども行う。例えば、新東名高速道路稲木トンネル建設では、「生き物引っ越し大作戦」(2011年)と称して事業主体(中日本高速道路)や地元自治体(新城市)との相互協力のもと、工事範囲内の河川に生息するアマゴやアカザなどの希少水生生物の保護に取り組むとともに、青少年の自然保護教育事例としても活用し、環境配慮型の工事施工を実現した。

三陸沿岸の「復興道路」建設現場では、2015(平成27)年に地元唐丹(とうに)小学校の児童たちとサケの稚魚5,000匹を放流した。稚魚の放流は、震災前から実施されているものであったが、地域の行事に参加して工事の様子を伝えたいと考えた大林組JVは、現場の片岸川沿いの資材置き場を放流の場として提供し、工事の進捗状況を紹介するとともに、児童を川岸まで誘導するなど安全面でのサポートをしながら一緒に稚魚の放流を行った。

また、PFI 事業で整備・運営に携わっている刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」では、日本で初めての試みとして、社会貢献活動を通して訓練生 の自己肯定感や他者への共感力を育むとともに、達成感や責任感を培うことを目的として、日本盲導犬協会、法務省矯正局と協働で、2009年受刑者(訓練生)が盲導犬候補の子犬(パピー)を育成するプログラムをスタートさせ、その後も実績を積んでいる。

なお、海外グループ会社でも、ウェブコー社(米国)は老人ホームやボーイスカウト施設など、高齢者や子どもたちのための施設の再建・改修を行う建物再生ボランティア活動を実施。タイ大林では2007年から、地元の小学校の敷地内などに図書館を建設し、本とともに寄贈する取り組みを継続し、建設会社ならではの地域貢献活動となっている。

タイ大林が建設した小学校の図書館
タイ大林が建設した小学校の図書館