第1章
2011 2014
収益基盤の多様化とグループ経営の推進
4

収益力の強化〔4〕新領域事業

PPP/PFI事業の取り組み

当社は新領域事業の中でも、さらに拡大が見込まれるPPP/PFI市場において積極的に受注を拡大していった。

当社は「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)の施行前から、社内に専門委員会を設置して、PFI事業への参画について検討を進めてきた。1990年代にはすでに「スタジアム・オーストラリア」や「シドニーM2高速道路」など、日本国内に先行して海外でPFI事業を展開してきた。

日本では1999(平成11)年9月のPFI法施行を受けて、同年12月にPFIの専門部署を社内に設置し、2000年4月に国内初の大型PFI事業「神奈川県立保健医療福祉大学(仮称)施設整備事業」を受注した。以来、学校や病院、文化・スポーツ施設など幅広くPFI事業を手がけ、代表企業としての実績は国内最多を誇っている。

この時期に当社が手がけた主なPPP/PFI事業には、衆議院新議員会館整備等事業、大津地方合同庁舎(仮称)整備等事業、京都市上京区総合庁舎整備等事業神奈川県立がんセンター特定事業京都大学(桂)総合研究棟Ⅲ(物理系)等施設整備事業徳島県県営住宅集約化PFI事業大久保浄水場排水処理施設等整備・運営事業などがある。

神奈川県立保健福祉大学
神奈川県立保健福祉大学

新領域事業の創出

「中期経営計画 ’12」では新収益分野の重点項目として、エンジニアリング事業の強化、太陽光発電事業など再生可能エネルギー事業への取り組み、ビジネス・イノベーション分野の発掘・育成が掲げられた。

このうち再生可能エネルギーについては東日本大震災後にエネルギーソースの多様化が社会的要請となっており、再生可能エネルギー特別措置法の施行等による規制緩和や制度変更に伴って、太陽光、風力、バイオマス、地熱などによる発電の需要が高まっていた。

そこで2012(平成24)年7月に「再生可能エネルギーによる発電ならびに電気の供給及び販売等」を目的とした100%子会社、株式会社大林クリーンエナジーを設立した。そして社有地有効活用の一環として、京都府久世郡久御山(くみやま)町に建設した自社開発の賃貸用物流倉庫の屋根に、出力約1MWの太陽光発電パネルを設置して、大手建設会社で初めて太陽光発電事業に本格参入した。

さらに「くまもとソーラープロジェクト」の一環として公募された、熊本県芦北町有地における大規模太陽光発電事業(メガソーラー)において、当社が芦北町から発電定格出力約15MW(その後20.1MWに規模拡大)の太陽光発電施設の事業者として選定された。当社はこの発電施設の管理・運営会社として2012年11月にOCE芦北メガソーラー株式会社を設立。芦北太陽光発電所は2014年4月に完成し、発電を開始した。

その後も、2015年3月までに日本全国で19カ所(出力総計71.0MW)の発電施設が稼働するなど、太陽光発電事業を拡大していった。

一方、ビジネス・イノベーション分野については、2011年4月にビジネス・イノベーション室を新設し、既成概念にとらわれない柔軟な発想で、新規事業の発掘・育成に取り組んだ。当社がこれまで建設事業で培ってきた技術・ノウハウと潜在的なニーズとをマッチングさせ、利益を創出する技術へと進化させることで、新たな事業展開をめざすこととした。

その一例として、省エネ・低コストの植物工場の開発を行った。建設事業で培ってきた生産施設の設計、建設、維持管理などのノウハウと、世の中で高まっている食の安全性や安定供給というニーズをマッチングさせたもので、2014年11月に株式会社オーク香取ファームを設立し、2016年3月に太陽光型植物工場による営農を開始した。

2014年10月には、技術本部ビジネス・イノベーション室とPFI事業部を統合再編してテクノ事業創成本部を新設した。当社の持つ技術やノウハウなどを活かし、新たな領域での事業の展開をさらに加速させることが狙いで、建築事業、土木事業、不動産開発事業に次ぐ収益の柱とすることをめざした。

芦北太陽光発電所
芦北太陽光発電所

医療現場のために

2011(平成23)年7月、大阪ステーションシティ「時空(とき)の広場」で、微細な霧を吹き付けて空気を冷やす「さらっとミスト」の本格運用が開始された。当社が開発した「さらっとミスト」は触っても濡れない微細な霧を噴霧し、気化熱により空気を冷却するシステムだ。粒子径10ミクロンの霧を噴霧できる二流体噴霧ノズルを採用したことが特徴で、屋外冷房システムとして採用されている。

2010年代にはO157やノロウイルス、新型インフルエンザなどの流行を背景に、医療・福祉施設や子どもの利用が多い施設での接触感染を予防するため、手すりや什器など環境表面の除菌・ウイルス除去のニーズが高まった。当社はこの「さらっとミスト」を応用し、医療施設の感染症対策、食品工場の食中毒対策として、ミスト噴霧によって少量の薬剤で室内全体を除菌できる技術「マルチミスト」を開発、性能評価実験を繰り返した。

2018年6月には、病院の改修・解体工事におけるカビ感染症対策技術「アスペルバスター」の開発について発表。改修・解体工事の前に天井裏に「マルチミスト」を応用した薬剤を噴霧することでアスペルギルス菌を90%以上除菌し、菌の飛散による感染リスクを短時間で大幅に低減させることができる。一つの技術が新たな技術を生み、新たな事業を創出している。

2020(令和2)年から2021年にかけてのコロナ禍では不在時に自動で環境表面除菌ができる設備や持ち運び可能な除菌装置「カセットミスト」を開発し、社会のニーズに応えた。

感染症対策は永遠の課題だ。当社は、これからも医療現場と人々の命と生活のために、技術開発で貢献していきたいと考えている。

図:マルチミストの活用例
図:マルチミストの活用例